六百六十二生目 髪飾
「まだ……!」
膝立ちになってしてもまだ戦おうとするアカネ。
彼女は変な汗をかきまくっていて明らかに冷静じゃない。
何をしでかすかわからないから……拘束!
イバラを伸ばして瞬時に"縛り付け"だ!
「あうっ!?」
よし『拘束』状態成功!
解けない結び方や動けない縛り方を覚えておいてよかった。
ぐるぐる巻きだと裏手で拘束縄をとかれやすいとか解くための有効スキルとかわりとあって油断ならない。
そしてもちろんこのままだと瘴気なり魔法なりで解かれかねないので……
「……えー、『因果の底、魂の呼びかけを閉じ込めその刃を封じよ。シーリング』っと」
「な、なにをして……!?」
空魔法"ストレージ"で亜空間から取り出したものを……
呪文を唱えつつ投げつける。
これは『拘束』した相手に効きやすくなるが根本的に効きにくい魔法だ。
今のような状況なら成功率はよさそうだ。
その投げた球体は黒い色で周囲に魔法陣が浮かんでいる。
当たると球体が変化し輪の形になって首を拘束した。
つまり首輪状態。
さらにアカネの全身に魔法記述の光が走っていく。
白く輝くそれはアカネの身体を逆光の影で包んだ。
すぐに何もなくなったが……
「う……何コレ……力が……」
「これはプロの捕縛用の魔法道具。凶悪な相手の拘束に使うらしいけれど。だから抵抗は無駄だから、おとなしくするように」
首輪はそのまま皮膚を這ってくっついたまま。
あれを壊すと再びスキルや魔法が行使できるようになる。
言わないけど。
ここまですればほぼ脱出不可能だろう。
きっちりイバラも自切して……と。
"正気落とし"で気絶して腹の悪魔の眼を破壊してからさあ運ぶ――
「うん?」
――前にすばやく接近してくる気配。
どこだ? わからない。
"絶対感知"を……
「もらったぁ!」
「……えっ!?」
いつの間にか召喚獣エンビィの姿が!
もしや透明化や不感知化する自前の能力があったのか?
指示無しでできる素の能力……またはアイテムか。
「なっ、私はまだ……!」
「どう見ても無理だぁ……! データは増えたぁ撤退だぁ……!」
「待て!」
高速で連れ去っていくエンビィにイバラと鞭剣ゼロエネミーを伸ばす。
エンビィの肉体は見る目に傷が多い。
今なら届く――
「これをぅ……こうぅ……!」
エンビィが何かを掲げそのまま地面に投げつける。
まばゆい閃光があたりを包む!
何も見えなくなって……
「…………逃げられたっ」
おそらくは事前に決めてある場所に飛ぶ転移系アイテムか。
そう後から考えても後の祭り。
転移先特定も出来ないよう痕跡消去の細工もされており追うことはできなかった。
ダカシは、
「そうか……」
と言うばかり。
うわの空のままその報告を受けていた。
イタ吉やジャグナーそれにダカシは私と別れた後善戦したようだがある時いきなりエンビィが戦線離脱したのだとか。
そして追いつけずに……
それもそうだ。
感知できないように潜んでしまったのだから。
相手が1枚上手だったというお話だが納得いく結果ではなかった。
ただ何にもないというわけじゃなく……
落とした竜翼の片側はしかるべきところで調べれば彼女の状態ヒントを得られそう。
それに……
簡易キャンプで私達だけで夜の中火を囲んでいる今なら。
「ねえダカシ、コレなんだけど……」
「うん…………あっ!?」
アカネが去り際に落とした小物入れ。
その中に大事そうに包まれていた折れた髪飾り。
多分これはダカシの話の中にあった贈り物だ。
「俺が贈った……!? どうしてこれを!?」
「アカネちゃんがうっかり落としたんだ。そのままエンビィに連れ去られたから拾い直せなかったみたいで、気づいていたのかもわからないから、回収しておいたよ」
「そうか……なあ、俺は今こんな姿で物をあまり持ち歩けない。かわりにそれを持っていてくれないか?」
ダカシはニンゲンの姿から諸事情でたてがみのない大きな黒ライオンへと姿を変えてしまった。
ダカシの目は懐かしむようにそれを見てふと背を向ける。
「私にこれを……?」
「ああ。大事に保管しておいてほしい。いつかアカネに返せるその時まで」
「……わかった」
ダカシがどんな想いでたくしたか。
探ることはできるがそれは野暮だろう。
私はただこの髪飾りを空魔法"ストレージ"で亜空間に大事にしまいこんだ。
「……というわけで、見事勇者一行が解決してくれました!」
今私は事情があってまたネオハリーに"進化"している。
しかもフルアーマーで全身覆って見えなくしつつ。
私の横にいるのはオウカにダンにゴウ。
ニンゲンたちのパーティー。
私達より前にたっているのが……
「ええっと……勇者やってます、グレンです。よろしくお願いします!」
グレンくんだ。