六百五十四生目 動揺
召喚獣エンビィの放つ気配でその目を奪われる。
何せダカシを持ち上げていたのだから。
正確には毛皮に土掘り爪を喰い込ませて両腕であの巨体を掴み上げていた。
「ダカシ!」
「う……ぐぐっ……」
「来たか、ローズ!」
「コイツ強えぞ!」
この短い間にイタ吉やジャグナーは傷ついて荒い息をして端にやられていた。
ダカシは捕まっている……
状況把握を急ごう。
奥で椅子に座っている女の子? が召喚者のようだ。
召喚者と召喚獣特有のつながりの気配がある。
さらに端に魔法陣。
今は起動していないがローブのニンゲンが多数座って疲労している様子。
中央に座っているローブのニンゲンからは召喚獣バケーションとのつながりを感じれる。
うーんざっくり見た感じだと魔法陣周囲のニンゲンから中央のニンゲンに行動力を送り込むものだ。
つまり電池。
このニンゲンたちが特殊なスキルを持っていない限りこれだけでは足りないからエネルギー結晶運搬係でもあったのかもしれない。
そして膨大な霧のダンジョンを生み出していたと。
召喚獣パワーが大きいとは言え大掛かりな……
とりあえず。
「離してもらおうか!」
イバラを召喚獣エンビィに向かって素早く叩きつける!
さすがに危険な攻撃と感じ取られたのかダカシを投げつけバック。
私はイバラの攻撃を中断してダカシに対して"縛り付け"。
ダカシは一瞬でイバラに巻きつけられてこちらに安全に引き寄せられた。
ふう……
こういうこともあろうかと準備しておいた"ヒーリング"を範囲拡大してみんなを治す。
じわじわと治しつつ拘束を解除してダカシを解く。
なんとかみんな勢揃いだ。
20匹のみんなは……うん。安定の隠れモード。
「何だぁ……? テメェ……? もしや、あれだけ送り込まれてて、ピンピンしてやがるのか……?」
噴き出しそうになってこらえた。
この野太い言葉が美しくもどこかいびつな召喚獣エンビィから発せられるとは!?
てっきり女性かと……
また声も野暮ったくなくどちらかといえばまるでプロ声優のイケメン声。
だからこそ……やはりこのアンバランスさが際立つ。
「ダカシ、まだ行ける?」
「あ、ああ、けど待った、待ってくれ!」
「え!?」
ダカシが前に出て私を止めた。
一体何なんだ……?
ダカシの体がでかい分下手には動けない。
代わりに魔法練っておこう……
「なんだぁ……? また殺られに来たのかぁ……?」
「お前じゃない! 後ろの……アカネ! なあアカネなんだろ! 兄ちゃんだよ! 姿は違うけど、ダカシだよ!」
う。ううん? もしやこの流れは……
薄々察したがたしかにこれはイタ吉やジャグナーではわからない。
というかより推測どおりならなぜ……?
ダカシが何度も背後で座っている女の子に呼びかける。
見た目や気配は確かにニンゲンだ。
けど召喚者で……何よりダカシの呼び掛けにはまるで反応がない。
「おいぃ? またギャーギャー騒ぎ出したぜぇ……? さっさとやっちまおう」
「そうね。爪撃」
「おるうぅらぁッ!」
指示によって召喚獣エンビィの爪が輝き突撃してくる!
まずいダカシは気を別のところにとられすぎている。
だからさっきみたいなことに……
よし! ためていた魔法で妨害!
土魔法"ストーンウォール"!
土の壁が急にふたりの間にせり上がる!
「うわっ!?」「ちいッ!」
エンビィの爪はダカシのかわりに壁を切り刻む。
しかしその程度で土の太い壁は傷つくだけ。
きっちり部屋端まで生んだので掘ってこないとこちらにこれない。
今のうちに……
「ダカシ! ダカシ、何があったの? まさか……」
「え……あ……あっ、ああ」
ダカシの前に回り込み頭を持って揺らす。
どこか違うところを見ていた憔悴した目がやっとこちらを見る。
「ねえ、まさか、あの女の子は……」
「俺の見間違えじゃなければ……ちょうど年を考えると……育った妹のアカネだ!
「やっぱり……!」
ダカシは小さい頃に村の面々や家族をおそらくは殺されている。
遺体もなく妹に至っては悲鳴も斬られたのも見ていない。
けどあまりに長い間その痕跡すらおえていなかった。
つい最近仇がカエリラスにいることが判明しダカシは積極的に協力していてくれる。
ダカシの目的は復讐。
たとえニンゲンの姿を失おうとも歩みを止めなかったのはそれに支えられているから。
その思いを打ち砕くような光景は今土壁の向こう。
「……というわけなんだ」
「え? じゃあそのイモートは死んでなかったということか?」
「そうなる……のか」
イタ吉とジャグナーに状況を解説。
稼いだ時間で生命力もほぼ完治させた。
見た目はボロボロのままなのはこの魔法なのでご愛嬌。
「らあッ!!」
「来た!」
斬るのではなく壁を掘って大穴を開けられた!
土という特性上正解である。