六百九十五生目 手品
魔法を手品のようにしてお菓子を取り出したら好評だった。
さてカボチャマンのジャックになりきらないと。
「このお菓子をあげるけど、これは食べないでほしいカボ」
「というと?」
エリが聞き返してくる。
だんだんとうまく乗ってきている。
「このお菓子は街にいる魔物たちが『トリック・オア・トリート!』と言ったらあげて欲しいカボ。あげないとイタズラされちゃうカボよ」
「なるほど、そういうお祭りなんですね」
ソーヤの言うとおりである。
さらに私はお菓子を裏返す。
「こっちの板は、首から下げておくと『おかしありません』の合図カボ。これを付けている時にトリックオアトリートって言われると、イタズラされるから気をつけるカボ」
「それじゃあつけないほうが良いんじゃあ……」
「でも、ちょっとされてみたいかも、イタズラ」
エリが首をひねてアマネが笑う。
そうそう。
そうきてくれるとやりやすい。
「そのノリカボ! ちなみにこれらはあちこちで売っているから、どんどん買い足すと良いカボ! おかしをあげると魔物とニンゲン、どちらでも仲良くなれるカボ!」
「はーい! 私魔物たちともっと仲良くなりたーい!」
「ははっ、まあ僕たちはローズさんと仲良くしているけれどね」
おっ。私の話だ。
冷静を保たないと。
「でもローズさんだけじゃなくて、他の魔物とも仲良くはなりたいよね」
「よーし! みんなをモフるぞー!!」
「アマネ、セクハラにならないようにね……ではジャックさん? ありがとうございました」
「はいカボー!」
去っていく5人組。
ところで……なんで双子は渋い顔をしたままなんだろう。
「さっきのは……」
「かなり高度な魔法だったよね」
「測りきれなかった」
「味方で良かった」
ヤバッ。
双子たち思ったより魔法感知能力があったんだ。
結構隠したんだけれどなあ……
まあ私だとバレなきゃ良いや。
さあ次々。
「さあさあ! このハロウィンのマスコット、ジャックカボ! お祭りの説明とお菓子配りやってるカボ!」
自分以外にもこういう係はいるものの私も楽しまなくっちゃね。
しばらくしてから場所を移動しジャイアントクラスエリア。
ココは何もかもが大きな魔物のエリアだ。
1つ目のサイクロプスなんかもここにいる。
このエリアは当然飾り付けも豪胆。
私やニンゲンが作るにはあまりに時間がかかるだろう巨大コウモリの模型やジャック・オー・ランタンがあちこちに並べられている。
そんなおぞましさと1種の巨大美が合わさった景色は迎え入れるものをまさに異世界へと誘う。
「うわ……首が痛くなる」
「見て! このカボチャわたしより大きい!」
「一周回ってかわいい!」
巨躯を活かして仮装している魔物たちは派手な装飾品を肩から角から垂らしている。
サイクロプスたちも鍛冶をしつつカボチャ頭になっていた。
それは別に熱避け道具ではない。
「こんにちカボ! ハロウィンを楽しんでいるカボ?」
「誰だ? 見たこともないし……そんな甘い臭いのやつはしらんな……」
「ハロウィンのマスコット、ジャックカボ!」
「あー……仮装を押し通すわけか。まあいい、楽しんでいけ、俺達は俺達なりに楽しんでいる」
そういうとサイクロプスたちは再び鍛冶作業をしに戻る。
仕事をしているのでは……?
「んん? 働きに行くカボ?」
「いや、これは趣味で作っているものだ。趣味で鉄塊を造り、造形し、仕上げる。それにこの姿は、見ている方もなかなか好きらしくてな。お前もそう思わないか?」
「そ、そうカボか。身体を壊さないように遊ぶカボ」
実際のところみんなサイクロプスたちが常識外の炎量やマグマだまりみたいな熱した鉄を見ては歓声を上げている。
それらがサイクロプスたちの手によって鍛え上げられるのだから余計にだ。
作成美というやつかな。
サイクロプスリーダーも相変わらずおかしいほど大きなハンマーを軽々振り下ろしている。
私に気づいてひと通りの会話を交わして。
「まったく、アイツにここまで連れてこられなければ、こんな歓声を浴びながら鉄打つだなんて思いもよらなかっただろうなあ」
「お、ローズの話カボ? か、彼女のことどう思っているカボ?」
ちょっと踏み込めそうだったので一気に踏み込んでしまったぞ。
ドキドキする。
「アイツのことか? そうだなあ。最初はとにかく変わってて……そして恐ろしく強いと思ったな。俺が負けを認めるほどにな。だからこそ今この場所をもらい、アイツと共に町を作り、こうして鍛冶の腕を振るっているのが、なんだか変でしょうがなくてな。まあ……俺たちの良し悪し基準とはかなり違うが、面白いやつだよ」
「ほ、ほほーカボ。良いこと聞いた気分カボ!」
「アイツには言うなよ? 恥ずかしい」
照れくさそうに仕事道具へと向き直った。
聞いているこっちが恥ずかしくなりそうだ!
中が私だと気づかずに話してくれたのだから。




