六百四十一生目 首元
突如魔人は跳んで槍を突き出して上空にいた私の身体をはねた。
"龍螺旋"は不発だ。
しかもそのせいで大きく私の身体がひるんでしまう。
(くっ、立て直しが間に合わない!)
ドライ……! このままだとマズい。
鞭剣ゼロエネミーを急いで向かわせる。
魔人は天井まで行くとくるりとこちらの方を向き再びこっちに向かってくる。
空中でしかもひるんで動きがにぶい私に対して蹴り落とす。
地面に衝突! 必死に受け身をとった。
こういうのは……よくあるんだ!
さらに私の周囲に魔法記述が展開されていく。
6つの魔力玉が周囲に生まれ飛んで私に飛んでくる!
1つめ……!
「ぐっ……!」
炸裂し身体が空に舞う。
2つめ。3つめ!
「がッ!」
4つ5つ6つ……!
身体全体がしびれるほどの痛みが!
うう……
さらに天にいた魔人が槍を両手で持って落ちてくる……!
(これ以上はまずいぞ!)
他にやりようは……ない!
しかたない……唱えよう。
槍が相手の全力を込めて私を貫く!
――しかしそこに私の身体はない。
空魔法"インターラプトル"!
瞬時に唱えられる魔法だがしばらく使えないというのと……
ランダムでどこかに転移するというデメリットを抱えている。
どこに飛んだかだなんて私すらわからないのだから素早く状況を把握するしか無いので"止眼"だ!
ええとここは……
ええっ!? あんまり位置変わってなくないか!?
少し上にいって確かに攻撃は避けれたけれど!
このままだと支え無しで落ちているところを返す刀ではなく槍で刺される。
引き伸ばされた思考時間で"鷹目"を使い活路を見出すんだ。
そう……ドライ! イバラを!
(そうか! よし)
"止眼"解除!
すぐに落下が始まる。
それと同時に狙いをつけておいた場所にドライがイバラを伸ばす。
下へと構えている槍だ。
その槍へイバラを"縛り付け"で瞬時に巻き付けて自分の身体を引き寄せる。
「ウッ!」
気づいた魔人は着地と同時に槍を振るう。
そりゃそうだ引き離したいもんね。
「うおっ、うわっ! おわっ!?」
世界が揺れる! 何度も振られグラグラと!
これ以上は危険とドライは急いで自切した。
吹き飛ばされるが空中で立て直し地面へ降り立つ。
ズザーッ……と地面を滑り爪をたてて踏ん張る。
改めて魔人の方を見てドライはにやりとした。
魔人は改めて槍を回転させこちらへ向け……
明らかに動揺した。
そう。何かに気づいたのだ。
その何かとは。
槍の柄が腐食し今の衝撃で折れかけているのだ。
相手は思うだろう。
いつの間にと。
「ふん、"私"の毒は尾先だけじゃないってこったよ」
首筋周りに輝く毒液。
赤い花の棘。
これは尾先だけではなくこちらももちろん猛毒。
あの槍にイバラで捕まって自分の体を引き寄せたときに槍に対して首にある赤い花を刺したのだ。
かなり手荒だが実際有効だったらしい。
槍は腐食が進み次々と木材部分が腐っていく。
魔人はその槍を……思いっきり投げつけてきた!
やぶれかぶれだろうけど結構速いッ!
「あぶなっ!」
今生命力が削れてるんだから少しでも危ない!
そもそもあんな槍が当たったらめちゃくちゃ痛い!!
ドライがなんとか身を翻し避ける。
「ウッ!?」
素早い身のこなしで魔人が身近に!
イッタッ!!
下から拳を振るわれた!
軽くとばされ受け身を取り立ち直る。
"ヒーリング"の準備しつつ鞭剣ゼロエネミーを前に出す。
さっきの槍投げはブラフだったか。
硬質な拳は十分な破壊力がある。
追い詰めた私を倒すには十分だ。
けれど!
(よし! いっくよー!)
アインスの補助により脳内での光景に情報が足される。
動きの先読み。脆い部位。みなAR的に情報が足された。
行こう!
接近すると魔人の拳が唸る。
右腕正面! スレスレ回避して耳に風切る音が残る。
ためらいなく左腕大きめの横から。
ココで"ヒーリング"発動! 少しずつ生命力回復。
鞭剣ゼロエネミーが形戻って剣モードに。
左腕の薙ぎに合わせて剣を突き立てる!
勢いよく剣に対して手首の脆くなっていた変色部分にぶつかる。
深く剣が突き刺さった!
殴れずに思わず腕を引っ込めた。
そのスキに最接近!
ドライはイバラで最も速い"近接攻撃"で弱っている部分を叩き貫く!
何本ものイバラが脆い部分を一気に破壊した!
やはり結構なダメージなのかさすがに魔人も倒れかかり頭を垂れる。
「"龍螺旋"だーッ!!」
剣ゼロエネミーを再び鞭剣モードへ。
更にイバラたちも5本一斉に空を舞う。
そして……
12もの爆裂音が鳴り響いた……