六百八十八生目 神父
ハロウィンのことを光教会に伝えに来た。
神父は道具たちの動きを止め改めて私の方に向き直る。
ただ顔は話の内容に検討がつかないといった様子。
「……というと? 何か問題が起こりましたかね?」
「問題というかなんというか……まあとりあえず伝えますね」
ハロウィンとは。
ぶっちゃけ秋の収穫祭である。
ジャックオーランタン……つまりカボチャをくり抜いたランプを作ったり子どもたちが仮装したりして家を訪問し唱えるのだ。
トリックオアトリート!
お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!
普通の家は用意してあったクッキーあたりを配る。
そして悪霊は……用意だなんて出来ておらず子どもたちのいたずらにより追い払われるのだ。
なお内容は腐った生卵をぶつけたりトイレットペーパーをロールごと投げたりするらしい。
悪霊じゃなくとも退散される。
さすがにこの世界で生卵やらトイレットペーパーやらは用意出来ないしやらせられないので……そこは代案を考えてはいる。
そんな収穫祭兼悪霊退散のお祭りだ。
「――とまあ、ようはちょっと浮足立って遊んで、みんなの気分をリフレッシュしようというものです」
「ふむ……なんとなく私にその話を通してきた理由がわかりました。これは宗教の面が絡むのですね?」
「お察しのとおりです」
そして何を隠そうこれは明らかに宗教色が出るものだ。
なにせ悪霊だ。それを追い払う儀式だ。
そこらへんを説明されてピンとこないプロはいない。
「それで、私達に事前に話を通そうと……」
「ええ、元は地域色の強いお祭りですが……実は海外では最新の行事として光教主催として取り入れるところもあるとか」
「ほうほう……さすがに私達は知らないですが、さすが大陸まで足を運んでいる者がいるという噂のアノニマルースでは、そんな話も入ってくるんですね」
「噂程度ですがね」
実際は全く入ってきていない。
まさに前世の知識に頼っているだけの話だ。
神父は難しそうな顔だ。
「ふーむ。それでも光教としては、あえて街を邪気に満たすようなフリをするというのは、確かに本来は見過ごせませんね……」
「ですよね……そこをなんとか」
「いえ……」
だがひとしきり暗い顔をしたあとにピンと笑顔を見せる。
「では、我々はどういった準備をしましょうか?」
「……いいのですか!?」
「ええ! ここには古株もいませんからね。新しいものを貪欲に取り入れろと、良く聞かされてきましたから」
良かった……柔軟な方で。
「なにせ、こういう時こそ歩み寄り、光教の素晴らしさをこの街に少しでも知ってもらう、そんな良い機会ですから!」
「……たくましいですね」
「でなければ、魔物だらけ街に来ようとは思いませんよ」
それは……まあそうか。
こうして私は事前に宗教衝突をなんとか回避できた……
「……で、なんで私達に話が遅れるわけ?」
「そうじゃん! ずるいじゃん!」
「僕たちも一応宗教に関係あるんだけれどな……」
なぜか私の家でユウレンにウロスさんそれと蒼竜に詰め寄られているのか。
それは教会関係者と話を詰めるのに夢中ですっかり他の宗教関係者を忘れていたから。
ユウレンとウロスさんは死霊術師で地元のニンゲンたちの宗教関係者。
そして蒼竜といえば蒼竜教の信仰対象そのもの。
言うなれば宗教そのものだ。
なんとなく嫌な予感がして真っ先に話すのを避けていた相手たちだが……そうかそういうつながりがあったなあ。
「いやゴメン、ハロウィンにここまで興味があるとは思わなくて」
「また白々しい嘘を……」
蒼竜にあっさり見抜かれてしまうのが困るところだ。
「まあいいわよ。なんとか今聞けたんだし」
「こうしちゃいられないじゃん! とびっきりのハロウィンっていうのをやるしかないじゃん!!」
ユウレンとウロスさんは瞳がらんらんと輝いていた。
大丈夫かな……
「お、お手柔らかに……」
「ふむ……だとすると……よし! 閃いた! ちょっと留守にするからね!」
「えっ? あ、うん」
蒼竜は蒼竜で考え込んでいたかと思ったら急に笑顔を見せそのままワープしてどこかへ行ってしまった。
一体何を思いついたのか……
なんだか彼に関してはあれこれ懸念するだけ無駄な気がする。
「まあ……ともかく、今回光教の方々とも協力していますから、思うところはあるでしょうが、各々ぶち壊さないようにお願いします」
「わかってるわよ、ふふふ」
「そうそう、わかってるわかってるじゃん……ヒヒヒ」
なんだろうこの邪悪なオーラは。
1ミリでも分かっていてくれたら良いのだが……
そうしてふたりもどこかへと材料を取りに走っていった。
まあ冒険者ギルドに依頼しにいったのかもしれない。
私も……自分の飾り付けと仮装を用意しなくちゃ!