六百五十六生目 強化
相手は仲間ごと私達を攻撃したあげくに平然と切り捨てたり
まだ生きてはいるようだが……
それにしてもあの態度。
もしやカエリラスではなく王族や市民の可能性がある?
だとしたら余計にこれ以上攻撃させるわけにはいかない。
「……ダカシ!」
「…………わかっている。さすがに落ち着いた」
ダカシは平然と座り召喚獣エンビィに命令する暫定妹の方にまた突っ込んでいかないか不安だったが冷静さが戻ってきたらしい。
ただ傍から見ているとその冷静さもかなり不安定だが。
隠しきれない妹への強い意思がにじみでている。
「ああ……良いねぇ、その力ぁ……! たっぷりと塗られた魔法というソースで、恐ろしく力が跳ね上がっているようだなぁ……! しかも俺を前座扱いで、ほとんど、こっちを気にしねえとはぁ……うらめしい、欲しい、こっちを見ろぉ……!」
「何を……?」
いきなり語りだし首元をかきむしる召喚獣エンビィ。
さすがにそっちに集中せざるをえない。
何をしたいかわからないが危険なかおりがする。
「おいおい! もうわかったろう、お前単独にゃ勝ち目はねーっての!」
「あの程度の怪我ならローズが治してしまうし、さっきの補助魔法でお前の攻撃魔法でも俺ら自体にめちゃくちゃはダメージはなかったしな……理屈はさっぱりだが」
「アカネ……待っていてくれ! すぐ行く!」
エンビィの首かきむしりが止まった。
ピタリと動きがなくなったかと思うと小刻みに震えだす。
それは……まさに怒髪天。
長い髪の毛は逆立ち美しい女性の顔は怒りで開かれあまりに大きな犬歯……まさに牙がはっきり見える。
下半身の鱗が一部震え鳴りだした。
「来た……来たぜぇ……! 最高に高まってきたぁ!! やるぜぇ……!」
「……『宣言』を許可」
「いくぜぇっ!」
「取り押さえる!」
イバラたちを瞬時に伸ばし"縛り付け"!
あっという間に身体を拘束して……
「ぐっ……! 『てめえらの補助効果は、すべて俺の物だぁ!』寄越しやがれぇ!! そして、俺を見ろぉ!」
空間が一瞬淡い色合いになる。
その直後私の身体からごっそり力が失われた感覚。
いや……みんなもエンビィに何か吸われているような光が……!
今言ったことが事実なら……"観察"!
げっ!
私達からはすべての補助がなくなり相手は吸った分ある程度重ねた強化補助がかかっている!?
思わずイバラに力が入らずにふりほどかれてしまう。
うう……しかも強化していたポイントが少しずつマイナス効果をおまけしてこっちによのしている。
ちょっと待ってこれは最悪だ。
「どうだったぁ……? 俺の負け演技はぁ……油断せずガンガン強化し続けたようで、俺としては助かったなぁ……すげぇうめぇぜこれはぁ……!」
「ど、どうなって……」
「補助が全部剥がれた!」
「あ、俺の爪巨大化もとられた!」
ホントだイタ吉の爪がサイズ普通になり相手の爪はさらに大きくなっている。
まずい補助かけなお……しはダメか!
再度奪われてしまう!
とにかくマイナス状態治す魔法を!
「ま、まだ俺には尾の刃があるぜ! 回転切りぃ!」
イタ吉が再びコマのように回りながらエンビィに接近する!
「あぁ!?」
瞬時に炸裂する刃。
きらめいたのは……エンビィの方だった。
爪が高速で振られ素早いはずのイタ吉にパワーで切り通した。
「なっ……」
イタ吉は赤い鮮血が舞い変な回転をしながら吹き飛び思いっきり壁に身体を叩きつけられる。
そのままガクリと気を失ってしまった。
「イタ吉!?」
「うお、マジか……」
「こっちがある程度奪われている以上何段階も強くなったのと同じ、ということか!」
錯覚で相手が何倍も大きく見える……
「クハハハ……クハハハハァッ! さあさ、ここからが見せ場だぁ……!」
とっとりあえず聖魔法!
[リターンフラット 筋力や防御能力などの上昇効果と下降効果をすべて打ち消す]
適用……全体!
味方と共にエンビィもだ!
とりあえず味方の悪かったステータスはもとに戻る。
「カッ!」
ぐっ。味方はともかく敵は気迫で抵抗されてしまった。
エンビィには失敗か……
イタ吉を起こすにしても生命力を治さなくてはならないから"ヒーリング"の範囲がけは続ける。
「この力は、魔法どうこうでどうにかできるもんじゃねぇんだよぉ……! 死にさらせぇ……!」
凄まじい気迫……!
こうなったら……
「みんな! こいつは私に任せて! みんなはなる早で召喚者を倒すなりなんなりして!」
「いやアカネを傷つけてはダメだ! 説得する!」
「無理すんなよ! どっちも!」
私が盾になる。
全身アーマー展開! 超低空飛行! イバラ5本と尾のイバラ!
そして剣ゼロエネミーだ!
自分の補助の力をこうして思い知るハメになるとは……
なんとも嫌な展開だッ!