六百十三生目 悪意
「いい子たちだ……さすがうちの参謀は良い作戦を考える」
コカケロスが焦りと緊張で震えていた声がやや落ち着く。
それもそのはずだ。
卵から悪魔の力で無理やり大人まで成長させ狂化され特攻隊にさせられたコカトリスたちが私にしがみついていたからだ。
しかもその上からまとめて石化の睨みをコカトリスたちが受けている。
次々とくっついては石化して私をコカトリスごと固める気だ!
足元が固まりうまく踏み出せなくなった瞬間に次のが襲いかかる。
動く暇もなく私の身体中にコカトリスがひっついてコカケロスの石化の睨みでみな凝固。
これでは動けない!
「は……ハーハッハッ! ど、どうだ!」
「我々はもともと親子関係なく対立することも多い! 弱いやつは石化を喰らって縄張りを明け渡す!」
「つまりお前は死ぬまでそのままだ! ザマーミロッ!」
そうか石化耐性がないのが不思議だったが同種族の争い時に傷つかない戦い方でも用いられるのか。
盲点だった……
「く、ククク……確かにお前も強かった……だが俺たちに勝てるほどではない」
「ほんとにやべーやつだった……」
「でも、こういう非道いやり方はよくないと思うよ」
「いやまあ蛇2頭が閃いたアイデアでひどいかはわからないけどなかなか良い……え!? 今誰がっ」
鎧を引っ込めると大きさに合わなくなってつかめなくなったコカトリスたちはゴロゴロと崩れ落ちる。
彼らが再度掴んでくることはない。
石化しているからね。
「仲間なんでしょ、扱う立場ならもっと丁重に扱ってあげなよ!」
「なっなに!? 小さくなって抜け出してきた……!? いやそれ以前に我らの崇高なる言語を……!?」
「あ、ありえない! だ、だが今なら小さい! チャンスさえあれば丸呑みできる……!」
「うぐぐ、あの方法は疲れる……だがそうやって卵を増やすしかない。ふぐおおおぉ!!」
なんとかコカトリスの山から抜け出したあたりでまた黒い瘴気がコカケロスを包む!
周囲に瘴気が固まりだしそれが卵となる。
すぐに孵化して急速成長!
キリがない!
でもなんとか駆けて本体を叩けば……
「はあ、はあ、まだだ、まだこんなところで……」
「……なあ、何か聴こえないか?」
「これは……歌?」
みなが今戦いに決着をつけようとした瞬間に聴こえてきたのは……唄。
それは鳥の鳴き声なのにあまりに丁寧に奏でられたかのような。
空からあまりに美しいそんな唄が流れてきた。
場違いなその声に気を取られていると私の身体が輝き出す。
疲れや汚れが取れていくようだ。
そして相手の身体たちも輝き出すのだが……
「ぐあああっ!」
「い、いたい! やめろ!」
「歌うのをやめてくれっ!」
「「ギギイイィ!!」」
コカトリスやコカケロスは逆にひどく苦しんで身動きが取れなくなっている。
なっなんだろうこれは?
味方?
そうこう考えていてる間にコカケロスの蛇のうち右側の額に悪魔の単眼が!
……ちっさい! もしや自然発生かな?
『おごぉう……! 私ワタシわたし、せっかくキョーカイがユルんだスキに来たのにこんな、こんなところでえぇ!!』
無茶苦茶なテレパスじみた脳内に響く声。
あの悪魔の目から発生しているらしい。
もしや蛇が参謀になれていたのって悪魔から直接アレコレ言われてたからじゃあ?
境界? だの緩んだ? だの気になることはがあるがこの機会を逃すわけにはいかない。
駆けて! 跳んで! 狙いすました鎧の重みを含めて飛びつき噛みつき!
『が……アアア!!』
雑音のようなテレパスが頭に響くが食い破る。
途端に雑音は消え去った。
おいしくないしペッてしておこう。呪われそうだし。
だが変化はそれだけでなかった。
着地して周りを見渡すと次々とコカトリスたちの姿が黒い霧に飲まれる。
そしてそのままいびつな骨を多少残して消え去る。
彼らはやはり魂すらあるのか怪しい生まれ方だったから……
それでも来世があるのなら今度はきちんとコカトリスとして産まれるように祈ろう。
「「あが……が……」」
コカケロスはついに白目を剥き倒れた。
空からの歌声は空からの影となりそのまま地面まで降り立つ。
七色の極彩色がこの森にどこか似合わない。
そんな絶対的な美しさを誇る鳥だった。
「ええと……?」
「我が輩は……ゴホン、とにかくだ」
嘴から紡ぎ出す言葉ひとつひとつが咳払いひとつとっても全てきらめき加工してあるかのよう。
この美声を手に入れるためならきっとニンゲンの中にはなんだってするものもいると思わせる。
「その、キラーコッコのな、こう、我が輩とは関係ないのだが……そのキラーコッコたちに残された、唯一のと言っても良いクイーンから伝言だ。『すぐに戻れ、軍危篤』だそうだ。上空から歌声の効果を受けた相手を探しやすい我が輩が選ばれたのだが……とにかくコカトリスたちがなだれこんできている」
「ええっ!?」
そんなこれであと少しと思っていたのに!?