六百九生目 残党
キラーコッコたちが集団で必死に落としたコカトリス。
しかし群れないだけで森中にたくさんいるらしい。
さらにコカトリスのリーダー格は恐ろしいことに力で配下を従えているそうだ。
防衛はキラーコッコたちだけでなんとかなると私は単独で森の中を駆ける。
今回私が行うのはコカトリスのリーダー格撃破だ。
珍しくコカトリスがリーダー格を作っているということは逆に言えばそいつを抑えることでこの異常な繁殖を抑えられる……はずだ。
だが残念なことに位置がわかっていない。
昔は庭のように駆け回っていた森だが見ない間の変化は結構大きい。
だからこそ迷宮なんだけれど。
それでも大半はちょっと見れば変化が把握できるし経験則がものを言う。
手っ取り早くコカトリスらしき気配を追っていく。
コカトリスのリーダーは普通のコカトリスよりもはるかに強大らしいというのはわかっている。
なのでコカトリスっぽいのにやたら大暴れしたりデカイ痕跡が残っているのを追跡するだけでなんとかなる。
今もコカトリスたちが好き放題荒らしてくれた木々たちの破壊跡に混じって大きくえぐれているのがある。
この先に続いてるな……
話には聞いていたが実際前との違いを知る私としては結構衝撃的だ。
森の迷宮がいくら適切管理で常に変化がある状態だとしても荒れ果てる方向にはそうはならない。
各地の魔物たちは荒れてしまった大地に苦労しながら自らの巣を直したりしている。
傷を受けた魔物たちも少なくない。
「……はい、これで大丈夫」
「あ、ありがとう……?」
「ところで、その暴れていた奴らの中でとびきり強そうなのがどこいったかわかるかな?」
「あ、ああ! 情報と引き換えか。なら、あっちの方に真っ直ぐ行ったよ」
「ありがとう!」
「っておい! だからそっちは危ないって!」
こうやって情報を集め駆けていく。
同じようなやり取りを何度か繰り返したころ……
とぼとぼと浮遊している鳥かご……つまりキラーコッコたちを見かけた。
私が依頼を受けた軍ではない。
……コッコクイーンに聞いてはいた。
彼らははぐれコッコ。『見かけても同情するな。クイーンを守りきれなかった哀しい者たちだ。軍をまた作れず分散するしかなかったのだ』と。
他にも成鶏の儀式として旅立たせられるキラーコッコたちも多くいるそうだが……アレは明らかに違うだろう。
数も数羽いるし籠の動きの不安定さだけで悲しみが伝わってくる。
そもそもキラーコッコたちが静かなのが不気味だ。
「ねえ、こんにちは! ちょっと良いですか?」
「うん……うん? わっ!? だ、誰だ!? なぜ言葉を!」
「順番に話します」
こういう流れももはや恒例である。
解説と経緯を簡単に話した。
「……なるほど。生き残っている軍が抵抗を。だが見たところ貴様は強そうには見えないが……」
「まあそこは準備を万全にして行くからね」
「まあいい、アイツのことだな……アイツは、おそらくお前が思っているような雑魚とはワケが違う。我が軍が襲撃されたさいクイーンを守るエリート小隊が迎撃をしたが……どうなったと思う? 次の瞬間には皆地面に転がっていたよ。ヤツに手羽先すら触れられずにな」
「えっ、みんな石化を……?」
確かにそうなると話が変わってくる。
コカトリスは睨んだ相手を1体ずつ石化する能力の持ち主だ。
だがもしそれが全体化させられる力があれば……数はまるで意味をなさない。
「そ、そのあと、逃げるクイーンに何の障害もなかったかのように追いつき……そして……う、ウゲェ」
「お、おい! それは思い出すな!」
「すまない、コイツは限界だ……近くにいたらしいからな。間に合わなかったらしい。それでコカトリスのリーダーだったな、アイツは我々とは逆方向に向かった」
吐くかわりに籠が落ちて壊れあまりにも弱りきったキラーコッコの姿が露わになった。
目が据わっていて羽根が乱れるがまま。
「……ねえ、キミたちはこの後どうするのですか……?」
「どうするもこうするも……みな散り散りとなりはぐれコッコに戻る」
「まあ死ぬだろうな。すでに散ってないのは俺たちだけだが……それはコイツが少しはマトモになるのを待っていただけだ」
「その……もし、厳しいと感じたり何か困りごとがあったらあとで集まってほしいんです。何か助けができるかもしれませんからええと――」
森の比較的安全だったポイントを教える。
もしかしたらアノニマルースとして助けになれるかもしれない。
「他のキラーコッコたちにもお伝えください」
「いや……うっぷ。俺たちはクイーンを死なせてしまった。その報いを受けなくてはならないんだ……」
「……それでもやっぱり生き延びたいと思ったら、来てくださいね。そこは安全だと思うので。では!」
「あ、あんた! ……死ぬなよ!」
姿を見せ敬礼するキラーコッコたちに背を向け私は駆け出した。