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六百八十五生目 無敵

 影は突風を放ち続ける。

 私は"無敵"を使いつつ言葉を紡ぎ少しずつ近づいていく。


「改めて、私は(キミ)に負けてもらいたい。私が勝ち(キミ)が負けるという決められたものではなく、(キミ)が選んで欲しい!」

「そんなこと、出来るか!! (わたし)は……(おまえ)なんだぞ……!?」


 よし。だいぶ近い!

 もはや目の前だ。

 影も突風で動かせない私の対処に夢中だ。


「分かっている。(キミ)は私のいつの間にか忘れた気持ちそのもので、だからこそ大事なものだ。生きたいと叫ぶ心が、負けだなんて認めないよね」

「だったら!」

「でも生きたい(・・・・)じゃだめなんだ」


 最後の力で……踏み込む!


「く、来るなっ!? ああっ!?」

生きよう(・・・・)って、気がわいたからさ!」


 触れた。触った。ついでに抱きしめるように跳んだ。

 当然影も突風を放っている場合じゃなくなり風が止む。

 さらに"無敵"!


「これからは、私が選んで生きる(・・・)んだ! 楽しんでやる、苦しむ自分を見ないふりをしない、たっぷり休んで、おいしいもの食べて、明日また生きるために、今生きようよ! だから……」

「……ぅ、もっと寝たい、もっとゆったりしたい、もっと遊びたい、世界だなんて知らない、もっと、もっとゴロゴロしたい!」

「うん。そして……いつもは出来ないからこそ、ちゃんと痛みや悲しみに……今向き合ったから、泣こう」

「う、うわぁっ、うわあああああ――――!」


 獣であれ魔物であれちゃんと泣ける。

 涙や鼻水を流すのとはまた違うだけで。

 今までつらく苦しい道のりでもただそういうものだと受け入れるしかなかったから。


 それで生まれた影を。

 今はそっと"無敵"の光が浴びせていた。


「大丈夫、大丈夫……"無敵"、それはどの言葉に直してもほとんど意味合いは似通っていた。敵を無くすとはよく言ったものだけれど……最後は私という敵とはね」


 なんだか、今更すとんと腑に落ちた。

 この対立という試練はおそらく……

 そういうための"無敵"レベル10の力なんだ。


 面倒で嫌でやりたくない。

 そんな自分という影を正面から向き直させる。

 きっとそんなスキルだったのだろう。


「死にたくなかった。生きたかった。それが私。今泣くのは、私が抱えていたその思いが不安や恐怖として表に出ているから。そしてそれがわかるのは……もっともその欲を理解しているのは……私」


 だからこの戦い。最後は私でなければおそらく無理だった。

 ただ子どものように泣きじゃくる。

 その私を"無敵"の光で迎えつつ暖められるのは同じように弱い存在の私でなければきっとできない。


 ドライとアインス(ほかのわたし)では……勝ちにいけてしまうから。

 けれど自身の弱さをしっかり認められなければきっとこの対立は終わらない。

 だから私はこの精神世界を最大限利用したわけだ。


 その後影が泣き止むまで冷たい影の身体を抱きしめ続けた――






「もう大丈夫?」

(おまえ)が言うな。(わたし)(おまえ)なんだから」


 なんとか涙声の影を落ち着かせることに成功した。

 まったく苦労や手間をかける。

 それが私なのだが。


 泣いたワケ。

 まず死にたくないと恐怖から。

 私の最接近で殺されると私ならそう思う。


 そうして悲鳴をあげ泣いたあとは……

 相手のぬくもりから恐怖が溶かされていく。

 生きていることに泣いてしまう。


 単純な生きたいという欲が色々と組み合わさり複雑に見えていただけだ。

 色んな想いが溢れ出して泣いてしまうだろう。

 影も私ならこの推測はあっているはず。


 影の感覚が薄れていく。

 消える……のとは少し違う。

 何というか……影の毛側を抱きしめる感覚が柔らかくなっていく。


 それとほぼ同時に真っ暗闇の世界が明るくなってもないのに不思議と視界が確保されていく。

 それでわかった。

 私と影が互いに溶け合っている。


 私の身体に黒く侵食し影の身体に青く侵食されていく。

 私と影の境目は曖昧で……

 きっと本来なら恐怖してしまうだろう。


 けれど私はなんとなくこれで良い気がした。

 影も落ち着いている。

 影の片目だけが影ではない私のような柔らかな瞳に侵食されていた。


「これが……(キミ)の見ている世界。光から見た心の底は、暗すぎるんだね」

「それも、(キミ)のおかげで見えるようになったよ」

(わたし)は……どうなるのだろう」


 徐々に互いの境目はどんどんと侵食されていく。

 あたたかさが自身の感覚をこえて向こう側まで通じているかのようだ。


「多分、どうにかなるわけじゃないよ。きっと、少し世界がよく見えるようになるだけさ」

「それなら……良いか。どっちが勝つとか、負けるとか、なくなるんなら」


 もはや半身が同身化している。

 私はどこまでで影はどこまでだったのか。

 それについて問う野暮はココにはいない。


「対立は、終わる。終わらせる。きっと、それぐらいなら、私にだって出来るって信じている」


 どちらの言葉なのか。

 どちらの身体なのか。

 そんな疑問の答えすらわかることはなくなったころに。


 意識が暗転した。

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