七百五生目 脱出
アラザドを転生させた。
とりあえずテテフフへの連絡もしなくちゃならないし。
ここから脱出しよう!
転移魔法準備もしていたから……
「ん?」
アラザドの身体全体が灰となって崩れ去る。
けれど私の方へと何か攻撃的脅威のないものが飛来してきた。
"怨嗟喰い"で捕食するものかと少し身構えたがどうも違うらしい。
私の手元で浮かび上がる。
何かきれいな結晶の塊……なのだが。
明らかに欠けている。
手のひらサイズだが掴もうとするとするりと避けられる。
なんなんだこれは……?
なんともできず私の周りを回っているので置いておこう。
アラザドの身体は灰と化し山と積もる。
先程の服装の切れ端や牙それに灰そのもの……
どうやら"観察"してみたらどれもこれも魔力がこもっていて価値が高そう。
適当に回収した。
さあ脱出……!
「くっ!?」
転移が弾かれた!
やはりこの結界自体が神を封じていただけある!
ならば!
この魔方陣のそばへとよって解析開始!
文字を読み取り相互に魔力を流して情報を受け取る。
……やはりかなりガッチリアラザドを封じているらしい。
ただアラザド自体が復活で抜けかけたというのとこの結界はアラザドに特化しているというのと。
なんとか……抜け道は……
…………
あった!
アラザドのような力技じゃなくともいけそう。
長年の結界だから劣化や旧技術もあり私ぐらいの小ささでなおかつアラザドがいない今なら……
魔法陣の一部をちょちょいといじって……
よし! クリア!
空間に再び穴があいたよ!
あそこを通って普通に出よう。
穴の向こう側に出れば再び倉庫!
成功だ。
そこには呪いの効果で疲弊しているデュランマと……
「無事のご帰還何よりです、主」
「おや、面白そうな事はもう終わったのかな?」
「アヅキ! そーくん! ありがとう、こっちの異変は?」
アヅキと蒼竜だ。
かぼちゃの変装は……うん。
ちゃんと隅にしまってあってバレていない。
「連絡によると、一度ここの穴が閉じたあたりで赤い月は元に戻り、不穏な気配は各地で観測されなくなりました。再び穴が開き主が現れたといった経緯です」
「まあ少なくとも、向こうから何かが飛び出てきたということはなかったよ。だから暇ではあったね! 穴に入って閉じ込められるのも嫌だしね!!」
「うん、だいたい分かった」
どうやらこちらへの実害は無しだったようだ。
空いた穴も自然に消え何もなかったかのように閉じた。
まあさっきの魔法陣に細工したからアクセスしようと思えば出来るのだけれども。
とりあえずみんなにも連絡をしてことの顛末を伝える。
お客さんたちは何も気づかず何事もなかったかのように遊び続けるはずだ。
さてそれから。
「うーん、この呪い、なかなな根深いね……」
「うう……」
「僕やアヅキくんでは治せないし、彼もこの場から離れたがらなかったからね」
頭に受けた呪いを"無敵"で癒やして返した……と思ったがまたぶり返しだしている。
さっきみたいに急激な変化はないが馬の彼にはおかしいパーツがあちこちから
出ている。
コウモリのハネとか。背びれとか。
攻撃としてのダメージは今回復させたがやはりアラザドがもっとも得意とする技の呪いは多少のやり方では難しそう。
元とは言え神たる力をこうして見せつけられるとは。
「この呪い、私では荷が重すぎる。誰か得意な方は……」
「ふむ、ではプロに依頼しましょうか」
「ああ、彼らね」
「彼ら?」
アヅキの提案にピンと来ない。
果たしてその相手とは。
「っと、その前にだ。それ、どこで手に入れたの? やはりさっきの中?」
「ああ、うん。コレなんだろうと思って。ずっとついてくるんだ」
蒼竜が指摘したものは私の周りをクルクル回っているさっきの結晶。
絶妙にうっとおしくならないようについてきているのがなんだかかわいらしい。
なお"観察"の対象にできなかったあたり実体があるのかすらあやしい。
「これは……まあ言っちゃうか。絶対わかんないし。これは神のカケラ……神格の一部。しぼりかす、ギリギリゴミに到達していない貴重なものだよ!」
「なんだか凄そうなのにまったくすごくなさそうに聞こえるんだけど……」
「実際それだけだと何もすごくないし、僕と共にある神格の結晶はそんなホコリのようなものじゃないよ! 見るかい? まあ見られないけどね!」
うん。この感覚こそは蒼竜だ。
突然どこからかブーメラン飛んでこないかな。
非常に大げさにリアクションして腹を抑えながら笑っている。
とりあえず魔法を唱え抵抗しないように言ってからデュランマを浮かせる。
これなら持ち運びもらくらくだ。
どこへ行くかまだ知らないけれど。




