六百六十生目 貫通
相手は恐ろしく強い。
純粋なパワーなら敵う相手はとても限られるだろう。
今目の前で踏ん張り耐えている相手を見て思う。
けれど。
「えっ!?」
背後から剣ゼロエネミーがアカネに突き立つ。
そのせいで勢いをなくしこちらの勢いに飲まれる。
そして一瞬で吹き飛ばされた!
「ひゃあああっ!? そ、そんな!?」
そう。力なら。
けれど彼女なんというか……めちゃくちゃ経験不足。
圧倒的なレベルやパワーにまったく見合っていない戦闘経験。
正直『あなたまともに戦闘したこと両の手以上ありますか?』となるほど。
技量が劣る。カンがまるでにぶい。
さらになんというか……バトルセンスを感じない。
いままで一方的虐殺で勝ってきたかのような……
いやそれはありえない。
いくらこっちの補助魔法が整いだしたからと言ってもこれは……
普通50レベルまで鍛え上げるには修羅場をくぐり続ける必要がある。
それか種族的な平均値まで平々凡々に暮らして育ちきるか。
素で強大な種族ならそれもありうる。神とか。
でもなーあくまでニンゲンのようなんだけどなあ。
ニンゲンという種族は普通の生活をするならとくに修羅場をくぐらない生物だ。
それは種の中で比較的多様性を維持して社会というものを作り上げようとしたからである。
うまくいってるかどうかはともかくとして生涯狩りをしないなんて珍しくない。
私は初めてログとレベルを見た時に前世との比較で非常に驚き行動したがこの世界にいるニンゲンからしたら最初から当たり前にあるもの。
重力があってりんごが下に落ちるくらいの驚き。
つまりはそれが科学的大発見だと理解できなきゃ『そうだね』で終わる話だ。
それだけでは積極的にレベルを上げる理由にはならない。
数値が増えていって楽しい! みたいなものを追求するタイプでなければならない。
ようは前世で言う研究者や究明者にジャンルされる。
つまりはそこそこレアで大半はそれより手を動かして畑を耕しみんなの台所を潤す。
で。ニンゲンの大半はそういう生活送っても大半はトランスを1〜2回はするそうだが素では弱いニンゲン種が60年70年かけてそれなのだ。
この幼いアカネが戦闘慣れしていないのに異常なパワーを持つ理由がわからない。
引きこもって研究や修行をして身につけた力にしては正直強すぎるうえに実戦的パワーばかりある。
……そう考えれば考えるほどに与えられた力っぽい。
そうこう考えている間にも彼女は背中から内臓や骨を避けて刺した剣ゼロエネミーを持ちなぜだかさらに深く刺し込んで行く。
そのまま……うわあ。腹側から血を撒き散らしながら無理やり『前に』引き抜いた。
ちょっとドン引きして剣ゼロエネミー動かせなかった。
「アハハ……良い! 良い! これこそ力……ああ、魔王様に捧げる力はこうでなくちゃ」
また急速に煙を立てて傷ついた部分がふさがり治っていく。
な……治るからって言ってあんな扱いを自分の身体に!
ムチャクチャだ。
「何をしているんだ!?」
「何って……? 剣を引き抜いたんだけれど。誰かが刺してきたから。それとも……」
彼女は嗤う。
圧倒的な力を携え。その力に溺れた底から見せるような笑顔で。
「腹から出したこと……? ほら、私の身体小さいから。こっちからの方が、『楽』なのよ。アハハハ……!」
「くっ……!」
常識が通じない。
それは自然に彼女に恐怖心をもたらす。
正直不気味過ぎて笑顔に深い影が見える。
さらに実際にあたりに瘴気を漂わせ始めた。
今の所アレを使った技は驚異的だ。
相手もそれをよくわかっているようで。
「最初からもっとコレを使えばよかった。奥の手を使い続けるみたいで気が引けるけど――――最善手を打ち続けるのは大事!」
今度変化した形は……球体!?
しかもかなりの数だ。
大きさはちょうど銃の弾丸程度……ということは。
一斉に炸裂するかのように襲いかかってきた!
ドライ操作で剣ゼロエネミーはアカネの爪との切り裂きあいをしてもらって……
さすがにこの弾丸すべてくらうのはまずい!
直線じゃなくて広範囲にこちらを狙って飛んでくる!
効率は悪いがコレは確かに有効だ。
「うぐっ!?」
1撃かすった……ら吹き飛ばされた。
1撃であの刃にも似た衝撃が!
鎧のおかげで出血はしていないが……
弾丸は次々と襲いかかってくる!
とにかくイバラで打ち払う!
イバラたちは強烈な力で穴をあけられていく。
ただそのおかげで正面衝突はほとんど避けられた。
私の身体のあちこちに斜めから飛んできて弾丸の威力が横にそらされる。
痛くないかといえばかなり痛いが傷はどうかと言われればあんまり喰らっていない。
次々飛来してきた弾丸がある時急に金属を打ち鳴らす音と共に消え去った!
「くうっ!?」
剣ゼロエネミーがスムーズに鞭剣へ変化して不意の連撃を食らわせたところだ。