六百三十一生目 悟李
濃霧とスコールの中ゴリラに出会った。
黄金のバナナ……多分あれが『鍵になるもの』だ。
どうにか4つ腕のゴリラを味方につけられないだろうか。
みんなには待っていてもらい私だけが姿をあらわす。
ゴリラもこちらに気づいてバナナを食べている手をとめた。
「ええと、こんにちは!」
「……」
霧の魔物は"観察"出来ないので言語が何言っているかはわからない。
とにかく気配で探らねば。
ええっと……
「その……バナナのなかの金色のが欲しいんですが……」
「……?」
この階の情報は少ないながらも手に入れる方法はいくつかあるそうだ。
まずは戦う方法。次に掠め取る方法。
そして……物々交換だ。
ゴリラならバナナは食糧として大事で金バナナも紛れることで一緒に守られているのだろう。
つまり対価として出すのは……
「こちらはどうでしょうか」
「!」
これはニンゲンの市場から買った果物たちと拾い集めた果物たち。
空魔法"ストレージ"で突っ込んであった品々。
低地でバナナを食べているということはコイツは果実食!
芳醇なかおりがあたりのバナナにおいと混ざり合う。
気づくとこのゴリラがいるところは木が複数あってスコールを少しは防いでいるようだ。
ゴリラが大きく興味を持ち出しどうすればいいか悩んでいる。
ゴリラは賢い。同時に臆病だ。
何をされるのかわかったもんではないから近づきにくいのだろう。
なので私は果物たちから距離をとる。
ゴリラが果物に近づき。かじった。
……おいしかったらしい。
もりもりと食べ始める。
私はなるべく一定距離を保ちつつゴリラの持っていたバナナ側に向かう。
ゴリラは……こちらに興味はなさそうだ。
「その……これ、もらうね? 代わりに」
「……ホ」
短く言葉を発した。
多分了承的なことだろう。
ありがたくバナナたちと金のバナナを拝借した。
空魔法"ストレージ"にバナナたちを詰め……金のバナナをくわえた瞬間に頭の中でピリリと雷撃のような衝撃が走る。
それと同時に隠されていた門が開いたようだ。
場所も今のでなんとなく理解できる。
待っていてくれたみんなを連れて移動した……
金のバナナをくわえてから敵は寄ってこなくなった。
あのゴリラの付近にもそういえばいなかったなあ。
なんだか苦労した気分と共に26階へ移動した。
そうしたら持っていた金のバナナが霧へと還ってしまった。
鍵としての目的を果たしたようだ。
このダンジョンは宝箱がある。
正確に言うと収納箱。
私の前世ではもはや収納箱とは認識されていない古い物だ。
開封したら落ちているものよりも比較的良いものが転がっていたりする。
食糧詰めだったり魔物よけの簡易結界キットだったり武器だったり。
長時間潜るこのダンジョンにはかなりありがたい。
この霧のダンジョン変なところで平等性があるというか……
公平であろうとしてあるというか。
相手の手のひらの上な時点で公平も何もあったもんじゃないとは言えるが。
攻略をしていてひとつ仮説が浮かんだ。
わざわざ褒美を配置しているのではなくてこれは大規模魔術のデメリットではないかということ。
彼らはコントロールしきって配置しているわけではないということだ。
これなら厳しさと褒美が同時にあるのもなんとなく納得出来る。
なんだか毎回その天秤の重さが同等になりやすいようにしてあるようだ。
いや命かけている分だいぶ厳しさに傾いてはいるが……
難しく激しくしようとすればするほど報酬も増やすハメになる。
なんとか相手のメリット……つまり厳しさをうまく増やすようにして展開しているのだろう。
単純な道のりの長さや障害や地形のランダム配置なんかは低コストでできるのかも。
そしてとにかくそれを長く作り……
しかも単独でしか攻略させなくすればかなりの鉄壁要塞だ。
事実ここまで誰も攻略できていない。
私は霧もないスコールもない環境でずいぶん楽になった探索を続ける……
30階。
仲間を15匹に増やしてここまでやってきた。
今度の気配はかなり油断できない。
4つの種類の魔力を混ぜ合わせ……"進化"!
ロゼハリー!
4足のまま大きくなって尾と背から白く太めのいばらが生えている形態だ。
空魔法"ストレージ"で亜空間から剣ゼロエネミーを取り出す。
魔法で念力のように掴んで浮かべ準備万端だ。
今度の場所は……穴だらけのフィールド。
正確にはツタや木が複雑に絡み合い分厚くなって地面のようになっているがそうでない部分もあるというわけだ。
下はどうなっているのだろう。
覗いたら『それ』と目があった。
獲物を狙い輝く瞳。
伸びる細い舌。
あまりに大きな口。
そして……這い寄る長い身体。
穴からそれは壁をつたい登ってきた。
全貌は見えない。
「蛇……!」