六百四十三生目 干渉
元のない流れという不自然さは誰かが想像で作ったものなのだから仕方ない。
けれどその元である龍脈がないから困っている。
この不自然さ……『そこにあるもの』があれば……
ゾクリ、とした。
今のはなんだ?
急に強く不可思議な感覚が私を撫でた。
いや……今の感覚を私は知っている。
なぜだ? ここが蒼竜のお膝元だから私も強く影響を?
なぜ『ネオハリー』じゃないのにあの力の感覚が……
とにもかくにももう一度。
頭から前足の肉球へとあの感覚をもう一度手繰り寄せる。
細い糸の先にあるものを……
先へ先へと自身の内側を探っていく。
なぜ……なぜ今神の力が内側から発されたんだ。
今はネオハリーではないのに。
……あった。
有るはずのない力。
蒼竜の神使としての力。
少し冷えるような感覚を頼りに前足を右側突き出す。
淡く輝いている。
ええとさっきの思いは……
そう。あるはずのものがないいびつな状態。
水は循環しそこで龍脈に触れて混じりここで湧くことで恵みの泉となる。
自身の感覚を信じると……こう……かな?
前足を地面へタッチ。
広がる波紋を拡張された感覚として扱い操る。
まずは恵みの泉につなぐ。
そこを中心として波紋を広げていく。
全体のあるべき姿を思い描く。
この霧の世界に……『干渉』する!
「わっ!」
不可思議な現象が起こる。
氷で出来た花が次々と咲き始めた。
一瞬だけ地を埋めてから花が萎えて溶け何もなかったかのように消える。
……あ! "絶対感知"したらさっきと見えない部分がまるで違う!
水の流れと龍脈が発生している!
これは……自分がやったのか?
霧の世界がもともとかなりのなんでもありだからこういうことも出来たのだろう。
今の私でも神使の力が眠っているだけで引き出せる……のかな。
まあ新たに受け取るにはやはり『ネオハリー』になる必要があるだろう。
龍脈の位置を探って掘り進む。
やがて毛皮がヒリつくような力の気配を感じるほどに深く掘れた。
ここだろう。
5つの魔力……そして龍脈の力を蒼竜の神使として味方につける。
光の卵のなかで全てが混ざり合い……
今目覚める!
「ハァッ!」
殻を破り『ネオハリー』!
この姿はホリハリーの2足歩行を中心に全部乗せの姿だ。
余計に蒼竜の力を受け取れるツノと神の力をたくわえるマントがある。
……さっき使ったので一部分少し脱色したマントになっている。
無駄に悪者風にボロボロなのだから余計に見た目が悪く……
この神の力残量は少し変わった特性があるのはわかった。
蒼竜がいるときに蒼竜から神の力を受け取れば少しずつ治る。
逆に放置では寝てもさめても治ることはない。
今みたいに遠征時は計画的に使うことが求められる。
まあ今の量があればしばらくは平気かな。
……そうだ。さっきの技。
霧のダンジョンという創られた不完全な世界に概念を置く作業。
そこに何度も挑みみんなの情報を集め世界のことを理解深めたからこその芸当。
現実世界でやれと言われたら……まだまだ難しいだろう。
ただ……逆に言ってしまえば。
「よし。このダンジョンはブレイクしちゃおう」
みんながポカーンとしている。
まあ花が咲いたり私の姿が変わったりなんかよくわからないこと言い出したからね。
でも……多分出来る。
まずは普通に上の階へ。
「みんなー! ちゃんといるね?」
……うん。数は揃っている。
準備は万端。
ちょっとはりきってやってみよう。
想像するのは……階段。
このダンジョンで次の階へいざなう闇の穴。
魔術的な仕組みは細かく話すと長くなるがざっくり言うと階段という見た目の転移装置である。
この階層にいる間に次の階層が霧の中から自動的に発生する。
5倍の数だけは必ず固定のしかけがある。
そこで次の階の構成が決まったらこの階段により次の階へ飛ぶ。
事実上空魔法に近い。
地点Aとaを繋げる穴を作り出す"ゲートポータル"に近い。
それがこの世界の『階段』の役割だ。
創造するのは……階段!
マントをひるがえすと光の波が起こる。
光は壁に纏うと……ガタン! と大きな音をたて崩れ去った!
そこには階段が現れている。
みんなで登ってみると無事12階にたどり着いた。
持っている情報も正しかったらしくかなり効率よく出来た。
神の力残量はまだ十分。
さあ。もう一度だ。
概念『干渉』!
む!?
20階から上がろうとしたら階段が出来ない!
つまりは……この控えに階段を造るのは正しくなくさらに言えば抵抗されている。
15階の水浸し空間で階段かわりの渦を作れた時は結構いけると思ったんだけれど……
やはり向こうも無策で突破されたくないらしい。
20階は強敵部屋。
つまり……またヤドカリを倒す!




