六百六生目 兵糧
キラーコッコの群れにきてコッコクイーンに会いに来た。
防音魔法をかけ依頼について話すことに。
わざわざ私を指名して内密依頼とはどういうことだろう?
「それで早速ですが、依頼とはどのようなことで?」
「うむ……まずは順を追って話そう。私たちとホエハリ族の関係はお前が去った後も続いていて平和な日々だった。森のバランス崩壊に付き合わされる前まではな」
「えっ、森のバランスが……?」
「まず漆黒の嘴がいつの間にか消えたことから事が始まる。ヤツは粗暴ながら高い知能があったらしいからこの森を問答無用で取りまとめていたそうだ」
漆黒の嘴……知らないはずなのになぜか脳裏にチラつく誰かの姿。
というかアヅキそのものでは……?
「当然開いた穴を埋めようと、他の勢力が躍起になってな。縄張り争いが繰り広げられる。ここまでは良くある話だ。しかし……ここから先がかなり困っていてな。今現在急速に勢力を伸ばしているヤツらは……我々の天敵だ」
天敵……キラーコッコたちにも明確な天敵なんていたんだ。
いやまあそりゃあいるんだろうけれど。
なんだかイメージわかない。
「天敵を倒したい、というのが依頼?」
「結果的には、だがな。だが我々とて普段そんなことを他者に頼むような恥は晒さない。自ら締め上げて殺す。見かけ次第殺す。最悪ホエハリ族と共諾し追い詰めて追い込んで私が赴き殺す!」
ギリギリと足の爪が土を握りしめる音が響く。
ひえっ。凄まじい殺気だ……
「……もはや我々とヤツらだけの話ではなくなってしまっている、というのが問題だ。ヤツラは漆黒の嘴から理性を抜いて狂化したようなやつらでな、その上タチの悪いことにリーダー格の強さが未知数に高く、大繁殖にも成功した…………組んでいたホエハリ族も襲撃を喰らったと報告を受けている」
「そ、そんな!?」
「同時に無事を聞かされている。が、こちらにさく頭数は用意できないこともな。もはや向こうも抵抗で精一杯だ」
森の中がそんなことに……
「私の仲間たちが……」
「それだけではない。なぜやつらが大繁殖に成功したかわかるか?」
「……まさか! 大量の『食事』を手に入れた?」
「そうだ。有象無象たちも食われたが……何よりまずいのは私たちキラーコッコ軍だ」
そういえば彼らは自分たちの群れを軍と言うんだっけ。
怒りの行き場を探すように足をドンドンと叩きつけている。
「すでに多くの『非敵対軍』が殲滅または壊滅をしている! 我々の軍はまだ大きな被害はないが……それでも全滅した部隊もある! 奴らは我々を補給扱いだ!」
「ええっと、殲滅が10割、壊滅が5割、全滅が3割……」
「もはや我らコッコ族そのものの存亡が我らに託されている状態なのだ! もし軍の司令官である私のようなクイーンが狙われ殺された場合、その軍はどれだけ兵どもがいても軍の再編は不可能。つまりこの森の他の軍は……」
……うん!?
もしやキラーコッコたちそのものの存亡がかかっている?
宇宙人侵略モノとかで『人類は90%息絶えた……残りはこのシェルターにいる者たちのみ』みたいな状況になっている?
もちろん人類ではない他の者たちもおまけのように焼き払われて……って状態なのか今。
依頼をこなすアノニマルース冒険者たちではそういう立ち入った生態系まではわからないだろうし。
「かなり……苦しいね」
「この森は脅威に晒されている。よって勝手だがこの森を代表して恥を忍び極秘で依頼したい。ヤツらを静めてほしい」
「うーん……」
私は少し考えてしまう。
第一にそんな危険なやつらと私が戦って大丈夫かという問題。
今私の肩に乗っている荷は重い。
万が一で死ぬわけにもいかないのにさらに死の危険が増す。
そして森の生態系に手を出して良いものかという問題。
私は森の迷宮から外れた。そしてそのヤツラだって生きて繁殖する権利はある。
だが私は自然に心は決めていた。
「なんとか、やってみます」
……自分の心に対して後から理屈付けはできる。
死の危険は万全を尽くして回避し極秘を守りつつこなすだけ。
森の生態系だって自然崩壊したものを外から直さなくてはならない時もある。
アヅキが抜けた影響が確かならば連れ出した私にも責任がある。
これまでの積み重ねとアノニマルースという土台もある。
やってやるさ!
けど何より大事なのは心がやりたがっているからだ!
「ああ! ありがとう! このことはぜひ内密に――」
「伝令! ヤツが来ました!」
「何!?」
どこからともなく籠が現れる。
鳥の脚にぶらさがっているが足の先にあるはずの肉体はない。
そして鳥かごの中も声は聞こえど中身は見えず。
初めて見たときには驚いたがこれがキラーコッコのフル装備状態だ。
魔法やスキルで霊体化し籠の守りをつけ空に浮かんでいる。
そして報告から察するに……天敵がきてしまったらしい。




