六百八十九生目 信号
ハロウィン近づく今日このごろ。
私は仮装の材料を探しに森をさまよっていた。
私は今回せっかく仮装するのなら……違う存在になりきりたい。
もちろん子どもたちはそれ相応のちょっとした変装だろう。
しかし私は今回やってみたいことがある。
それは私じゃない存在はみんながどう対応するかってこと。
なので彼らの鼻をごまかすもの。
匂い消しと匂い付けのための薬草採取だ。
普通にしていたら簡単にバレてしまうからね。
やはりこういうものは森の迷宮に限る。
薬学の知識をかじったので良さそうな配合は見つけている。
材料となる薬草は……あった!
ひとつ見つければ群生しているなあ。
ある程度数を回収して……
全滅しないように配慮して……っと。
次の材料を……と。
脳内にしてあるメモを見て次の薬草を見つけようとして。
視界の端に何かいた。
編隊を組んで素早い移動。
鳥かごで空を飛んでいるその姿。
キラーコッコだ。
……気にならないと言えば嘘になる。
かなり急いでいたようだ。
何をしているのだろうか。
ちょっと追跡してみよう。
さすがに特に見つかったりすることもなく簡単に追跡できた。
1回物を回収してから群れの方へと戻ったようだ。
音防御魔法は使用済み。
漁ったあとを見てみたら私が求めていたにおい付け材料のひとつ鈴なりの木の実がなくなっていた。
結構数があったのに全部持っていくとは……
それにしてもキラーコッコがこの木の実を食べるとは知らなかった。
群れは私が知っているいつものキラーコッコたちの群れだ。
ここからは下手に潜伏するより堂々といったほうが混乱を招かないだろう。
さてさて……
見てみるとそこにあったのは……異常な光景だった。
普段はクイーンを中心にキラーコッコたちが賑やかなこの場所。
しかし今賑わっている中心には……木の実。
鈴なりの実はいわゆるナッツ類だ。
頑丈な外皮があってまんまるな中に可食部位がある。
振った時音が鳴ったら食べごろ。
それが小山3つとなっている。
一体なんなんだこれは……
そうこうしてたらキラーコッコたちが私に気づく。
「ん? お前は……なんだか覚えがあるような」
「ええと……確か敵ではない……」
「なんだか記憶の片隅に……」
この間ぶりなのにこの記憶力である。
これは……早まったか?
「おお! ひさしぶりだな!!」
「プルプル!!」
「ん? ああー! ほんとうだ!」
小山が盛り上がった!?
と思ったら。
中から出てきたのは……クイーンの子であるプリンセスたちだった。
「なるほど、たまたま見かけたのね!」
「うん、それで……これは一体?」
「プルプル!」
「これはキョーソーなんだよ!」
3羽ともだいたい同じ高さの小山に乗り自身の成果だと主張している。
そうこうしていたらクイーンがやってきた。
「うん? この前ぶりだな。元気そうでなによりだ」
「ああ、コッコクイーンさんこんにちは、これは一体……?」
「うむ……まあ、きっかけは些細なことだったのだが……」
それからクイーンは苦笑いで経緯を語ってくれた。
「最初、この音の鳴る木の実をイエローが気に入ってな。見つけて遊んだんだ」
イエロー……つまり黄色の大きなヒヨコ。
プルプルと言っている子だ。
ちなみに塗ったかのような黄色でありけして自然なカラーではない。
だがこれでも塗ってないらしい。
「それを見ていたレッドとブルーが羨ましがってな。それぞれを我が軍の遊びで見つけてきたまでは良かったのだが……」
「わたしが1番多いほうが良い!」
「いやー! わたしがトップだけみとめるー!!」
「プルプル!!」
いつも先に話したがるのがレッド。
そうでなくてなんか少し発言が怪しいのがブルー。
それにしてもこれは……
「……まあ察したと思うが、部下を使っての姉妹争いだ。まあ、私としては、軍を率いる練習になればとは思っているのだが……」
「ぬふふ、今日の夜までが期限!」
「勝つよー! 勝たなきゃ分かってるよねー!?」
「プルプル!!」
「「ひええぇ!! が、がんばりますー!!」」
さっきまで運んで来ていたはずのコッコたちが休み無しでまた使いに出されている……
なんというか凄まじい場に出くわしてしまった。
「彼ら……大丈夫なんですかね?」
「まあ、行軍休憩も業務のうちだ。各自勝手にとるだろう。本当は……プリンセスたちにそこの指示のタイミングを学んでほしいがな」
叫んで急がせている声だけはよく響いている。
果たして配下のことまで考えられるようになるにはいつのことなのか……