表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/2401

六十五生目 鶏王

 すっかり日が昇り雪も止んだ本日。

 ついに!

 あの雄鶏たちとの対話の時間だー……


 もうね、あのおぞましい心削る鳴き声思い出すだけで行きたくないね。

 まあ私がいくしかないから、既に近くなんだけれどね。

 例のレヴァナントから魔道具をもらえて今はそれを使っている。


 音削ぎのネックレス。

 はめ込まれた魔法の石が音に関して自身や周りに害があるものを全て中和するもの。

 これがあればおぞましいうえ大ボリュームの雄鶏群れの中でもたぶん……平気だ。


 全てという所には括弧をつけて、出来る範囲ならという文字がつく。

 過信は禁物だ。

 ちなみにこれを使うと観察で強化オーラをまとっている旨が記されていた。


 しばらく行けば雄鶏5羽が歩いてやってきた。

 多分あの『英雄』だが……

 見分けがつかないからわからないね!


「おお! やはりあなたか!」

「さあ! クイーンと話をしてくれ!!」

「クイーンの所ではみんなに静かにするようにお願いしてね……」

「わかってるわかってる!!」


 おお、凄いぞネックレス。

 不快な音が消えているしやたらうるさくもない。

 ただ、さすがに100羽に絡まれたらどうなるかわからない。

 静かにしておいてもらおう。




 案内されるがままついていって、ある程度近づいたら雄鶏たちが静かにさせるために先に行った。

 しばらくするとざわついているように感じた音がシン……と静まり返る。

 よし、行こう。


 しばらく歩いて行けばクイーンたちの姿が見えてきた。

 クイーンの背後にびっしりと並んだ雄鶏たち。

 す、凄いな。

 統率された軍隊を思わせる。


 何が凄いってあの! あの雄鶏たちが一切口を開かずに静かに並んで待機している事。

 クイーンの統率力の凄さを思わせる。

 クイーンから少し距離をとった位置についてから見上げた。

 人ほどの大きさがあるクイーンは私にとっては大きすぎる。


「話は伺っている! あの時は耳塞ぎの魔法を使っていた事や姿が変わる事も!

 改めて、わたしはコッコクイーン!

 この隊の大隊長を承るものである!」


 ビリビリと芯に響く強い口調。

 なんだろう、不快音や強すぎる音は切っているのに、身体の芯に響くような声だ。

 おそらくはこれが、上に立つ者として彼女こそ出せるカリスマ……

 私の群れのキングやクイーンとはまた違う方向だ。


「あの時は挨拶が出来ず申し訳ありませんでした、私がホエハリたちの群れから唯一会話が可能として送られた者です」

「おお、話には聴いていたが確かに素晴らしい!

 ではさっそく本題に入らせてもらおう!」


 いわゆる海外の人がこっちの母国語を披露してくれた感覚だろうね。

 うまいか下手かというより理解して喋ってるんだなってなれる。


 最初の話はこちらが襲われ撃退した時の話だ。

 なんやかんや言って10羽くらい(たお)している。

 うーんどうなるかな……


「……と、こちらの被害は確認された! そちらは?」

「多少怪我を負いましたが魔法で癒せる範囲でした。あの時は反撃とはいえそちらにもうしわ……」

「それは大変申し訳ない! こちらは回復可能な程度の被害だったが、ホエハリは個体数が少ないと聴く!

 リカバリーは効く範囲か?

 後々そこも含め検討しよう!」


 あ、あれ?

 なぜか私に謝ってきた。

 しかも交渉に有利にしてくれるような事もほのめかしている。


「あ、あのそちらの方が死者がでたのでは……?」

「操られていたとは言え群れに勤め殉職しただけのこと!

 残念ではあるが、我々は高い繁殖力も誇りの1つ!

 心配されるようなことはない!」


 そう言うと彼女はググっと足を伸ばす。

 え、この大きさでかがんでいたのか!

 はっきりと顕になった足元の巣にはいくつもの卵。


「未来の我らの兵士である!

 我らの肉体滅びても我らの魂は不滅!

 必ず卵から『よみ孵る』ため気にされることはない!」


 そう言ってまたかがんだ。

 彼等は彼等なりの考えというか哲学を持っているわけか……

 まあ、来世もその来世もキラーコッコになるというのも一種の考えなのだろう。


「わかりました、では続けましょう」


 さらにこんな感じで話は続いていった。

 なぜかこの群れが操られ時に駆けつけた『英雄』のおとも扱いだったのがわかったが……

 私がちらりと後ろの方の雄鶏を見るとビクリと動いたやつがいた。

 ……まあ、良いのよ、そこはこだわりないし。


「骸骨たちとの戦いでは助かりました」

「こちらこそ、直接の迎撃と指示、見事との報告を受けた!

 我々の隊は十分役立っていただろうか?」

「ええ、いなければ作戦が成り立ちませんでした、ありがとうございます」


 さらに話はレヴァナントへと及ぶ。

 倒して捕まえた事を事細かく説明すると喜んでいる様子。

 かたい笑い方だが心音とかでは喜んでいる様子。


「そこまで徹底的にやってくれたか!

 では我々からはもはや何も言うことはない!」

「ではこちらで自由にしていいと?」

「ああ、問題ない! 我らに危害が及ばぬようになればもはや興味もなし!」


 うーん清々しいほどの断言。

 この割り切り方こそが彼女の魅力なのかもしれない。

 後ろの雄鶏たちも聴き惚れているようにも見える。


 そして肝心なホエハリとコッコたちとの今後の関係だ。

 とりあえずこっちとしては良好にやっていきたいが……


「私達ホエハリの群れとしては悪くない間柄になれるとは思うのですが……」

「ああ、必要以上に馴れ合う必要はない!

 だが何かあれば呼んでくれ、喜んで手を貸そう!」

「では、ぜひこちらもそのように」


 うん、即断即決。

 雄鶏たちと相談すらしなかったな。

 クイーンの一存こそが群れの意志ということらしい。


「それとだ、結果的に色々と巻き込み大変な目に合わせてしまったからな!

 これは礼だ!」


 そう言うと彼女は巣からどき、雄鶏たちに指示を出すと卵をかかげさせた。

 えっ。


「卵は頻繁に他の獣も狙ってくるほど美味らしいぞ!

 確かそちらに腕を持つ烏がいると聴いたが、運んで貰うことはできそうか?」

「えっ、いや、そんな良いんですか!?」


 卵ってようは彼等の子になるやつやん!

 そんなポンポン良いのか?

 だがコッコクイーンは気にしていないという様子。


「ハッハッハッ! こちらとしてもこのぐらいの誠意を見せねば気が済まないというもの。

 それに言ってしまえばこんなのいくらでも産めるし、いくらでも替えがある!

 ぜひ今後も無理のない範囲なら譲ろう」

「え、あ、ありがとうございます!」


 豪快すぎる……!

 こちらの考えと違ってめっちゃ雑な扱いだ。

 価値観の違いというやつか!


 その後天然洞穴で作業をしていたアヅキを呼び寄せていくつか運んで貰った。

 今夜は卵焼きだなぁ……


「そうだ! 間違えて孵化すると間違いなく手がつけられないだろうからな!

 早めに捕食をオススメする!」

「なにからなにまでありがとうございます」

「今後とも良いお付き合いをしていきたいな! では全員、敬礼!」


 ザッと一糸乱れぬ動きで雄鶏たちがポーズをとる。

 彼等なりの敬礼なのかな。


 なんとか話し合いがおわって良かった。

 今後も何かあったら手を貸したりかしてもらったりしよう。

 ……あ、そういえばだ。


 その後雪の中に隠してあった鶏肉は無事回収され卵とともに食べられた。




「あー、そうそう、そこらへんですね……!」


 とある昼下がり、私はニンゲンたちの家造りの様子を見にきていたのだが……

 なぜかアヅキにヒーリングを施している。


「まさか戦場を焼き野原にする力を持つアヅキが、家造りに苦心するとは…、」

「慣れないニンゲンの道具を使うのもありますが……同じ姿勢の維持で同じことをやり続けるのは大変ですね……まだ駆け回っていたほうが楽です」


 筋肉がガチガチに傷んでしまっているな……

 短時間バトルする、というのは実にアヅキ向きだが、長時間肉体労働するというのは色々すり減らすらしい。

 うーむ使い方の効率が悪いのか熱もこもってるな。


「にしてもニンゲンたちは長期の作業でも恐ろしく粘り強いですね。息が上がっても回復が早い」

「寝る時間も少ないしね。まあ身体の構造上の違いだね……」


 真面目に作業をやり続けているニンゲンたち。

 それはまあつくっているものが自分の家になるというのも、モチベーション維持につながっているだろう。

 それにすぐに身体を壊しやすくはある。

 だがそこを差し引いてもすぐに治るのがすごい。

 この世界のニンゲンは魔法とかトランスもあるから余計に強い点となる。

 この世界じゃあ強者寄りなんじゃないかな。


「ところでさ……なんで『コレ』も上乗せする必要が?」

「いやあ、恥ずかしながらこちらの方が実に心地良いんです」


 今、私はヒーリングをして身体を癒やしている。

 だがなぜかそこにスキルの無敵を上乗せしている。

 アヅキからの要望なのでやっているが、なんでだ。


「前ヒーリングしてもらった時は、何となく足りない感じがしたのですが、やはりその無敵というスキルがあると、違いますね……」

「えー、大したものじゃあないはずだけれど」

「なんというか、安心感というか、私を優しく赦してくれるような、不思議なあたたかさを感じます」


 なんだその詩的な表現。

 とは言ってもなあ、幻覚作用とかはないんだけれど。

 クールダウンの魔法も忘れずに。


「そう、まさにこの身全てを捧げたい気持ちよさ、心から充実し満足する感覚、主を想うだけで全てを得るような……そう、無限の空の奥すらも満たす……」

「はいはい、そこらへんは地面にでも文字で書いといてくださいねお客さん」


 なおアヅキはまだまだ文字は習得出来ていない。

 前、ミニオーク(ガラハ)にバカにされてキレてたからいつかは覚えるだろう。

 なおミニオークもちょっとだけ読めるようになったぐらいだ。


「よし、回復完了っと。これでまた何時間かはいけそうだね」

「ありがとうございます。では、地獄の戦場へ行きます……!」


 まあ、本当に木材加工とか大変そうだしやる気出してくれるなら良いか。

 私の方もレンガ造りを頑張ってみようかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ