六百十生目 鋼鉄
何回か敗走しはぐれコッコとなったキラーコッコたちに出会った。
そのいずれもが天敵コカトリスのリーダー格に対してひどく怯えている様子だ。
あの血気盛んなキラーコッコだとは思えないほどに。
いわく近づけば問答無用で石化。
いわく音波の攻撃を食った。
いわくつまみ食いのように尾の蛇が次々とキラーコッコを丸呑みした……
そのどれもが真実を語っているようでどこか浮ついたようなコメント。
それは見てきた彼ら自体が信じられないものを見たという気持ちだからだろう。
クイーンの喪失はキラーコッコたちの心に確かな傷を残してしまったようだ。
この犠牲をこれ以上増やすわけにはいかない。
そもそもコカトリスリーダー格のテリトリー付近に近づけば近づくほど森は荒れ血は多く流れている。
これ考えていた以上に危ないぞ。
私のステータスを確認。
……前からあまり変わってないかな。
伸びが悪いのは仕方ない。
回復や緊急離脱用道具の準備は整っている。
だが困ったことに龍穴が見当たらない。
龍穴から龍脈の力を受けないと『ネオハリー』になれないのだ。
意識して歩くと森の迷宮はその豊かな大地に反して龍脈の気配がまったく感じられない。
もしやみんな木々が吸い取ってしまっているのでは……
そう思えるほどだ。
困ったな……これでは万全の態勢とは言えない。
実はネオハリーにはこれ以外に致命的な弱点がある。
迷宮をまたいださいに"進化"が解ける!
これはいろいろ試してわかったことだが……どうやら龍脈はその迷宮だけに属するらしい。
なので迷宮の出入りはご法度。
必ず返さなくてはならない。
この縛りが今きついのなんの。
こういう時パパっとどこからか龍脈の力を得て帰ってくることができない。
本当にヤバイな……"絶対感知"!
(はいハズレ〜)
だろうね!
こうやって歩き回ってスキルも使って探しているのだが地下にしっかりとした龍脈を感じれない。
いわゆる毛細血管程度ならあるのだが全て森の中に効率よく還元している。
おそらくこの迷宮を作り上げた魔物はかなりの効率を追い求めるタイプだ。
まあ……次点で今までの"進化"を扱うしか無い。
そのうち龍脈の力をポケットサイズで持ち運べないかな……
そうこう考えているうちに一段とコカトリスの気配が濃くなってきた。
この先がコカトリスリーダーのいるところか……
そろそろ"進化"しておこう。
相手はお気軽に睨みつけるだけでこちらを"石化"してくる。
対策しておいて間違いないだろう。
"進化"! 『グラハリー』!!
全身甲冑でひと回り大きくなった4足歩行状態。
この状態でさらに全身を鎧で覆い固める。
さらにひと回り大きな鎧。まるで甲冑をロボのように乗り込んで操っているかのようだ。パワードスーツとも言うね。
この状態の時"戦場の獣"で耐性に大きなボーナスがつく。
やや的は大きくなるもののスキルのおかげでこの状態でも軽々動ける。
多少のデメリットは大きなメリットで打ち消せているわけだ。
その大きなデメリット……その1つ。
1歩踏み出すとガシャリドン! と響く。
この音だ。
……む。早速気配が近づいてきている。
数は3。
目立つのでバレるのは前提だ。
「なんだ、お前!」
「一体いつの間にこんなのが!」
「弱そうだな! 俺だけでやってやる!」
彼らはまさに烏合の衆である。
根本的に協調性という部分がないのがコカトリスの種族特徴だ。
群れない魔物はほとんどそうだね。
だからこうして互いに攻撃せずに並んでやってくるだけでもリーダー格のカリスマ性が伺える。
そういえば蛇のほうの口はしゃべらないんだなあ。
何か言いたげにくねくねはしているが。
多分気管支や声帯がないんだろうね。
闘鶏側にあれば問題がないし。
とりあえず中央1体が突っ込んでくるか!
接近しやはり試してくるのは睨み。
自動で"影の瞼"が発動して目に暗い瞬膜が発生する。
……やはりか!
「何!? なぜ効かない」
こっちが強いというのもあるが"影の瞼"は目を通しての攻撃に防げる。
さらにおそらく石化とは精神系の状態異常。
見た目と違ってあれは脳を催眠化させ錯覚を起こさせ石のように硬直させる。
より強力なら生命活動すら止めるだろう。
ただ石化そのものが解ければまた再開するだろうが。
あくまで息の根そのものを止めるというよりも魔力で限度をこえた石だと思わせる力だ。
つまり相性バッチリ!
こっちは全身を震わせ強く踏み込み……
タックル!!
「うごげぇ!?」
「な!?」「速い!?」
まずは1体を吹き飛ばす。
光をこめて首を振ると力強く吹き飛ぶ。
残り2体!