五百九十九生目 逃走
オウケン上級王に王城で謁見し大会に対する賛辞と褒美をもらえることに。
グレンくんにオウカそれとゴウやダンと共に来ている。
中身はこっちで自由にしていいらしい。
つまりはカエリラス撃退の支援をしてくれるわけだ。
「なんでも、かあ……どうする?」
小声でオウカが私たちに話を振る。
もちろんオウケン上級王たちも相談せざるをえないのは分かっているから止めはせず見守ってくれている。
「資金は……つい最近大きく入ったから困ってないしね」
「武具で何か……」
「パッと思いつくものがないな……」
「……あっ。勇者の剣」
私の言葉に周りからの注目が集まる。
1番食い付いたのはグレンくんだった。
勇者だしね。
「そ、そうか! ソレがあれば僕が……」
「よし、決まったね」
みなで再びオウケン上級王の顔を見る。
小声とは言え少しは聞こえていたはずだ。
グレンくんが口を開いた。
「オウケン上級王! ここの者は勇者であります。しかし、勇者であるための重要な物がまだ欠けているのです」
「ほうッ! 勇者とは大きく出たなッ! して、物とはッ!?」
「勇者である証明は……きっと相手の情報を得る能力で確認していただければ。そして勇者に足りないものは――」
「剣です! 勇者の剣!」
ゴウが語っているところにグレンくんが食い気味に言葉を挟んだ。
まあ自分のことだしね。
オウケン上級王が軽く手をかざすと背後の面々が動き出す。
「なるほどッ! それが貴殿らの望みかッ! 良かろうッ! それを我が力を持って見つけ出しッ、勇者にやろうではないかッ!」
そして背後の人たちが"観察"あたりのスキルやりおわる前に話を決めてしまった。
信頼度が高いなあ。
勇者のカリスマ性なのかな。
そして慌てた様子のひとりが王の耳元にささやきスッと去っていった。
エレガントっぽかったが声は、
「ほ、ほんものの勇者です」
とすごく震えていた。まあ私とオウケン上級王くらいにしか聴こえていない耳打ちだったから問題ないだろうけど。
「ありがとうございます、上級王さま!」
「上級王としてッ、大会の優勝者に褒美を取らせるのは当然の努めッ! それまでよッ! まあ前年までは代わり映えがなかったからなッ、ちょうど配下どもにいい刺激になっただろうッ!!」
うん?
今まで像のようにしずかだったひとりがビクりと動いた?
鎧がほんの少し鳴った。
そちらに"鷹目"で視線を動かしてみたら思わず吹き出しそうになった。
あっあいつらじゃないか!
私たちに絡んできた前年優勝者!
えー。この式にオウケン王の側に仕えているとか兵としてはかなりの上位クラスじゃないか。
昨日の事がオウケン上級王にバレたら首が飛びそう。
物理的に。
そんな偏見をいだきつつオウケン上級王の豪快な笑い声と共にその日の謁見わは終わり場外へと移動させられた。
勇者の剣……実在するのならグレンくんに持たせたいところだ。
はじめての壊れない武器となりうるかもしれない。
こんにちは! 私です!
今アノニマルースでわけもわからず逃げてます!
なんか散歩していたらユウレンが『逃げて』と言ってきて……追いかけてきている相手は……
うわっ!
なにもない地面からわいてでてきた骸骨!
「チャーンス!」
「わあっ!」
骸骨にあしどめを食らった瞬間に上から誰かが降ってきた!
私に覆いかぶさる!
そしてニンゲンなのにそれでも私の上に乗って立てるほどの小ささ。
死霊術師の第一人者ウロスさんだ。
ところどころ見える白蛇みたいな要素。
こう見えて若返り実験に成功した中身老婆さん。
いや中身すらも若返ってしまったのでほとんど見た目どおりの精神と膨大な死霊術師としての実力が組み合わさっているんだっけか。
なので4足歩行の普段時である今なんかは遊びにつきあわされることはある。
あるが。
今回のは明らかに様子が違う。
「ねえ……異世界転生者って本当!?」
「っ!?」
息が止まるかと思った。
なぜウロスさんがそれを知っている?
……ってまあ『逃げろ』と言った人物はひとりしかいない。
「ごめん。バレた」
ユウレン。ウロスさんの弟子で死霊術師。
死者の仮面のようなものをズラシて頭につけているがあれは彼女を構成している一部らしい。
さて問題だが……
ウロスさんとユウレンの執事であるカムラさんが運んできたお茶を室外食事所で机を囲んで一服。
しているがしている場合ではない。
「ウヒ。師匠に隠し事だなんてムリに決まっているジャン!」
「脅迫まがいというか……言葉の節々と違和感からかなりがんじがらめになるように詰められて……状況証拠だけで追い詰められたのよ。私と貴方のレッスン盗み聞きなんかもね」
ううむ。やはり自己型転生しても年の功か……