六百八十七生目 南瓜
こんにちは私です。
特に大陸の方から続報が入ることもなく今日も平和。
ただ……
実はこのアノニマルースでイベントをやろうという話が上がってきている。
事実上不眠不休で建て増しをして大量の土木仕事をしている現状。
実際不眠不休なのは骸骨たちとは言えふつうの魔物のみんなも各々仕事を張り切っている。
それで何かというと……疲れだ。
体力的な面ではなく精神的な。
細かな達成はあるものの根本的な『完成』まであまりに遠い。
一大業務がまるで終わらないという体験にこれまで仕事といえば見張りと狩りだった面々が苦戦している。
なのでいい加減アノニマルースも文化的な行事を取り入れようとなったわけだ。
それでこの秋風吹く季節に相応しい行事……私が思いつくのは1つだけあった。
「おっすローズ! 準備進んでるか!?」
「イタ吉」
イタ吉は祭り事には基本率先して乗り込むタイプだ。
今もなにかに使うらしい白い布を尾にかけて運んでいる。
「その様子じゃまだ何もやってねーな?」
「そこまで急がなくても平気だからね……」
確かに日程的にそこまで時間はない。
だが朝っぱらからあらゆる仕事をぶん投げて急ぐ必要性はあまりない。
「なーに言ってるんだ! こういうときだからこそだろ! 全力で楽しんでやるのさ!!」
「まあ、自分の仕事をやっていてくれるならそれで良いけどね」
イタ吉の尾が揺れるたびに白い布が揺れる。
その布はあえて端がビリビリに裂かれていた。
そうまるで……ゴーストを思わせるかのように。
そう。
お祭りとはハロウィン!
最初から仮装したかのようにカラフルなみんなが今度はおどろおどろしい姿になるのだ!
ただまあ仮装だけではない。
町中では飾り付けも行われているしイベント準備もちゃくちゃくと進んでいるらしい。
だが私は今日……かなり大事なことを話し合う必要があった。
ちなみに魔物たちは初めてのハロウィンでニンゲンたちもまったく知らないのだからまず現在周知活動から行われている。
信頼のおけるメンバーたちがまずはお手本をつくるのだ。
それを真似して各自遊んでもらう手はず。
とは言ってもコアメンバーたちもまずは手探りとなる。
正直普段からハロウィンとしては満点の骸骨たちはともかくとして。
私達もカボチャのおばけやら骨のおばけそれに魔女といった存在をちゃんとやらねばならない。
大量のおかしもその流れにある。
魔物たちはおかしに気をとられがちになるのでそこには注意しつつ……
そもそもこの世界にいる存在にも気を払わなくてはならない。
実在の魔物やニンゲンの風味にやはり人狼とかゾンビはいるのだ。
邪念の塊ウィケッドウィスプやらマミーマンみたいた明らかにまともな思考を持たない相手にはあんまり遠慮いらないが……
場合によってはそこらへんの配慮やそのまんまのほうが怖い問題の解決もいる。
そして私が解決しなくてはならないのは……宗教。
この街には光教会がある。
現状じわじわと魔物たちから興味を持たれだしたらしい。
またニンゲンでは光教信者はそんなに珍しくないため冒険者なんかもお世話になっているようだ。
そして前世の知識的に……この時期おそらく光教とハロウィンは微妙な立ち位置にある。
もしかしたらここらへんの光教宣教師たちは知らないかも。
なのでうっかり邪教の儀式だと思われないように話しておかねば。
見た目は完全に邪教の儀式だし。
というわけでそそくさと教会へ足を運んだのだ。
もはやすっかり完成した教会……と言いたいところだが。
実はまだ教会は重要施設なのに仮組み状態。
表の看板案内がなければやっていないのかと思ってしまうほど。
理由は単純。
ここだけは骸骨たちの手が一切入っていないのだ。
ギリギリ魔物に手伝ってもらうのは良いらしいが骸骨たちはさすがに教義的にアウトだったらしい
出来る限り人の手でという思いで造られているため未だ建造中だ。
中に入れば鮮やかなパイプオルガンの曲と聖歌隊の歌……のかわりにトンテンカンとまさに大工音。
ただ(仮)がつくとはいえ教会。
それらしい椅子やそれらしい壇上が用意されている。
そして現在気合を入れて大工仕事をしているうちのひとりが……
「あ、こんにちは! 神父さん」
「おお、よくぞいらしてくれました!」
まだまだ若い宣教師のうちがひとり。
この教会で神父を務める方だ。
まあ今の見た目はトンカチと木材抱えて頭に鉢巻き身体は作業服と言った欠片も神父さがないが。
「言ってくだされば、歓迎の準備をしましたのに」
「いや、今回はちょっとしたお話がありまして……遊びに来たわけじゃないんです」




