六百二十三生目 回転
蒼竜の街中心街。
ここが門の内側で後々広がった部分ではなく元からある所。
ここは他の街とは大きく違っていてニンゲンが住んだり活気があったりとは真逆。
どこからか宗教的音楽が流れそれと合わせて子どもたちが歌う声も聴こえる。
行き交う人々は静かにそして確かにある熱を持って祈りを捧げているようだ。
街並みの大半は宗教関係のもので1番大きなものは蒼竜神殿。
また床は大半が湖の氷がはられたままむき出しになっている。
きちんと床と連絡通路も敷かれているがわりと無視して氷の上を歩くものもいる。
というかよく見ると氷をわざわざ転びにくいように加工している生業らしきものたちも働いているようだ。
独特なにおいも鼻につく。
いかにも霊感でも高まりそうなかおりだ。
お香が焚かれたり建物たちがほのかに主張したり……どちらかというと良いかおり。
「なんというか……俺らも入って良かったのか?」
「敵意さえなければ誰だって歓迎なのさ、この街は。何せこの街へ来るということは蒼竜様への信心があるということになるかな」
「あ、はは」
場違いな感覚にイタ吉が頭をかく。
ダンダラの言葉どおりなら私がなんというか申し訳ない。
あの蒼竜にはまるで信心はわかない!
「お、見えてきたぞ」
少し歩けば嫌でも目につくもの。
囲う建物の外から見える立派な像。
蒼竜神像だ。
ノリとしては仏像とかわらない。
ただひたすらにデカく座った蒼竜神をイメージした像が地上を見下ろしている。
精巧な作りの像があれほど巨大にかつ管理されてそこにあるというのは近づけば近づくほどに圧巻。
ちなみにだいたい似たようなモデルで像はあちこちにあるし売り物としてもあった。
マーク化したものが描かれていたりもしてわかればわかるほど蒼竜だらけなのがこの街の特徴だ。
目を閉じ笑顔のバージョンも結構人気。
この街ではそんな神像をよりよいものをつくろうとする匠たちもたくさんいるそうだ。
なので細かく見てとると割とバリエーション豊か。
龍鱗の描き方ひとつで印象ががらりと変わる。
その中でもあの巨大神像はやはり頭ひとつ飛び抜けているというか。
まるで生きているドラゴンからそのままカタをとったかのような息吹を感じられる龍鱗たち。
尾も今にも動き出しそうだ。
囲っている建物をいわゆるお布施を払って入場。
ちなみに年間パスポートとして扱って良い額もある。
彼らはすでに『もうたくさんもらいましたので……』と言われているとか。
果たして何度通い詰めしたのだろうか。
苦労がにじみ出ている。
苑内はどこか別世界のように雪が均一に固められ少なくない参拝客たちと唯一大きく目立つ蒼竜神像。
雪を踏み少し歩くとさっきの足跡が消えている。
変わった魔法が設置されているようだ。
「この先の……そうそうここだ」
ダンダラたち調査隊たちが先を歩き私たちは後ろへ。
ヘンにならないように全員来ているわけではなく数名ずつ。
蒼竜神像を通り過ぎ端の方まで歩いて雪のつもる床を叩く。
2回。1回。2回。
テンポよく床を足で叩くと囲いの建物の一部が軽い音と共にくるりと横回転。 よくこの仕掛けわかったな……!
「この先が……」
「ああ。ほんとここまででも骨が折れたよ」
「お疲れ様……」
それにしても……この狭さ。
くるりと回った部分は大の大人ひとり分がなんとか入る程度。
私から見れば余裕は少しあるが……
「……狭くないか?」
「これのせいで余計なものを持ち込むことができないんだよ。中は危険が多いんだがなあ」
「俺からしたらちょっと入らな……壊せないのか?」
「文化的価値があるものを破壊して修理費払えるか?」
もうすでにこんな加工されている以上手遅れでは……とみな口にはできなかった。
さらに破壊したら荷は私たちに降り注ぐ。
「まあ、それだけじゃない。コイツはうちの魔術師が調べ上げた結果、壊したら向こうへ通じる道への効力が消えてしまう。この建物に入って反対側から見たらこの回転扉は『ない』。魔力の道ももっと遠くへと通じているらしい」
「……ああ、なるほど。これは物理的に開いた道に見せているけれど実体は魔法の力なんだね」
「なるほど……なるほど?」
イタ吉はわかってなさそうだけれどまあ大丈夫だろう。
ようはこれは見た目と違って魔法が発動した魔法の扉なのだ。
「とりあえず私たちが入って呼べそうだったら呼んでみるよ。ダカシとジャグナーはそこで待ってて」
「ああ、最悪見張りしている」
「頼むぜ、今日はやる気だったんだ」
とりあえず巨体組は置いていって魔法扉の向こうへ行くことにした。
魔法扉は見つめても先が一切見通せない暗闇。
近づき手を入れると余計に異質なのがわかる。
黒い色に塗りつぶした空間が広がっているようで入れた手すら見えない。
意を決して中へと入ることにした……




