六百五十八生目 竜翼
「ああ、もう、ほら。召喚獣ごと吹き飛ばしちゃった。2つのことを同時に考えるの、嫌いなのに……」
どうやらまだアカネは追撃などはしていなかったらしい。
大盾ゼロエネミーの背後でダカシとジャグナーは様子をみている。
「アカネ! こんなことやめるんだ! その2つのことを同時に考えられないの、昔からそうだった! やっぱり本物のアカネだとしか、考えられない!」
「でもよ、あんなのまたやられたらいくらなんでもマズイぞ!」
戻ってきた私に気づいたらしく三者ともこちらを見た。
ダカシとジャグナーはちらとこちらを見て再びアカネに対して警戒。
逆にアカネはしっかりこちらを見る。
「あら……? 手加減したつもりはなかったけど」
「見た目のとおり、この状態は頑丈でね」
「じゃあ、アナタから破壊する」
一気に殺気がこちらに来た。
召喚獣より下手したらこちらの方が強いんじゃないか!?
こうなったら……
「ダカシとジャグナーは召喚獣の方を! 私はなんとかこの子を抑える!」
「ローズ! ……妹を、頼んだ……!」
「うん!」
ダカシが何か多くのものをのみ込んで噛み砕きこらえて任せてくれた。
なんとか期待に応えたい。
とにかくまずは追い詰めて拘束しないと!
接近しつつ用意してあった火魔法"ヒュージフレイム"!
巨大な火の玉が"二重詠唱"でふたつ!
挨拶代わりに青白いこの力の込めた2つを投げつける!
「おや?」
命中!
普段の炸裂パターンは火柱だが今回は室内ということで激しく内向きに回転をしながら横に広がる!
激しい炎上だ!
影が炎から飛び出す!
イバラを伸ばすとそのイバラたちが圧倒的な力により引き裂かれる。
見ると女の子の背に……えっ。
竜の翼……?
ど……どういうことだ?
「ここじゃあ狭すぎる。場所を移す」
「……わかった!」
条件をのまないわけにはいかないだろう。
正直文化的な遺産なものをこれ以上壊されるわけにはいかない。
アカネの跡を追って穴から外へ飛び出した。
街外れの湖ほとり。
誰もいないこの場所でふたりっきり。
始まるのはお茶会ではなく……
「ここなら、思いっきりやれる」
「……その背中は?」
「気になる? まだこれは序の口」
竜の翼がはためき高速でこちらに突っ込んでくる!
さらにまた瘴気が固まって刃が飛んできた!
さすがに今度は見てかわす。
上空に浮かんだ……のを見て高速飛来。
拳が飛んでき……違う!?
拳のはずがライオンのような前脚が剛爪をともない引き裂いてくる!
「くっ!」「ち!」
鎧の上から容赦ない叩き込み!
1撃ではなくその勢いとどまるところ知らず。
さすがにたまに痛い!
8回くらいやられたところでイバラを伸ばし打ち付け……ようとして距離を取られた。
引き際も心得ているか……
「さあ次は……」
「まさかまた!?」
腕が元に戻ったかと思うと今度は頭からなにかが長く生える。
そしてその何かは先が膨らみ……花が咲いた。
大きな花だ。
ってあれは!?
魔法が恐ろしく強いと記されていた種族の力の源!?
ということは……
「いけ!」
アカネの背後から大量の魔力口が現れる。
空間に現れたよどみのようにみえるものといえば良いか。
そこからは……魔法が来る!
太陽の光のような光線が穴という穴から降り注ぐ!
避けられないほどじゃない!
避けて。走って。受け耐えて。また回避!
そのまま連射で地面に巻き起こる土煙の中に飛込み身を隠し……
「どう? そろそろ……うぐっ!?」
「そこっ!」
空魔法"ミニワープ"で背後に登場!
からの体ごとぶん回してイバラの鎧纏い重さボーナス叩きつけ!
これにはさすがに彼女でも耐えきれずに地面まで叩き落とされた。
少したつと土煙が晴れた時にアカネの姿が見えた。
服を払って土を落としているのを見るとまだ余裕はあるらしい。
「……やってくれる。これほど力がある自分を、ここまで……」
「そっちもトンデモなく強いよね……」
正直『ネオハリー』はとてつもなく強いという自覚がある。
あの謎の変身能力といい明らかにタダのニンゲンではないが……
空魔法"ストレージ"で亜空間からおみとおしくんを引き出す。
これは特殊な伊達メガネでかけると"観察"の効果が増す。
相手が隠しているデータがこれでわかるはずだ
[キメラヒュムLv.50 個体名:アカネ 状態変化:悪魔憑き]
[キメラヒュム 魔物の力を各部位に自在に引き出す力を持つ人類種ながらかけ離れた存在。基本自然にここにたどり着くことはない]
うわぁ。悪魔憑き。
自然になることのないニンゲン種族。
不穏な単語のオンパレードにレベル50……