六百八十三生目 舞踏
心の奥底まで影を追い詰め何をするのか。
それは勝つためではなく負けてもらうための闘いだ。
「まずこの命令書……ありがたいけど、迷惑だよね」
「ああ! 私は自由でありたいだけだ! こんなのは操り人形でしかない!」
影が吠える。
衝撃波がビルの窓ガラスを割っていく。
私は"無敵"で威力を削ぐ。
「もちろん、助かったことも事実だ。私は今こうして生きている」
「だがそれとこれとは違う!」
「うん。私は生きている。ごっこではない。かと言って、これらに逆らっても、それはただの子どもの反抗心だ」
ごっこ遊び。
それで私を主役に立てて誰かの筋書き通りに動く。
それでは私の意思がないのも同じだ。
気づいてしまうととたんにひどい窮屈さを感じる。
だからと言ってヤダヤダと暴れれば良いもんじゃない。
「じゃあどうしろと!」
「選び取ろうよ。私の手で。こういうものがあるとわかった上で、行動するんだ」
私は例の悪夢であれこのメッセージであれ何者かの意思に踊らされてきた。
それを今後毎度毎度誰の意思が介入しているかだなんてチェックしようがない。
それはこのメッセージや悪夢だけじゃない。
私の行動のメインは誰かに乗る形だ。
ようは巻き込まれて進むことが多い。
それは誰かの意思で踊っている事と何が違うのか。
「選び取るだなんて簡単に言うけれど、何を選ぶにせよ、それが本当に自分の意思だって言えるの!?」
「1つだけある」
また風のように衝撃波の刃があちこち飛散する。
"無敵"! 小さくなった刃が私の頬にかする。
ツウと黄色い血が垂れる。
「選ぶ時に外的要因が常にあるのを意識して、選んだ後に責任を持つことだよ」
「っ!」
血はすぐに止まった。
さらに影と距離を詰める。
影は及び腰だ。
「私は私が最終的にこう踊るって、決めたと思うようにする。多数枝分かれしてあるようで実際はほとんど無い細い道のり、そこで足を踏み込んだのは私だって、そう言い切りたいんだ」
「それが、英傑ごっこではないと言うための物になると……!?」
「私は、常に求められて、そして生き延びるために何となくで強くなってしまった。そこに私の意思はあるものの、本物の英傑と呼ばれるには……あまりに自ら力の使い方を考えていない」
グングンと距離を縮めて影の顔に迫る。
暗くて何も見えないはずのそこにあるもの。
憎悪の瞳の奥に……怯えを見た。
「近寄るな!!」
一気に距離を取られどこかへ走り去ってしまった。
また追いかけっこだ。
すぐに終わるとは思っていないから大丈夫さ。
「はぁ……はぁ……ここなら……」
「やっと見つけた!」
「なっ!?」
このビル街は思ったよりずっと広い。
どこまでも続きそして何より縦に移動距離がある。
どのフロアに潜んでいるか特定するのは想像以上に骨が折れた。
「ここ、時間経過がよくわからないから何日たったんだろうね?」
「だったら諦めなさい……っ!」
「まだ私のごっこ遊びの話はあるからね」
それでも特定できたのは……自分ならどうするか。
それを考えることに至ったからだ。
本来の追跡にはあまり向かない思考だけれど……自分を追うのならこれ以上はない。
階段から上がり影のそばへと寄る。
当然のようにエネルギー刃が飛んでくるがもはやいつものことだ。
"無敵"で軽減する。
「せめて戦え!」
「戦っているよ。これが私の戦い方。それで……ごっこ遊びのことだったね。普段私はずっと自分を追い込むように動いていたよね。改めて考えると……どう思う?」
「なぜ影に聞く!?」
今こうして改めて考えると鍛え急ぐのは漠然とした不安から逃れるため部分も大きかったのかもしれない。
もちろん実用的な面もあるが……
漠然と続け漠然と業務をこなし心の奥底の恐怖から目をそむけた。
「自分の影に聞かなきゃ誰に聞くのさ。生きたいと願った、その私に問いかけなければ、答えは見つからないんだ」
「……わからない、わからないよ! それで影に何をさせたいのかが!」
「とにかく聞いて欲しい。キミは……私の閉じ込めた想いそのものなんだから」
影とは。
私がしばらく悩み続けてやっとそれらしい答えを見つけた。
彼は私が捨てようとしたものだ。
「捨てようとして、けれどもどこまでも大事で、だからこそ倒そうとも倒れず、今まで私の奥底で眠っていた存在。それが影だね?」
「さあなっ!」
またどこかへ消えてしまった。
大丈夫。時間はかかるが……
それは今まで振り返らなかった分取り戻すためだ。
「影はわたしを止めたかった。そのことも聞いているよ。私はこの精神世界でも殺されることをひどく苦しんだから……影は休ませようとした」
「そうだ! こんなことをしてなんになる! 英傑ごっこのためか!? 分かったらもう追ってくるな!」
追いかけっこ開始から……1週間。