六百七十四生目 浮遊
家に帰ってきた。
さて今回の話だが……
『仲良しごっこ』
やはりひっかかるのはこの言葉。
ヒントはさきほどのたぬ吉とのやり取りで掴めたものの果たしてそれだけで根本的解決につながるのか。
(少しまとめよう。まず味方同士アノニマルース内で食い合う未来。これは"私"の妄想にすぎず、多少のブレはあっても未来予測では、そういう事態は引き起こされない)
(でも、いちど『そうかも!』って思っちゃうと、むずかし〜よね〜)
感情面は理屈で納得できるほどにうまくことは運ばない……かあ。
そこはたぬ吉のことを信じるしかない。
(それなら無問題だね! たぬきちのことならしんじられる!)
(まあな。それと……だ。)
私達の仲……かあ。
『仲良しごっこ』
これには私達のことも含まれている。
内面的にはこちらのほうが複雑かもしれない。
正直私には負い目があるし……
(ああ、さっきもなんか変なこと言ってたな)
(うらみとかつらみとか? なんか言ってたね〜)
うん。まあそうだけど。
私達はそれぞれの個の確立と思考の分断による意識が割かれない利点を活かすためある程度しか思考を共有していない。
具体的には見て聞いて話して念じること程度。
そのために意図的に隠そうとしていることは隠せる。
もちろん感情なんかもいちいち共有できていない。
感情が混ざりあったら処理しきれないからね。
だからこそ私のあの影の言葉が生まれたのだろう。
『仲良しごっこ』
その根は……おそらく深い。
自分が感じている自分自身への不信。
それが侵食して表に出ている結果がこれなのだろう。
(ん〜でも、そんなにじぶんをシンじれないかって言うと〜)
(ぶっちゃけ考えてみたが……そんな点はないな)
私はドライやアインスに複数の面で信頼を置いている。
同時に私自身への評価も低いとも思えない。
いや……? もしかして。
私の中に何かしこりのようなものを感じている。
疑い出すときりのない迷宮に迷い込む。
私は……何かが歪んだままでいる?
歪み。歪みってなんだ。
私がドライやアインスと共にいて……
互いに苦手なことを補って今日まできた。
確かに他者からすれば変でも私達からすればそれはもはや生活の1部で。
だからこそ……うーん?
あ。駄目だこれ思考が迷宮入りしそうに――
(――ああ! ちょっと行ってくるね〜!)
えっ!?
今のどこからいけそうな要素が!?
待っっ
[精神世界での対立を行います。 はい/いいえ]
(はいだネッ!!)
ううーん……
ここは……なるほど。
聞いていたとおりだネ!
くらーい場所にわたしひとりぼっち。
けれど集まる不思議なナニか。
形になればそれはわたしのかげ!
「おおー、ういてる」
「そりゃそうさ。私は浮けるでしょう」
うーんなるほどなるほど。
いっちょやりますか!
わたしはかげと対峙した!
「んじゃかげ! わたしも飛ばせてもらうよ!」
「なかよしごっこしているわたしが飛べるかな?」
イジワルなやつ。
まあかげなんだけど。
話すときは相手の目をよく見て話しましょ〜。
「まず、わたしが言うよ! 私たちは、おおきなかんちがいをしている! それがわたしたちの、みえないフシンカンにつながってる!」
「なっ!?」
とべた!
かげがキョーガクの表情を浮かべている。
高さがあったからわたしの目の前だ。
「なぜ、飛べて……」
「これでタイトー! さあやるよ!」
「っ! とにかく、勘違いだなんてしていない! それが仲良しごっこにつながらない!」
「うーん、わかってるのかわかってないのか〜」
ぶっちゃけわたしがうけた時点でみとめざるをえないってやつだとおもうんだけどねー
まあわかるよ。
みとめるって……苦しいし。
「そんじゃあいくよ〜! ほあちゃー!」
掛け声と共に前脚をババッと動かして構える!
かげも構えた。
もちこのままじゃあ攻められないから……
「さあさあ、カンチガイのないよ〜からつめようね!」
「何……?」
「わたしたちのなかが悪いだの、私以外のジンケンがないだの、スキホーダイいっちゃったけれどさあ……」
なんだか深いところでズキリと痛む。
なるほどこれがかげが……わたしが言われたくない回答。
「そもそもわたしたち……いつ3ひきになった?」
「なんだって……!?」
「そこぅ!」
かげを氷雪の竜巻が覆う!
つまり有効ってこと。
わたしは痛くないはずなのにどこかがズキズキ痛む。
……効いてる効いてる!
やっとなんとか氷雪の竜巻を脱したかげは自分の凍てつきを必死に払っていた。