六百八十一生目 心象
『英傑ごっこ』
そう告げた影はおそらく……私が相手しなければならない。
そして感覚が訴えかけてくる。
最後の相手だと。
(大丈夫か? 死に戻りして情報を集めてからでも悪くはないぞ)
ううん。言葉にはまだ出来ないけれど……
見えなかった影の姿……それは私だけは見られる気がする。
本当は幼い……そのツバイならば。
(ファイトぉ〜!)
何か考え込んでいた蒼竜がパッと顔を上げる。
コイツまたナチュラルにこっちの心理読んでたな。
「僕はキミに対してアレコレアドバイスはできないけれど……心の空間については知識がある」
「心の空間……精神世界の?」
「そう。さっきから話を聞いていて、真っ暗だって聞いてさ。でも本当は色々とあるんだ、心の世界は」
蒼竜がピンと指を立て帽子を軽く弾く。
もはやいつものポーズだ。
「それぞれ見つけられる範囲は違うけれど、心の中にはひとつの世界があると言われている。ひどく偏り、混沌として、なおかつ自分だけのとびっきりの世界。けれど見つけようと思わなければ、それは見えない。また行くのなら、よくよく心の内側を覗いてみると良いよ」
「……うん、わかった。ありがと」
「なあに! 僕の知識が役に立つことを祈るよ! もちろん祈りの対象は僕さ!」
すんごいドヤ顔された。
これさえなければなあ……
絶妙に腹が立つんだよなぁ。
[精神世界での対立を行います。 はい/いいえ]
じゃあ……行ってくる!
(あいよ!)(遊んでまってるね!)
「お、行くのかな? 後で神の力チャージするだろうから、ちゃんと帰って来るんだよ!」
「なぜ死亡フラグを……」
とりあえず……はい! っと。
ついた……かな。
意識が暗転するのだけはなれないや。
ここが戦いの場……
確かにアインスが言ったとおり最初の場所と違って薄暗さすらない。
光がまるで届かない暗部。
床も何かとしかわからない。
「また、来たのか」
「私なら、きっとキミを見つけられるからね」
「……来るな!」
確か……首!
伏せたら何かが頭上を通り過ぎたのがわかる。
そのあとは……無音。
今のうちだ。
集中。集中……
蒼竜の言葉を思い出せ。
私は目で見て耳で感じようとこの世界に対して思っている。
それは無意味だ。
ここは心の世界。
たとえ奥底だろうと世界は存在する。
目に頼らない。耳を澄まさない。
音はある。においはある。
感じ取れないのはないからじゃない。
因果が逆転してあると信じられないから存在がわからない。
そしてあると信じるには……
「前世の自分を含め……見つめ直そう」
影の言葉。
自分を見ろ。見たくないものも含め。
そして……なんとなく目を逸していたことも含めてだ。
あの悪夢……世界が滅んで私だけがいる夢。
絶対に偶然見続けているわけじゃあないのに起きている時のことが忙しすぎて目をそらしていた。
それに私の行動の原理。
1度昔ユウレンの力で私の魂に送られた文を解析したことがある。
普通の英文だった。あれは間違いなく前世のものだ。
あの時は渡りに船だったけれど……
少し疑問に思ったことがある。
果たしてたった1通のみなのだろうか。
深く考えれば恐ろしい。
私の行動は誰が決めていたのか。
もちろん純粋な自身のみの行動はないが……意識して周囲に影響されているのと知らずしらず誘導されているのでは天と地の差がある。
あのメッセージすらも本当は味方ではないのかもしれないのだから。
それらを含めて私は私を見つめ直す。
そのために今……私の心に挑む!
「……あっ!」
風を感じた。
そう思ったら早かった。
光のないこの世界に存在が現れていく。
風がにおいを運び音を集め。
やがて世界に情報が満ちていく。
相変わらず真っ暗ながらこの世界の事はなんとなく把握できる。
直線上に地形が渦巻く。
重力がめちゃくちゃで何本もの地面が宙に浮いて螺旋状にねじれて奥へ奥へ続いているのだ。
……捉えた!
今一瞬奥に影の気配が!
すぐに探知から逃れられたが移動した方向は分かる。
急いで追おう。
大地は歩むたびに重力が変わっていく。
地形に合わせて私の歩む場所を下として進む。
普通はありえないねじれた地形だからこそか。
こんなところで時間はかけていられない。
よくよく探ると4つの地形が同じようにねじれているのか。
まるで私以外にもココを歩むかのように。
私の足なら少しの時間でここを駆け抜けられた。
次は……4つの地形が合流したここは広い大地が広がっている。
森……かな。
嗅ぎ慣れたにおいがあたり一面に広がっている。
森の中でも……そう。森の迷宮のものだ。
明らかに私の心の奥底で支えとして再現されているのだろう。