六百二十六生目 翼獣
軽い謎が設置してあった5階を抜けそのまま進む。
最初の方でたまたま餌付け成功したシバイヌもいる。
6階以降シバイヌがよく敵に見つかったり勝手にけしかけたりというトラブルはありつつも順調に進んできた。
そして10階。
ここは強力な敵がいるらしい。
気配がある部屋の手前からそっと覗く私……と5匹の魔物たち。
彼ら霧の魔物群はうまくやればたまに仲間になる。
それでいろいろ試していたらこうなってしまった。
戦力としては私がいるので今の所あんまり……
確かに強力そうな筋肉がもりもりの大型魔獣がいる。
翼の生えた牙の大きな獣だ。
"観察"で強さを見ることはできないが……ただ……まあ。
あんまり強そうじゃない。
気配をさぐった所正確に測れているなら頑強気味なだけでそこまでではない。
……よし行ってみよう。
私の歩みに合わせて少し後ろから彼らもついてくる。
目の前の魔獣は挑戦者に気づき上から威嚇するように咆哮をしてきた!
「グゥオオオオォォォッ!!」
私の背後にいた魔物たちは一斉にビビって逃げ出す。
だが私はこの程度では動じない。
うるさかったけど。
怯まなかった私に対して相手はこちらに注目する。
1歩2歩とじりじり横に歩み……
互いに一気に接近!
爪と牙が交差し斬り裂く。
通り過ぎた後に振り返ったら魔獣の牙が片側落ちて霧となって消えた。
相手は一瞬驚いたもののすぐに平静さを取り戻し駆けてくる!
大丈夫。のろい。
深呼吸している時間はないが心の中で深呼吸。
すーはー。
針展開! "針操作"全面発射!
そして相手に向かってあらゆる角度から撃ちまくる!
と見せかけわずかに弾幕が薄い方向を作ってそこに魔法を唱える!
……あれ。
避けられるはずの攻撃がひと通り当たり全身針だるまになる。
そのまま苦痛と怨念の声を上げその場に倒れた。
……う。うん。
10階のボス? だからそういうものかな。
まあ倒せたのは僥倖。
それはともかく次へ続きそうな大きな扉は開かない。
どうやらボスが霧となって消えないとだめらしい。
その時今まで逃げていた5匹が倒れているボスめがけ突撃した!
特にシバイヌが率先して首を狙う。
霧とは言え死ぬ前は出血し生きているようなそぶりを見せる。
もはや動けぬまま5匹たちがそれぞれの大技を叩き込み一気に終わらせた。
……うん。霧にはなって扉は開いたね。
みんなこっちを見てドヤ顔してたり褒めてほしそうにしていたり。
「うん、みんなすごいね……」
なんだろう。この微妙な感じは。
次の階段……の前に休めるポイントが用意されていた。
ご丁寧に泉も湧いている。
5匹たちが泉に群れさっぱりとしているようだ。
私も飲んでみると力がみなぎってくる。
これは恵みの泉だ!
なんというかわざわざこれを配置するのはご丁寧にとしか言いようがない。
ただ……時間もたっているし次の所を少し見てから帰ろうかな。
ぶっちゃけ疲れた。
今ので生命力は治ったんだけれど。
ニンゲンたちと違って私たちのような魔物の大きな弱点。
それはロングラン。
長い間の活動に関してはあらゆる点で負ける。
発熱の逃し方から休憩の瞬時回復度。
さらには単純な連続活動時間までまあ弱い。
というかニンゲンがおかしい。
他にも毒性に強くてたいていのものは焼けば食べられるのも彼らはかなり強いのだ。
あんまり自覚なさそうだけれど。
11階。
これまでの地下洞窟ような雰囲気から一変。
足元は砂地で壁からはあちこち水が流れている。
そして独特なこのかおり……
まるで海の近くにある洞窟みたいだ。
歩いてくる魔物も今までの子犬子猫みたいなものからうってかわって大きなハサミをもつカニだ。
どうやらさっきまでがチュートリアルといったところか。
さあ行くぞ!
素早く駆け滑り込むように下側を後ろ足蹴り!
回転するように足払いしたからカニは対応できる前に倒れ込んでしまった。
じたばたしてハサミを振り回しているがひっくり返ったまま。
跳んで後ろ回転しつつ場所を調整。
縦になり後ろ足でストンピング!
つまり落下蹴り。
思いっきり入ると動かなくなる。
もう一度跳ねてカニから少し距離をとった。
すると一連の動きを見ていた5匹たちが一気にカニに群がる。
少し経つとカニが霧へとかわってしまった。
なんだな変な連携みたいだ……
「おう、早いな! どうだった?」
「いい感じだけど……あれ?」
「っておお?」
ジャグナーとダカシの待つ簡易キャンプへと戻ってきた。
と思ったらイタ吉もいるのが目についた。
そしてダカシがイタ吉に何か教えている。
「イタ吉がもう帰ってきているとは……」
「お前はなんで帰ってきたら数が増えているんだ?」
ジャグナーに指摘されたこと。
それは私が例の5匹をぞろぞろ連れ帰ってきたからだ。