六百八十生目 つづくよー!
やったね! かげにしょ〜り!
かげはバラバラになった!
……けれど。
なんだか地面も壊れだしたんですがぁ!?
ダメだ! なんか下に吸い込まれる!
「うわあああーっ!!」
グングンと暗闇に落ちてゆきまるで真っ暗な世界。
やがて速度がゆったりし自然に着地した。
びっくりはしたけど無事……かな。
なんなんだろう。ここは。
心のさらに奥底?
だとしたらここにあるものは……
「おはよう、わたし」
「ダレ!? ……かげ!?」
暗視があるのに見えない。
ただその声だけは聴こえている。
多分わたしのかげだ。
もはやニセモノの光すらないわたしの暗い部分。
ごまかしようのない……闇。
「もうこんなこと、やめよう」
「イマサラ! さあこんどのかげもたおしてあげる!」
「それは、ムリだよ。だって……」
何を命乞いみたいなことを。
わたしのかげならおとなしくわたしと対立して解決すればいい!
それの覚悟をしてここまできているんだから!
「キミは、英傑なんかじゃないから」
「……? 英傑?」
「キミはただ魔物に転生した記憶を持つだけの、何かに選ばたり、特別な神託を受けた存在じゃない。ただの……ただのひとつの存在」
足音すら聞こえない。
一体……どこから話している?
声の方角すらわからないだなんて。
「スガタをあらわせ!」
「私が見えないのがその証拠。誰も自身の底にあるものだなんて見たくはない。ただ丁寧にしまって抱えておくもの。それか……底がむき出しになって、ただ放つもの」
「……よくぼう?」
ただの欲望とかではない。
なんというかもっと残酷な……
そして原初な衝動かな。
「英傑ごっこは、楽しいよね」
「エイケツごっこ? ごっこもナニも……」
「私はいつまで、主人公を気取るの?」
――え。
――気づいた時には首が切り落とされていた。
ただ暗い中去っていく何かの声がわたしの耳に聴こえてくる。
「主役になるには、私はあまりにも……自らに無知すぎる」
(――というのが、今回のあらましかな〜)
(またずいぶんな殺され方だな)
そして私は心理的に死んだ。
いや物理的にもさっきまであちこち傷んだけどさあ。
ちょっとコレは辛いし恥ずかしいし混乱する。
アインスが幼いんじゃなかったのか……!
いやアインスはアインスで幼い部分はあるのかもしれないがそれもこれも私が問題なのか。
アインスはこどもぶる大人って感覚で私は大人ぶる子ども……
受け止めづらいが全部真実なのはなんだか胸の奥で理解できる。
スっと入ってくる。
死ぬことで失うものが多すぎるということへの恐怖心も……今からちゃんと見つめておこうと思える。
けれど……
(今度は『英傑ごっこ』か)
「まったく、僕の像を破壊したと思ったら、今度はそんな面白……厄介なことにまきこまれているとはね」
「……えっと」
もはやナチュラルに私の心の内を覗き込むやつ。
私が思う存分地面の塵芥みたいに寝っ転がれない理由。
少し前に蒼竜がやってきたのだ。
少し前にどっか行くと言っていたのだからもっと時間がかかると思っていたらすぐ帰って来た。
しかも私に文句を言いに。
さすがに神様クラスになるとワープ移動の類もこなしやすいらしくしかも目的地は宗教の街。
そしてあのとき……私が切り飛ばされて蒼竜巨神像の顔に思いっきりぶつかったさい。
聴こえた誰かさんの言葉は聞き間違えではなかったらしい。
なんてタイミングの悪い遭遇……
それでアインスが帰ってくるまで怒られていた。
理不尽である。
アインスはわりと早く帰ってきたけれど。
(あれ? わたしのカンカクと違う気がする……けっこ〜たたかっていたよ?)
うん? 精神世界とは時間の流れが違うとかいうやつかな?
まあだからといって悪いことはないだろう。
「とりあえず、僕としてはキミが英傑かどうかはわからないけれど……間違いなく特別なひとりだろうね! 生きとし生けるものは、すべて物語の主人公さ!」
「うん、まあ、それは置いておくとして」
「ひどくない!?」
ショックを受けている蒼竜を横目に考える。
これまでのことも頭の中で渦巻くがそこから今回のことへ注視していく。
『英傑ごっこ』
英傑……その言葉はよく耳にした覚えがある。
仲間から。そして親から。
身に余ると思いながらもその称賛を受けてきた。
私を称えるために無断で造られた像は未だ街の門付近に設置してある。
無断は困ったが悪い気はしなかった。
けれども……
『英傑ごっこ』
私の奥底に眠る影が告げるもの。
なあなあにしてきたその称号自体にしっかりと目を向ける時が来たのかもしれない。