六百九十生目 競争
キラーコッコのプリンセスたちが部下たちをこき使って木の実集め競争していた。
それにしてもこれだけ集めても使いみちはなさそうだなあ。
「……と、そういえば何か用があったのではないか?」
「いや、そんなに用があったわけじゃあないんですけれど……どちらかと言えば用があるのは……こっちですね」
プリンセス赤青黄色がコロコロチリチリと鳴らしている鈴なりの木の実。
見た目はくるみのようだが中身から金属の鈴音がする不思議な木の実だ。
その音が鳴れば収穫時期。
「なるほど。あの木の実、集めるのは良いが我々ではそう使いみちがないと思っていたところだ」
「ああ、やっぱり割ってみたことあります?」
「さんざん苦労してな。それで……」
何かを思い出したかのようにコッコクイーンは翼で鼻を抑える。
そうこの木の実は中身が。
「すごい臭い、ですよね……」
「ああ、アレはまさにかおりの爆弾だ。好んで食う種族が信じられん。ひどく甘ったるい」
あのにおいはなんて言えば良いのか。
私なんかは鼻が良すぎる影響で正直甘いにおいでむせる。
鼻の中に焼けたはちみつを塗り込むかのごとくめちゃくちゃな甘さだ。
しかも質感的には甘いものを食べあきた時のもの。
なおこれを好んで食べる種族は知っている。
ニンゲンである。
「と、言うかそんな木の実をなぜ貴君が? 音は楽しいが」
「ああ、あの臭いを使ってちょっとしたものを作るんです。ある程度量が欲しかったのですが……今はそれどころじゃなさそうですね」
そんな感じでふたりで何気ない談笑。
しかしそこにすらプリンセスたちは目を光らせていた。
「何か……面白の予感!」
「はなすのをキョカする!!」
「プルプル!」
「ええっ!?」
いやまあハロウィンのことだなんて説明しても不利益にはならない。
ならないはずなんだけれど……
なんなんだこの言いようのない不安感。
「――と言ったお祭りをアノニマルースでやるんです」
ハロウィンについてかいつまんで話した。
その時の仮装に使うのだと適切に説明。
なんら問題はない……
「ねえ、きいた?」
「きいたきいた!」
「プルプル!」
「ショーブは……延期!!」
「決着は……」
「プルプル!」
なんか盛り上がっている。
一体なんなんだ……?
それとなく目線をクイーンに送る。
「ふむ、ハロウィンか……我が軍にも……うん? ああ、イエローなら、『ハロウィンでつける!』と言っているぞ」
「あ、翻訳できるんですね」
というかハロウィンで決着ってどういうことだろう。
そんなことぼんやり考えていたら彼らはせっかく山にした木の実たちを蹴って少し崩れてしまった。
たくさんの鈴の音が響く。
「こーしちゃいられない! かそーしなきゃ!!」
「プルプル!」
「部下たちにジュンビさせよう! オカシをたくさんもらえたら勝ちね!」
「……と、まあ、ハロウィン当日は厄介になりそうだな。良かったら招待してやってくれないか」
「えっ」
な……なるほど。
まさかお菓子をもらう対決になるとは。
だがおかげであの木の実は彼らの興味から外れたらしい。
だったら……
「あの木の実、わけてくれるのならぜひ」
「ああ、契約成立だな」
……こうして賑やかな3羽を当日迎えることとなった。
もちろん彼らは街の中では魔法で声をまともにしてもらう。
でないと歩く騒音公害だからね。
その後も私は各地を渡り歩く。
いつもの服屋さんから裁縫の手ほどきを受け。
繊維を取りに蜘蛛の魔物と交渉。
におい消しやにおいつけにつかう残りの材料も各地の迷宮で集め。
本番前にアノニマルース全体にこういうものだと広めるための品々もつくっていく。
最初に知らせたメンバーの出来上がりも見て……
まずはデモンストレーションの日!
試験運用の会場に魔物たちが続々と入っていく。
いつもとまるで違う雰囲気にみんながキョロキョロと落ち着かない。
ココは私の家付近を中心に1区画だけハロウィン仕様にしたのだ。
彼らの興奮は尾に現れ怯えは耳に現れている。
それらが同時に現れるのは……やはりおどろおどろしいハロウィンの飾り付けならではだ。
あちこちにあるのはジャック・オー・ランタン。
くり抜かれた大きなかぼちゃたちがあちこちから悪魔の顔をして来訪者たちを見下ろしたり見上げたり。
この育ちすぎたかぼちゃたちはそもそもかぼちゃをこの町で育てようとした過程でたくさんでている。
中がスカスカだったり大味だったりもしたので処分には困っていた。
もちろん最近のは大きくとも味がしっかりしている。
さらに改良中だ。
かぼちゃの頭たちが照らす道の先には……白い布。
そう。ゴーストの出番だ。