六百ニ生目 概念
蒼竜の加護はトンデモ能力だった。
軽快に爽やかに笑い飛ばそうとしているがダメなものはダメである。
あれ1発で気絶してしまっていたしもうちょっと頑張っていたら100%中の100%の力で自壊していたかもしれない。
危なすぎる……
「……それで、あの神の使いっていうやつは? 私が"神化"という"進化"したさいの力らしいけれど……」
「そりゃあ僕という神の使い、つまり神に連れられて神の力を得始めた存在ってわけさ!」
「なんだそりゃ」
とは言いつつ脳内で浮かぶのは八咫烏やら稲荷神の狐あたりがよぎっていた。
いつの間にか私あそこらへんのジャンルに……
「といっても、その様子だとまるでダメダメだね! 確かに"神化"を得ることはできたけれど、ちゃんと神使行使できたことだなんて一度しかないんじゃない?」
「初めて出てきた単語があるけれど……うっすらわかることが……」
インパルスとの闘いの時。
あの時確か一度不思議な力が身を包んだ。
今では思い出そうとしても感覚がわからなくなってしまったんだけれど。
そしてインパルス自身から聞いた言葉がある。
神使行使というものがそれと合致するのだろう。
「なんか思いついたって顔しているね! まあゆっくり慣れればできるんじゃないかな、50年くらい」
「2.5回寿命で死ぬからなんかコツとかないかな……? あれがどんな力なのかもよくわからないし」
正直あの力に関してはよくわかっていない。
そもそも龍脈の力を扱えるのもその一旦らしいけれど。
「えー、もしかして何も分かっていらっしゃらない? しゃらない? そうかー、まあ最初の最初だしね。そうだね……」
「神使行使は神の力、ひいては僕の力そのものだよ」
蒼竜が両目を閉じてケンハリマ特有の額の目だけでこちらを見つめる。
それが異様にぞくりとした。
感覚が乱れ空が揺れる。
辺りは一瞬で暗闇に包まれ蒼竜が化けたケンハリマの額の目だけが異様に輝いて見える。
地からは浮いているような感覚と空が落ちてくる錯覚。
開放的だったはずの場は壁が迫ってきて息がつまりそう。
喧騒の場は静まり返りさっきまで漂っていた食事のいいかおりは腐った腐敗臭。
何もかもが逆になるなか蒼竜の声が脳髄に響く。
「神とは概念である。力とは理不尽である。理を覆し、覆った理を正す。世界は意志の元に変革し、信仰は自らを形成する。そして神は概念となる」
聞いたことのある声が聞いたことのない声色を出し頭を揺さぶる。
理解し難いという感情とは別に言葉以上の理解がスルスルと頭に入り込む。
それはまさに通常耐えきれるような情報量ではなく……
だがふと気づくとまるで雑につなぎ合わせた別シーンのように周囲は普通の状態に戻っていた。
私は息をしていなかったのに気づき慌てて息を……むせた。
さっきのとは違って単なる酸欠でくらくらする……
「やあ、どうだった?」
「い、一体何を……」
言ってから気づく。
周りの様子は何も変わっていない。
アレ程のことかあれば狂乱していてもおかしくないのに。
蒼竜は両目を普通にひらいてニコニコしていた。
つまりは。
「……今のって、私がそう感じていただけ……?」
「うん! まあぶっちゃけどう感じたかなんて僕にはわかんないけどね!」
「生まれつき神め……!」
今のが神のエネルギー。
もちろんカロリーとか力とかのものと同質エネルギーなわけない。
未知なのに覚えがある神の力。
これは『宣言』と似ている。
私の掴みかけて忘れてしまった不思議な感覚にも似通っていた。
あれを……どうにか。
「それじゃあ、この後にちょっとやってみようか! ごちそうさま!」
「え? もう食べおわって……あ、まって!」
ところかわって郊外。
訓練場はたくさんの魔物たちがいるので誰もいないまた手つかずの土地に。
正確には草と虫はいる。
私は蒼竜の前で龍脈の力を借り5種の魔力を混合。
肉体に適応して『ネオハリー』に"進化"した!
2足歩行の全部のせバージョン。
「へぇー、身体をよくまとめあげてあるね。それでいて気配を抑えてある。よくこういうのって、無駄にブワーッて発揮していること多いらしいから、なんか意外」
「今もしかしてけなされている?」
「まさか! 褒めてるよ!」
また笑っている蒼竜は置いとくとして。
肝心のパワーを引き出せるかどうか。
左手を開き……力強く握り直す。
「……うーん?」
「だから、そんなすぐにあれこれわかるものでもないさ。一緒にやれば少しは早いかもってことで今いるんだから」
「そーくんはなんで私にこうまでして付き合ってくれるの?」
「ああ、それね。期待の新人だからね。なかなか"神化"するものはいない。つまりは面白そうだから!」
「だいたいそうだとは思ったよ」
まあそれでも今はありがたい。