六百九十二生目 仮装
トリック・オア・トリート! と言われた。
なのでそそくさと私は用意してあったお菓子をだすのだ。
今は普段の姿なのでうまくかごを咥えて……と。
「ほら、中身を3匹で分けてね」
「「ありがとう!!」」
中にはきれいな葉にくるんだビスケット。
いくつかあるうちのビスケットを半ば奪い合うようにしてもっていった。
「コラコラ、他の家もあるんだから! みんなと仲良く分けようね!」
「「はっ、はーい!」」
争いをおさめたあとは家屋見学。
ここは一部を見学ルートとして解放している。
私は実際の日ここを空ける予定なのでせっかくだからとコースにしたのだ。
もちろん私室や倉庫は封印している。
これで心置きなく見て回ってもらえるわけだ。
もちろんただ施錠してあるわけじゃない。
[ロバーストネス 対象の物体が動かない状態で頑強化する]
聖魔法で壁や扉に使う魔法だ。
盾は動かして使う戦法が前提なので基本的に使えない。
扱いにくそうで案外便利だ。
誰かを牢屋に閉じ込めたいときに!
開けられたくない扉をしっかり戸締まりするさいに!
これを破壊するなら天井から穴を開けたほうがマシと言われれば立派な"ロバーストネス"だ。
それを使って封印してあるため当然彼らも何か出来るわけではなく。
当然のように家を一周して出ていった。
「「ありがとーございましたー!!」」
「はーい!」
さてお試しの参加者たちはつぎつぎやってくる。
次のカゴを持ってこなくちゃ。
彼らはあちこち回ってお菓子をたくさんゲット。
その後キノコだらけのエリアにやってきた。
もちろん本物っぽく作ってある偽物。
大きなキノコたちの森に迷い込んだかのよう。
そしてここではすでに準備している魔物たちがうろついている。
彼らは……
「うわあっ!?」「ひゃあ!?」「おばけっ!?」
「おいっす! 楽しんでいるかー?」
声をかけたイタ吉の姿。
背中に大きなコウモリの薄羽。
頭にシルクハット。
スラリと伸びた牙が主張をし顔はするどい視線が強調されたメイク。
そして尾の大きな刃にたっぷりとついた血糊。
うっかり夜に出会いたくない吸血鬼ファッションだ。
「吸血鬼って言うんだ、かっこいいだろろ? 血ー吸ってやるぞー」
「ひやー!」
「あはは、こわい!」
「びっくりした……」
イタ吉がノリノリで両足を頭の横に構えてポーズをとる。
つまり襲いかかりのポーズ。
変な声色とあわさってちょっとおもしろい。
そうこうしてひとしきり遊んだあと。
さっきまでの緊張がほぐれた3匹は笑いあったあとさらに周囲に仮装魔物が集まってくる。
「うわっ」「びっくりっ」「いつの間に!?」
「包帯ドラゴンだよー!」
「ガハハ、ゾンビ熊だ!」
マミーマンのドラーグにゾンビのジャグナーだ。
全身にしっかり巻いた包帯とまとうボロ布が目立つが腕先はほぐれているのと数少ない見えている部分は血色の無い青緑色をした鱗をしている。
ドラーグは10%モードなら大きなニンゲンサイズなのは前の通りだが腕先などの一部も影に溶かしてなくせるらしい。
なので体格から考えたらあるはずの位置に腕先がない。
それに気づいた参加者たちがキャッキャッと包帯をひっぱったりしていた。
「うわーっ!? これどうなっているの!?」
「ふふふ、どうなっているでしょーか?」
そしてジャグナーのゾンビも変装が凝っている。
私の光神術"ミラクルカラー"で色が簡単に変えれて戻せるからみんな気軽に自身に着色する。
腐ったような部分が緑の色となり身体の岩たちはこけむしている。
ところどころハゲている風で目は右と左で大きさが違い片方飛び出ている。
仕組みとしては本物の目の上に偽物の大きく見える眼球カラーに塗っている。
口からもだいたんに舌を垂らしている。
「うわ……フサフサの草、本物だ」
「顔がコワイ!」
「ようし、お前たちも体験してこい! あっちだ!」
3匹の参加者たちは連れ歩いて別のところへ。
その間もたくさんのスタッフ仮装がおめみえ。
各々驚かしたり笑い合ったり和やかに進む。
彼らが案内された先はちょっとした屋台。
座る場所があり妖精族が魔女のコスチュームをして待っていた。
「こんにちはー! ここでは軽くメイクをしてあげるよ!」
「やり方を教えるから、本番でもよろしくね!」
「「はーい!」」
みんなみたいな本格的なものではない。
軽く判子を押したりペタペタ塗ったり。
適当な被り物を買ったりしてくれればそれだけで完成。
「「ありがとう〜!」」
顔にかわいいもようをかいた3匹が浮かれ気分でコスプレイヤーたちに混ざっていく。
ハロウィンは夜が本番だ。




