六百七十七生目 むかしのこと
上映会が始まった。
私は大烏に捕まって空へ連れて行かれる。
その時生まれてこの方初めて出すかのような悲痛な叫びをしたのを覚えている。
その光景がこの精神世界の背景に大きなスクリーンとして映し出されていく。
爆音上映しちゃうよ!
なんだかすごく懐かしいねえ。
だいたい2年前くらいなのかな?
わたしがああして空に浮かばされ……
そのまま巣へとお持ち帰りされかけた。
今でこそこうしてヤジ入れしつつかげの攻撃をしのぎつつ見れるもののこの時負った傷は相当だった。
群れから大きく離れてしまった位置から機転をきかして落下。
そのまま地面へと真っ逆さま。
自身の生命力を代償に落下速度を落としつつ森の木々へ衝突。
ここらへんをまだ離乳食がどうのこうのの時期に行えたのはわたしがまさに運が良かったから。
前世からの知識に加えて鍛えなければ死ぬという経験から。
この安全具のないジェットコースターを経験すればダレでも1発で高所恐怖症!
キミもデッドオアデスの選択肢をくぐりぬけよう!
とまあ過去の恥ずかしい記録1はこのぐらいにしようね。
「……この映像がなんになる!」
「浮いてとんでジユ〜にうごきまわれたワケねえ……もうひとつもみてからコタエだそうかぁ」
ココはダイジ。
ゼッタイはずせないからね。
間違いなくやり直しレベルのダメージを喰らってしまうよ。
新たな映像はさらにさかのぼったところ。
わたしが産まれたあたりだね。
おぼつかない歩き……むしろハイハイで水場まで行って。
そこには魔が映っていた。
さらにそれだけにとどまらずに魔が飛び出す。
わたしを痛めつける。
悪夢の水泡が弾け私を弾き飛ばす。
わたしがいたぶられる記憶をわたしとかげが見ている奇妙な光景。
その間もイバラとつるの小競り合いは続いているけれど。
胸がしめつけれるような景色は母が魚を踏み倒して終わる。
まあ……とはいっても。
「いやー、やっぱり母はイダイってやつだね! あの後ろすがたにあこがれるー!」
「当たり前だ、母は乗り越えられない壁……だがそれは、私が浮くのが平気な理由につながらない! わたしは水中も平気だっただろう!? なぜだ!」
んあ〜押しが強くなってきた。
このままだと押し切られちゃう。
でも同時に思考しなくちゃいけなくて……
つるをイバラで巻いて引き倒し目の前に迫るイバラにそれを当てて共倒れ。
どちらにせよ言葉の力で……心の力で負けたらここは突破されてしまう。
それでも時間稼ぎのためにつるをさらに振るう。
「う〜ん、そうだなあ……さっきのエイゾ〜からすると……」
「さあ、答えて、みろッ!!」
「うわっと!」
つるの守りをイバラが貫いた!
だいぶ威力が削がれていてよかったけれど……
追撃が迫っているネ。
「……うん、やっぱりそうだよねぇ」
「……? はっきりといえ!」
「じゃあいうネ」
映像の情報たちとそれをみたわたしとかげの心の持ちよう。
そこから導き出される答えは決まった。
けれどそれを語ろうとすると……わたしの中から血を吐くような痛みが走る。
「どうせ、アインスはどちらの時もまだ性格として現れてなかった! だから又聞きのような態度を取れるし、トラウマがないだけで――」
「……それは、おぼえてるにキマってるじゃん!!」
「……!?」
「ただ、トラウマをのりこえただけだよ、わたしも、かげも!」
つるの力がいきなり増した!
それと同じように今わたしの言葉と共に胸の内側が引き裂かれそう。
痛いなあもう! けれどさっき言おうとしたことに比べれば……
でもこのパワーならかげのイバラをボコボコに出来る!
それそれっ! つるたちで12連打!!
「うぐうっ!?」
よし! きれいに決まったよ!
毛皮は裂かれてイバラは曲がり見るからに傷だらけ。
けど……光に包まれた。
今度はホリハリーかあ!
しつこいなあ!
わたしのかげだからまあしつこいのはわかるけどさあ!
「なんで、こんな矛盾だらけの言葉にこんなに深い傷が……? まあいい、こうしてまだ戦える。私はお前を必ず止めてみせる……! あれらのトラウマは乗り越えたんじゃなく、トラウマが存在しないお前やドライに押し付けているだけだ!」
「……? まあいいや、それよりもトラウマのりこえてないってのは、それこそおかしいんだよ〜。だってジブンじゃん? ジブンのなかでカンゼンになんとかしてるから、浮けるし水のなかにすすめるんじゃん?」
結果論というやつだ。
わたしは難しい言葉を知っているからネ!
けれどすごーくだいじなことがいまハッキリわかったよ。
これを言えばきっとこの言い合いには勝てる。
きっとね? 今までなんとな〜くは思っていたはずなんだよねぇ。
けれどそれをわざわざ形にすることはなかった。
これほどオソロシイものはなかなか見つめられない。
わたしたちがなかよしごっこを超えるためのものを。
あと……止めるってなんだろう? まあいいや。優先すべきはこっち!