六百五十一生目 霧散
霧のダンジョンを抜けてどこかの建物内。
長椅子の上に寝そべり思いっきり寝ている人影。
けれどそれはニンゲンではない。
全体的な容姿はロバだ。
腹を出して寝ているロバの後ろ足は蹄なのに前足は熊。
そして全体のフォルムとしてはニンゲン。
獣人とも言うのかな。
まあそれを言ったら今の私も……だが。
ともかくそれが私にすら気づかずガッツリ寝ている。
とりあえず近づいて……
あ。さすがに気づいた。
意識がこちらに向いた……けど目が開かない!
ただ姿勢だけはかわった。
寝返りをうちこちらを向く。
すごい。多分敵なのにこの警戒心のなさ。
「えっと……」
「……うーん……起きてるって……あと5分」
「いやすごく困るから起きて!?」
ここで殴ってもなんだか解決する気はしないしさすがに無抵抗の相手を攻撃は……
そうこうして長々と時間をかけて座ってくれた。
「さて……ええと、突破おめでとう。まさかオレのダンジョンを突破するとは。え。すごいね。まさか突破するだなんて」
大事なことだから2回言ったのかな。
相変わらず表情は読めずぼやーっとしている。
言語は帝国語。だいたい察しはついているが……それ"観察"!
[バケーション 状態:眠り]
[バケーション 太古から存在する1柱の月にいる神。癒やしと腐敗を司り顕界するさいはロバや不死鳥の姿を取る]
あー……はい。召喚獣ですね。
まあこれほど大規模な仕組みを造る敵側としたらそうかなとは。
多分『宣言』とかいうやつで世界をいじったのだろうなあ。
「それで、キミは戦うの?」
「まさか! 戦うだなんて面倒な事やれないよう。オレは寝て、ダンジョンを造るのでせいっぱいだったからさあ。戦うのは大変だからね」
すごい。寝ているのに受け答えしている。
そういうスキルか何か持っているのかな。
それにしてもまた2回言っている……
「なんで、蒼竜を倒しちゃうかなー? こう、カミサマだよ? カミサマ」
「あー、私別に蒼竜教じゃないので」
「でも少しは、その、とまどうとか……まあ、起きようか。オレの夢、霧のようにいつの間にか晴れ、そして誰もが忘れる。目が覚めるからな」
おっ。状態が普通になった。
更に背後の空間穴が消える。
通ってきた道がなくなったということは霧のダンジョンはなくなったわけだ。
「おまえさんの手に入れたものも、仲間にしていた魔物たちも、みんな霧として消える。何もかも初めからなかったかのように……」
肘を長椅子につきもたれかかって余裕そう……
……だったのから一転。
目は閉じままだか前かがみに乗り出す。
「……どうしたの?」
「な……あれ……? 消え……おかしいな。なんで消えないんだ? ダンジョンは消えたのに、そこにまだ魔物たちが……」
「それはね」
今の自分はおそらくなかなか悪い顔になっていそうだ。
私の背のマントはもう8割ほど脱色している。
階段作成に使ったのは1〜2割程度なのにだ。
「蒼竜のホンモノの力、このぐらいは出来るってことさ」
「う……ううん? まだオレ寝ているのかな……もいちど寝よう……そんな日和見主義の蒼竜が関わってくるはずが……」
横になった!?
現実逃避されても困る!
「いやいや! 今は現実だよ!」
「うぐぐくかが揺れる揺れる……」
肩を掴んで揺り起こす。
なんとか現実だと認識してもらったところで……
相変わらず目はつぶっているが周囲の把握は出来ているらしい。
「まったく20匹も持ち出して、報酬品すらたっぷりと……もし突破されても霧になるはずだったから、デメリット考慮してもムチャしたのになあ。20匹だよ20」
「まあ今回はかなり裏技だったから……」
神の力で彼らや手に入れたものに『干渉』そして個の存在へと確立させた。
できるかなーと思ったら出来たレベルだがかなりガッツリ神の力がなくなってしまった。
早めに補充しなきゃ。
「まあ、原理はよくわからないけれど…、とりあえず、この先に用があるんだよね? いきなよ。オレはまた寝るからさ……」
確かに奥に扉が。
この先にいるのかな……
この召喚獣の召喚主が。
あっさりと召喚獣バケーションは寝てしまった。
せっかくだしみんなを喚び出しておこう。
イタ吉にジャグナーそしてダカシを空魔法"サモンアーリー"で召喚した。
「でっかい蛇と戦っていたらいきなり外に放り出されたぜ! そしたらお前の呼び出しがあるし、まったく不完全燃焼だぜ」
「やーっと戦えるってもんだ! 戦場を支えるのもいいが、やっぱ戦場に立ってこそだなぁ!」
「久々の晴れ舞台か。なんとかなると良いが……というかこいつ放っといて良いのか? しばったりとか」
三者三様の反応で来てくれた。
部屋がかなり狭くなったし進もう。