六十生目 識験
たぬ吉が周りを見渡してくれると冒険者の姿。
彼等が罠の仕掛け役だ。
たぬ吉も草の魔法で手伝ったらしく、地面に少し浮いた草が細く伸びている。
恐らくアレに引っかかると……
少ししたら骨軍団の足音。
するとたぬ吉は完全に隠れてしまった。
いや、見えないのですが。
仕方ないので耳をすます。
カラカラと骨がなる音が続いた後、ブチッと千切れた音が。
ブォンと空気を押しわって振られる重い音の後に派手に骨がクラッシュした音。
「今だっ! 倒すぞ!」
プチオーガの声と共に冒険者たちが駆け出す。
たぬ吉もそれに続いたらしく光景がやっと開けた。
そこには吹き飛ばされ寝ている骨軍団とブラブラと揺れる吊るされた太い丸太。
千切れやすい草を這わせて足で切ったら隠してある罠が作動する王道の仕掛け。
本来なら紐でやるんだけど、ツタを生やし動かすたぬ吉の魔法で隠蔽性高く行えたらしい。
「まだ立とうとしてる! 当たれ!」
「このナイフなら!」
銃撃音やら硬質音が鳴るがほぼ一方的な戦い。
みんなが敵対認識されていない間だからこそ対応がおくれ、出来る技だ。
彼等の生体反応にも反応するように改善される前に決着をつけたい。
「な、なんとかうまくいきそうで良かった〜。こんな感じでやっていきますね」
よし、こちらも大丈夫そうだ。
ということでリンク切断。
戦力図に書き加える。
「じ、順調に倒せてるね。このままなら……」
「報告! 報告!」
鳥籠がそういって木の枝に止まった。
何度見てもシュール。
「敵ニンゲンに動きあり!」
「ついに!?」
「休息体制ではあるものの、何やら魔法を使ってはイラついている模様!」
倒されているの、バレたか。
休息体制なのはいち早く行動力を治すためだ。
オジサンも休息体制のまま戦力図とにらめっこしている。
私のようにスキルで徐々に治らない限り重要なリソース管理だ。
ただ、何かしようとしてはイラついているだけなのは決定的に対策を行うには残りの行動力が足りないらしい。
やはり今がチャンスだ。
「わかった、何かされる前に急ごう」
「う、うん。次は……ここかな」
オジサンが指した区域担当は……身体リンク!
少しすると繋がった。
「おう! 魔獣使いの旦那か! ちゃんとやってるぜ!」
繋がったのはミニオークの彼女。
ひゃー、ひ、人の身体ー!
さっきまではそこそこ似ていたけれど人は違うな!!
まず視線が高い!!
安定した二足歩行とか!
寒さを防ぐために服にくるまるとか!
尻尾がないとか!
懐かしいのか新しいのかすらわからないな!
何せ知識はあるけど思い出はないからねぇ……
毛皮のない顔の部分が寒いが身体の内から温まっている。
それもそのはず現在彼女は穴掘り中だ。
周りに鳥籠たちがいるから緊急時もなんとかなるが穴は彼女が掘るしか無い。
腕で! シャベルを持って!
身体リンクで得した気分。
それにしてもこのシャベルすごい。
話には聴いていたが土がゼリーみたいな感触で掘れる。
しかもやたら手応えが快感みたいだ。
身体リンクのレベルが低いせいで伝わり具合は少ないが何となくわかる。
土の加護が土に関わる仕事をやれて喜んでいるのだろうか。
あっと言う間に落とし穴が出来上がった。
すると遠くの方で何かの崩落音。
「お、別の所で落とし穴に引っかかったみたいだな! ちょっくら片付けてくるか!」
そう言ってミニオークと鳥籠たちが音があった方へ移動する。
底には穴から這い上がろうともがく骨軍団たちがいた。
そこに鳥籠たちが容赦なく霊魔法を叩き込んでいく。
「おお! キラーコッコは普段は騒がしくてかなわないんだが、さすが魔獣使いの旦那の仲間は大丈夫そうだな!」
いやまあ、別に彼等も話さえ通せれば静かになってくれるのよ。
聞いてくれればね……
ミニオークもシャベル片手に穴の上から這い上がって来るやつを叩きのめしている。
硬質な骨は殴打の振動により砕かれていっているようだ。
さらに上から用意してあった岩を投げ入れる。
鬼だ。指示したの私だけど。
こうしてあっと言う間に殲滅完了した。
「どうだい! 旦那! 俺様たちの活躍!」
うん、とても色々と良かったよ!
貴重な体験だった……大丈夫そうだからリンク切断。
そして戦力図書き換え。
「報告!」
鳥籠たちも次々やってきている。
私が見てない範囲でも次々倒しているらしい。
オジサンが戦力図を書き換えていくことで優勢なのがよくわかった。
「減ってはきましたけれど、先は長いですね」
「あ、焦ったら負けな時期だね……粘っていこう」
[身体リンク +レベル]
おっと、ログに身体リンクのレベルが2になった表示が。
これで少しはマシだ。
では改めて……身体リンク!
「おお! お待ちしておりました主よ!」
選べる中では最後の接続先であるアヅキとリンクした。
うひゃー、身体の感覚が独特!
腕や足の鱗は結構寒さを防いでいるんだなぁ。
背中からはえた翼で羽ばたいてるー空飛んでるー!
私じゃないけれど。
「あ、主とつながって……ぐふふ……いやいや!
そうそう、私の準備は既に完了しております」
翼が風を切る感覚も斬新だがそれよりも凄いのはみなぎる力。
準備に時間がかかるとは言っていたが大掛かりな魔法の気配。
スキルで暗いはずの夜でも鳥目にならずにはっきり見渡せているようだ。
私からだとまだ解像度が低いから微妙なんだけどね。
「鳥籠たちが導く先へ範囲魔法を撃ち込むだけ……必ずや成功させてみせます」
そう、アヅキは罠ではなく上空からの狙撃だ。
しかも範囲魔法を持っているとか。
ぜひ彼の目を通してみさせてもらおう。
アヅキが強く羽ばたいて一回横回転しつつ上昇。
身構えると周囲に激しい電撃が起きた!
そして雷はアヅキの左腕に集まっていき形作る。
独特な形だがまるで槍だ。
そしてよく狙ってからアヅキはそれを地面にいる骨軍団へ投げた!
空気を裂いて落ちていった槍は地面に当たると共に雷撃がその周囲を埋め尽くす。
数秒の閃光の後にはまるまると何も残らない空間が生まれた。
なんだこれ、めちゃくちゃ怖いがな!
「普段は用意に時間がかかりすぎて封印しているので、久々に使いました。
準備はしているので次もやります」
張り切っている様子であっと言う間に次の槍が出来上がり、また投げられる。
この爆撃、末恐ろしい……
味方でよかった。
あとは任せたぞとリンクを切る。
どんどんと戦力図は塗り替えられていった。
ちょっとした骸骨たちのルート変更などもあったが、鳥籠たちの連絡まわりがうまくいって大きな混乱はない。
何度かいろんなリンク先を見直したが、うまく行っているらしい。
「報告! ニンゲンに動き!」
だが、さすがに一方的にやられてはくれないらしい。
オジサンと共に鳥籠に注目する。
「何か怪しげなものを飲んだあと、大掛かりな魔法の準備をしている模様!」
「回復薬か何かか? ここで邪魔されるわけにはいかないな……」
「そ、そろそろかな……」
何か行動力を治すクスリを使われたのだろうか。
おそらくは向こうのとっておき。
今潰されるわけにはいかない。
「私達も動きましょう!」