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六百六十七生目 相談

 イタ吉と初めて出会いどちらが狩るかというその時。

 生きるための激昂が色んなエグみや生存するための基礎心理を得た。


 私はあの時怒った。

 命の危機に奮闘した。

 生まれたばかりのころ、わけのわからないまま戦ったのとは違う。自分の意志で。イタ吉がいうように、殺される前に目の前の(イタキチ)を殺そうと思って。

 だからこそ生き延びられた。

 最後の最後に冷静になって、イタ吉はまだ生きている。


 あの時の命のやりとりが私のなかのドライという部分を形作ったんだと思う。 ドライは紛れもなく私自身だ。

 けれど私はドライを自分から切り離していないだろうか。

 敵を楽しそうにいたぶるドライに対して冷ややかな目を向けていなかっただろうか。


 イタ吉に言われるまではあんなこと私はしない。

 黒い影は私とは全く似ていない。

 と思い込んでいた。


 あの冷ややかな憎悪の目線はドライのものなのだろうか。

 うーん……別にドライには怨まれていないはずだ。怨まれてないよね?


『何も見ていないのは私』


 私の影の言う通りだ。影がドライに関係しているのなら私は見つめ直す必要がある。

 私が切り捨てようとしてきた私自身を。

 ようやくきっかけがひとつ掴めた。


「ありがとうイタ吉、また何かあったら頼むよ」


 前言撤回だ。イタ吉に相談して役にたった。

 私そっくりだなんて指摘、ほかの仲間たちはなかなかしないだろう。


「ん? いいのか? よくわからないけど、あんま無理すんなよ。あと……」


 イタ吉が少し考えるように視線を動かしたあとこちらを見据える。


「お前は確かに魔物らしくないが、間違いなく魔物だよ。俺が狩ろうとして、お前が俺を狩ろうとしたあの夜を知っている俺だからこそ、そう言える」

「……うん、ありがと」






 さて自宅へ帰ってきたわけだが。


(そうだな、"私"とツバイの記憶には齟齬がある。気配がなくなったかと思ったら、いきなりノビて帰ってきたからな、“私”は黒い“私”を知らない)


 これがドライの言葉だった。

 ちなみにツバイとは私のことだ。


 やはり。

 実はあの精神空間についた時から私もドライとアインスのことを感じられなくなっていた。


(うん、わたしもオドロいたよ〜! ま〜、そのあいだあそんでたからいいけど!)


 アインスはアインスでなんとも……とりあえず今回はドライのことから解決しよう。


 ドライってなんか私に対して思ってることってある?

 怒らないから正直に言って欲しい。


(はァ?)


 ほら、憎んでるとか~恨んでるとか~


(ハァ??? なぜ???)


 いやごめん。ちょっと聞いてみただけ。


 精神世界であったこと。イタ吉との会話で掴んだヒント。

 これから考えると精神の対立は私自身に眠る私の一部分との対立――だと思う。


 前世の知識から考えると、あの黒い私を私だと認めれば解決しそうではあるけれど、問題はその方法だ。認めるだけでいいのか、話し合うのか、殴り合うのか、融合するのか。


 創作舞台でも解決法はいくつもあるうえにここは現実だ。

 どれにも当てはまらないこともある。安直に答えを出すのも危険だろう。

 まだ分からないことだらけだ。


 ヒントを掴むためにもう一度行くという手は最終手段だ。

 身体に傷はつかなくてもあの精神世界はあまり長く居ていい場所じゃなさそうなんだよね。


 さっきから視界の端で [精神世界での対立を行います。 はい/いいえ] という選択肢がチラチラしている。


(“私”がいけばいいんじゃないか)


 ん?


(ツバイが分からないから“私”が行けばいいんじゃないか? “私”は少なくともツバイよりは“私”のことを理解している。“私”はツバイの話でしかヤツを知らない、少なくとも何か掴めるだろう)


 なるほど……ツバイだけで何とかしようと思っていたが、私たちでやれば良いのだ。対立だって、戦闘と同じように。ただドライが行けるか、行っても同じことが起きるかは分からない。


 そこのところはまずみんなで相談して……


(じゃあ、行くな、【はい】と)


 相談してから行って!

 思い切りが良すぎるよ!?




 うん……ここは……?

 これは……話に聞いていたとおりだな。

 やはりツバイもアインスも感じ取れない。


 ……敵か。

 いや話によるとこの邪悪な気配は"私"の影の部分か何かだったか?

 ぶっとばせば良いというわけではないんだったか。


 "私"の目の前にその冷徹な炎が集う。

 影となり形となり残忍な牙を剥く。

 それは確かに"私"だった。


「お前が"私"か」

「そして、(きみ)(ドライ)だね」


 なるほど確かにあれは私でなく"私"だ。口調こそツバイだが金の目の瞳孔が開き舌なめずりして……血を求めている。

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