六十二生目 灰塵
まずはオジサンが駆け出した。
闇の爪が恐竜型を引き裂く。
ガリッとヒット。
……だがあまり効いてない！
「さすがに他とは違うか」
オジサンは反撃の踏みつけを跳んで避けつつ有効打を探す。
爪で裂いて下がってを繰り返しているがあまり効いてない様子。
一応炎付与魔法ついてるんだけどね。
相手が1体なら時間をかけてなぶっていけるのだけれど、2体もそれはつらい。
次は"私"に向かって巨牙虎型が突進してきた！
「主よ、前はおまかせください！」
そう言って"私"の前にアヅキが立ち剣と牙が合わさる。
エレキが敵の身体に走り押し返そうとしているが……
「むうっ！？ 強い！」
互いに弾かれ共に下がる。
実力は互角といったところ。
オジサンの方をちらっと見ると避けに集中しつつも水カッターの魔法でじわじわ削っている。
まずはこっちから早く落として救援に向かわねば。
切れる補助魔法かけ直しと共に強化炎膜魔法を唱える。
強化内容は対象を自分からアヅキへ！
「おお！ これは良いですね！」
アヅキの正面に張られた炎と共に再び激突。
今度はアヅキ自身が自らに雷を這わせた状態。
そして拳に炎付与魔法。
真正面からの殴り合いだ！
ただ炎の膜が自身を燃やす危険性くらいなら理解できるのか巨牙虎型骸骨は少し距離をとりつつ中距離で攻めている。
アヅキは何重もの防御魔法で強気の攻めだ。
何かの魔法なのか骨のようなものが宙に形作り投げつけられるがすべて炎膜により溶かされ消える。
「グハハ、主と私の力がその程度で負けるか！ 逃げるな！」
炎膜の弱点はその効果時間の短さ。
鍛えてはいるがまだ30秒ほどしか持たない。
さらに結構行動力を使うからタイミングは考えねば。
「その魔法、連発は難しいから見ながら当てていく！」
「承った！ さあ！ もっと来い！！」
アヅキが炎の拳で牙を掴み引っ張り投げる。
巨牙虎型はすぐに立ち上がってアヅキの剣の下突きを避けた。
雷の剣に炎がつかないのはやはり雷の魔法という扱いなのか。
炎膜が切れたがアヅキの手は緩まない。
"私"も強化投石魔法を準備。
ちらりとレヴァナントの方を見ると淡い光が魔法陣から上へ伸びている。
そしてその内側に彼女がいるわけだが……
何かをものすごい形相で叫んでいる。
そして淡い光を内側からガンガン叩いているようだがまるで音が来ない。
向こう側からこちらへもシャットアウトしているのか。
魔法が飛んでこないか心配していたがおそらくは大丈夫か？
邪魔される前に斃そう。
その時頭に突然直感が走った。
電流のように走り理解出来たことは『数秒後アヅキに対して敵が何かする』
アバウトな内容ながら確信に近いと理解出来た。
これは……スキルの怨嗟喰らい！
[怨嗟喰らい 相手からの恨みや憎しみから起こる行動を事前に知り対処出来る。]
昔とったスキルだ。
ついに役立つ時が来た。
生者への強い恨みみたいなもので攻撃している骸骨へは高い効果があったらしい。
まずはストーンショット！
大きい岩にしたものを打ち出すと重く頭に当たり砕ける。
大きく揺れてたたらを踏んだが耐えたか。
そして"私"の方へ敵意を向けてきた。
「主には触れさせん！」
するとアヅキがその間に立ち塞がった。
あ、これだ。
そう直感が告げる。
この後危険な攻撃がアヅキを襲う。
急いで強化フレイムガード！
アヅキへ！
すると巨牙虎型の右腕が光り一瞬で長く変化すると長い牙が外れ右腕に付いた。
そしてビュッ！ と高速でまっすぐ長い腕が突き出された！
ギリギリで炎膜がアヅキの前にはられ燃やす！
それすらも貫通するが何重ものガードとアヅキの剣の腹で受けきれた！
激しく押されるほどの威力。
「ぐっ！？ だがっ！！」
アヅキが剣を離して長く突き出された腕を両手でつかむ。
そして炎と雷撃の力で腕を燃やした！
「主よ、さすがのタイミングでした！」
アヅキはそう言いつつ腕を引っ張り抜いた。
捨てれば骨は燃えて灰になっていく。
巨牙虎型は右前足の骨がなくなってアンバランスになった。
状況は一気に好転だ。
素早く逃げれなくなった巨牙虎型はアヅキの追撃から逃れる術はない。
両腕に雷と炎が宿ったラッシュ！
ドカドカドカドカと骨を砕き燃やし痺れさせる！
「はぁ！！」
最後にストレートが決まって骨は無惨に砕け散った！
燃える骨は灰になって土へ還っていく……
あと1体だ！
オジサンとアヅキのために範囲ヒーリング！
そのまま前へ出る。
「今度は"私"もやる！」
「では、是非お楽しみください」
アヅキと連携をとりアヅキを下がらせる。
補助魔法を範囲で掛けつつ敵の様子を見た。
「見た目の割に素早い、気を付けろ」
骨だけだからだろうかオジサンの言うとおりに身軽に飛び跳ねて踏みつけてくる。
動作さえ見ていれば避けるのは難しくないが、見上げるほどの大きさ。
攻撃を与えるのは厄介そうだ。
おっと！ 頭を振り回し噛み付いてこようとする。
影避けでよけつつ頭を斬りつけ。
うーん、硬い！
少し嫌がる程度か。
また怨嗟喰らいのスキルが起きて今度は"私"に対しての攻撃か。
フレイムガードを唱えてタックル！
よく乾いた肋骨に当たり燃える。
たぶん、今だ。
強く相手を蹴って背後へ跳ぶと槍のようなものが空を切った！
あ、尾が変形したものなのか！？
骨たちはすぐに自身の姿を変えて襲ってくるな！
決めるつもりの死角からの一撃だったのか勢いがつきすぎている。
そのスキにオジサンと"私"で強化土槍魔法で足を刺し壊した！
変化効果は速攻。
ラグなく出せるから便利。
脚骨が壊れ倒れる恐竜型。
それに"私"が乗って針操作で背の針を抜く。
炎の牙で噛んで噛んで、針操作で刺しまくる！
確かに頑丈だが私の顎の骨も負けてはいない。
逃れようと暴れるさなかバリバリとカルシウム摂取！
針操作での針も致命打にはならないが少しずつ燃やす。
暴れる力が弱まってゆき最後には身体全体が燃えだして脱出。
うーん、やっぱり死んだ骨は硬いだけだな。
まあ成長期だからね、歯のかゆみが取れてよしとしよう。
そうして二度と起きることはなく恐竜型は灰になった。
「お見事でございます」
「ありがとう、でもまだ終わりじゃない、か」
そう、問題はレヴァナントだ。
彼女の方を見たら魔法陣の光が弱まっていく。
あの骸骨たちがいないと動かないタイプの仕掛けだったのかな。
そして光の中からは膝を崩した彼女の姿。
「そんな……ワタシの全力を注ぎ込んだはずなのになぜ……？」
ふむ、それは良いことを聴いた。
もう抵抗できる力は悪あがきくらいか。
「に、逃げなくちゃ……！」
レヴァナントがヨロヨロと立ち上がり移動しようとするがアヅキが飛んで先回りした。
「逃がすわけないだろう、さあ来い！」
「ひいい！？」
「そいつ、もう全ての力を使い切ってしまったらしいよ」
それを聴いたアヅキが思わず笑う。
なんというか、悪い顔だ。
オジサンにも同じことを説明したら頭を悩ました。
「ならばアイツどうする？」
「うーん……そうだなぁ」
今は抵抗できないとは言え散々苦しめられたし、また襲ってきそうだし。
それに見たことはないとはいえ、"私"の群れにも死者が出ている。
アヅキも今にも殴りかかりそうだ。
「じゃあ……死なないように軽くアヅキパンチ」
「承った！」
そう言うと素早いフックが繰り出されか細いレヴァナントの身体が浮く。
「がはっ！！」
そのまま倒れ込み"私"は彼女に近づく。
観察してみるとあまり生命力ゲージが減っていない。
純粋に彼女の強さも関係してそうだが、手加減はしてくれたのね。
「こっちも被害が出てるんだ、罪は償ってもらおう」
「ば、バケモノ……！！」
彼女の目には何が映っていたのか。
燃え盛る針が宙に浮いていて、自らに四方八方から刺さる針の光景か。
まあスキル峰打ちとはいえ死ぬほど痛いだろうな。
針を抜けば、生きている証の血が噴き出た。
やっぱり……生きてるやつは良いな！
ああ、気持ちいい……
