六百九十七生目 昼夜
「ええと、なんだったっけ」
「なんでローズがバカなのかってところカボ」
蒼竜の蒼竜お面屋で話し込む。
ブーメランを投げて蒼竜に当てた子は将来投擲の才能がありそうだ。
「ああ、いやね? 彼女は笑っちゃうほどにおとなしいんだよ。彼女は戦闘力、名誉、権力、人望、そして神の力。ありとあらゆる物を手に入れ、およそ出来うる限り個人の成長をした。それを短期間で成し遂げたのなら、増長して……いやむしろ真っ当に大暴れしないだろうか?」
「うん……? 大暴れカボ……?」
「なにせ、なんだって出来るんだよ? それこそ周りを使えば一生遊んで暮らせるかもしれない。それなのに、まだどこか遠くへ向かって走って行こうとしておる。延々と自身を痛めつけるような走り方してさ、そりゃあバカってもんさ!」
爽やかな笑顔をしてものすごい罵倒された。
こっち中身明かしていないから仕方ないけれど。
「すごい言い草カボね……」
「まだまだ、言い足りないなんてもんじゃないさ、でも、だからこそ……たとえ神だとしても、彼女からは目が離せないだろうね! それにしてもなんであんなにがんばってるのかな……」
「うーん、まだ自分の遊びたい理想に、追いついていないからじゃないかな……カボ」
蒼竜が指を鳴らして目を見開く。
あやうく私を全面に出しかけてしまった。
「ほほう! それは良い目のつけどころだね! まあ、本当にそう思っているのなら、僕すらわからないところまで行きたがっているのかもね……! より面白そうだ!」
「ま、それは良かったカボ」
「あ、おじちゃん! これ!」
「お! 蒼竜のお面かい? これはありがたいお面でね――」
蒼竜は子どもの接客に忙しそうだ。
余計なことが起こらなければ良いから放っておこう。
触らぬ神に祟りなし。
このエリアには冒険者ギルドが立っている。
魔物やニンゲンたちの冒険斡旋を普段はしているのだが……
今は冒険者総出でハロウィンだ!
基本的には仮装をしつつ町中で仕事をしてもらっている。
スタッフとして立ち回ってもらったり私服警備をしてもらったり。
とはいえ基本的には彼らも楽しむことがメインだ。
「トリックオアトリート!」
「はい、どうぞー!」
「ありがとー!」
冒険者の魔物が観光客のニンゲンたちにおかしをもらっていた。
みんな目を輝かせている。
「これが私たち流の感謝ー!」
「きゃー!」「ふわふわ!」
魔物が頭を相手の身体に押し付ける。
ゴシゴシされ喜ぶニンゲンたち。
ついでにゴシゴシとなでられて魔物はご満悦だ。
そんな平和な光景はともかくとして。
ここらへんには……いたいた。
イタ吉だ。あとアヅキもいる。
「こんにちカボ! ぼくハロウィンのマスコット、ジャック!」
「うおっと!? 誰だが知らないけれど気合入ったコスプレしてんな」
「うん!? なんだこのにおい。お前正気か?」
「コスプレには……命をかけたカボ」
私に対してタメなアヅキというのが珍しい。
さすがにこれはアヅキすらも看破できないだろう。
「それにしても珍しいカボ。そこのイタ……刃物くん、夜行性の魔物じゃなかったカボ?」
「うん? 俺か? ああまあな。ただ色々忙しかったから昼夜動けるようになったのと……俺は『夜ふかし』好きだからな」
「つまり昼夜逆転生活していると。夜行性の魔物がな。俺は健康面からあんまり勧めてないんだがな」
アヅキの仮装はオーソドックスな吸血鬼の衣装。
しかしクチバシから無いはずの牙がチラつき黒い羽根が相まってどこかホンモノを思わせる迫力がある。
「まーそれは個人の自由カボ。それよりかハロウィンは楽しんでいるカボ?」
「ああ! まあそれはな! ローズが話を持ち込んできた時は、正直どうかと思ったが……やってみたら案外楽しいな!」
「主の……ローズ様の予想通りということ。ローズ様は真、知略に溢れおられる。だからこそ我々は安寧した日々を過ごせるのだ」
「絶対そこまで考えてないカボ」
アヅキの視線がキッとこちらに向けられる。
うわっ。なんだなんだ。
「何を言う! 主の素晴らしさを、貴様は分かっていないだけだ! そもそも貴様は誰なんだ、よもやこの機会に潜り込もうとした敵――」
「はいはい、向こうでやろうか。ごめんな、ローズはまああらゆる意味でとんでもないやつだから俺もどうせ思いつきだろって思うんだけどな。それでうまくいくのはあいつだし……よいしょっ!」
「ぐぬおおおおっーー! ――――!」
アヅキがイタ吉により連行されていった……
へんな形でふたりの私に対する評価を受けることに。
アヅキはもう少し落ち着きがないのだろうか。
今度はお菓子デコレーション風味の強い区画にやってきた。
あちこちで菓子が飾られそして売られている。
お菓子の受け渡しはなんだかふれあい広場じみている。