六百三十八生目 魔人
魔法陣に入ったらあっさりも36階へとたどり着いた。
みんなも一緒だ。
ワニとトカゲの事……記録しておこう。
ここから少しの間は強力な敵たちがダンジョン内をうろついているのでなんとか対処しつつ登っていく。
ここで仲間にした子たちはみんな平然とマグマの中に入るのでビビる。
もちろん敵もそうということだが。
そして……40階。
強敵の部屋だ。
いつもどおりみんなは控えに。
私はロゼハリーに"進化"した。
イバラも不燃化するように薬液をかぶっておく。
準備さえしておけばそこまで炎には弱くならないと思う。
中は相変わらずマグマが壁を流れ落ちている。
マグマって岩だから実は質量がめちゃくちゃあるらしくニンゲンが乗っても沈まないと聞いた事がある。
試してみたことはない。
私は溶け死ぬのはゴメンだ。
広めの平らな土地と中央に鎮座する存在。
全身が金属とも皮膚とも……それと鱗や甲殻ともいえないもので覆われたそれ。
人型であぐらをかいているものの全身を見るにゆうに3メートルはある巨体。
身体に巻いてある太い尾。
筋肉繊維が見えている部分もありグロテスクなのに異常に硬そうなコーティングしてあるようだ。
顔はまるで鎧面のように……いやまさに悪魔をかたどったかのように輝く石のような瞳と唇など無いギザギザに閉じられた歯にあたる外殻部分。
そして黄金のツノ。
全身金メッキと言ってしまえば楽だが実際は地の色として美しく磨くのではなく汚れたかのようにくすんでいる。
まさに魔人。
邪悪と欲を詰めた化身のようだ。
その魔人は私をその石で出来た目で見つめたかと思うとゆっくりと立ち上がる。
……警戒し身構える私に対してあくまでマイペースに立ち肩をひねって手を空にかかげる。
すると光と共に槍がそこに現れた。
長い木材と先だけ鉄材で作り出した小振りの刃。
そして元は何かの旗だったのかズタボロになり長い布切れとなったものがついている。
……そう見えるのが恐ろしい。
あの槍……強い力を感じる。
少なくとも魔力は籠もっているだろう。
彼が軽く振ると場の空気が一気に引き締まったようだ。
魔人は尾を自然な状態へと戻す。
私も負けじと剣ゼロエネミーを魔法で念力のように操り浮かせ振る。
ドライ身体の方は頼んだ! このさいリーチの差は気にしてはいけない。
アインスも補助よろしく!
(行くぜ! 血が欲しいがな……!)
(あいあいさー!)
私は剣ゼロエネミーの操作だ。
集中するぞ……!
なにかの合図があるでもなく両者は動き出す。
ドライは私の身体を巧みに扱い駆けながらイバラを同時に何本も操る。
"猛毒の花"がある前は操作集中のために立ち止まらなきゃいけなかったなあ。
イバラは自由がきく分なんでもやることを意識しないとだからね。
つまりはグニャグニャに自由に動ける腕を同時に何本も操るのと同じ。
"猛毒の花"で身に宿している毒が自身に対してだけは活性化につながっている。
普通の限度をこえて安全な範囲で脳の活動が行えているわけだ。
伸ばしたイバラは"縛り付け"を行おうと魔人の各部位へと伸びていく。
魔人は……あえてうごかなったように見えた。
身体のあちこちに縛り付けられてイバラの棘が食い込む。
『拘束』状態が発動――
「うがっ!?」
なっ! 力で引っ張ってきた!?
しかもこう低くなりすぎない姿勢で腰を捻りつつ腕を引くやり方!
犬のリード引きでも効果的な引き方じゃないか!
ドライは必死に地面に爪をかませて耐えている。
剣ゼロエネミー!
今のうちに相手斬ろう!
構え激しく回転させながら突撃!
相手は引いている手と反対で槍を構え防ぐようにした。
スレスレで軌道変更――なっ!
読まれて防がれた!
かなりのやり手だ!
グルグルと縦回転する剣が木の部分にゴツゴツと当たる。
巧みに流すように受け止めてまともにかみ合わせないようにしているのか!
何度も位置を変えるがそのたびに防がれる。
「ぬおっ! くそッ!」
ドライが吹き飛ばされかけてイバラを自切した。
その途端に槍を振るって剣ゼロエネミーを弾く。
木材なのに魔力のためかおそろしく硬い!
やはりただの武器じゃない、か。
ドライは改めてイバラを身体の周りにただよわせつつ駆けて周囲を回りながら接近する。
あの槍リーチがかなり怖い。
放つ気配から察するに制空圏がかなり広い。
見た目以上に。
この場がそこそこ広くて助かった。
接近補助のために魔法準備もしつつ剣ゼロエネミーで気をそらそう。
魔人はあくまで最初の位置から向きを変えずに待っている。
カウンタータイプか。
剣ゼロエネミーをいつもどおり変形!
柔軟な刃! 鞭剣モードだ!