六百六十八生目 黄色
"私"の目の前に黒い"私"が現れた。
「ヒント欲しさにまた殺されに来たの?」
「まさか、ぶっ飛ばしにきたのさ」
「強がりを」
それじゃあ遠慮なく調べさせてもらおう。いくらでも死ねて生き返って攻略のパターンを掴めるなら、最後に勝つのは粘り強いほうだ。
まずツバイがやれていないことを試すことからだ。今持っているスキル一覧をズラリと並べる。
ケンハリマ ローズオーラ レベル50 "無敵10"
ふうむ……? 予定とだいぶ違うな。
まずスキルをずらりと並べると言っておいて、ひとつだけとは逆に笑える。何も使えないのは覚悟はしていたが……
“私”の思考を読んだかのように“影”がクスクスと笑う。
「"無敵"レベル10の効果はなんだ?」
「私が知らないことに私が答えられるわけがない」
「……。そりゃどうも」
半笑いで答える。
"私"の“影”は私の知っていることしか知らない、
そして、さっきまでのことを考えれば『"私"の思考は向こうに伝わる』ことは間違いない。
思考が読まれるなら攻撃も回避もまるで意味がない。何も考えずに本能のまま戦っても、その本能を読まれるだろう。
このまままっすぐ行って右ストレートでぶっとばすのは論外。ツバイの二の舞になるだけだ。
ツバイの話だと“影”は私たちと同能力値どころかスキルをつかってきたらしい。
スキルのない"私"とある“影”ではあまりに能力差が大きい。
普通の戦いをするのは"私"でも無謀だとわかる。
ここにきて数分はたったが何故か“影”は“私”に襲いかかってこない。唯一黒いシルエットのなかで色を持つ黄色い目がこちらをじっと見つめている。
「殺しにこないのか」
「私が対立しない限りは」
つまり対立することを選ばなければ戦闘にもならないということか。では対立とはなんだ?
「対立しなければお前に勝てるのか?」
「これは『精神の対立』だよ。勝てなければ変わらないままだろうね。諦めて帰って“マモノごっこ”を続けるといい」
――それだ!
“マモノごっこ”
ツバイから聞いたとき、一番“私”が引っかかったところだ。“私”はツバイやアインスとは違って魔物としての本能が強い。むしろ魔物らしいと言われるまである。イタ吉が話したように。
違う。そう否定できる。
「私は、魔物だ!!」
“私”はいつの間にか叫んでいた。なんだ? まだ冷静に観察して様子見する時ではなかったか?
「どこがマモノなのさ!」
呆れた声、胸部に衝撃。
そこで“私”の意識は一回途切れる。
なるほど、これが対立ってことか。
「あ、ドライが戻ってきた」
なにかしらのヒント掴めただろうか。
さっきから私も入ろうと何度か試してみたけれど弾かれたように入れなかった。
アインスに試して貰っても無理で、あの場所にはどうやら私たちのなかの一人しかいけないようだ。
手持ち無沙汰で部屋をうろうろしてたのだが……
胸にチクリと傷みのような物を感じたとたんに突然ドライの気配が戻ってきたのだ。
戻った途端にドライは興奮したように叫びだした。
(わかった!!!)
それでなに? 何が分かったの?
(悪い、すぐ戻るわ! はいッ!)
待っっって!!! ねぇ!!!
さて“ヤツ”はまだ散らばらず塊だった。
エンカウントのたびに黒い炎が集まるのを見るのは面倒だと思っていたからちょうど良かった。
「何をしにきたの」
「対立をしにきた」
「へぇ」
黄色い瞳が細まった。
分かったことが分かるだろう。
“影”も“私”ならば。
「お前の血の色はなんだ?」
「私の血の色?」
「ああ……そうだ。“お前”(わたし)の血の色は、何色をしている」
不意にかけた言葉に疑問形で返す"私"の影。
自明の真実だ。
“私”が知ることを“影”が知らない筈がない。
だが答えない。
「何故答えない」
「それは、質問の意図が読めないから。」
「いいや、違うね。答えを見せてやるよ」
"私"はためらいなく自身の腕を裂いた。
相手がわずかに驚く。
浅く、しかし、しっかりと裂かれた傷から粘性を持った液体が溢れて流れ、伝い、鮮やかな血痕がいくつも地に落ちる。
さっきヤツに心臓を貫かれても出なかったものだ。
つまり“ヤツ”には都合の悪いことの証左となる。
「血は黄色い」
"私"の血は黄色だ。
土の加護を帯びた血は変色している。
私のどこを斬っても赤色の血は出ない。
「黄色い血のニンゲンはいない」
「それが、どうしたって?」
「わかるだろう? この身体は魔物だ」
物的証拠だ。
心に自信がみなぎるのを感じる。
「だから“私”は魔物だ!」
思いっきり地面を強く叩きつけると相手の足元から土槍が飛び出した!
やはり……か!