五百九十生目 優勝
『そうそう。忘れていた』
別れ際にテテフフが私に向かって念話してきた。
なんだろう……?
「はい?」
『礼。忘れていた。生きた蜜。届けたよね』
「生きた蜜……あっ、ミミミツ?」
ミミミツと交渉して蝶嵐を引き受けてもらったことか……
そういえばアレはテテフフ側からすればその言い回しのようなもんになるのかな。
『そう。捧げ物には褒美を。それが古来からの私たちのやること』
「古来からの……?」
『私たちは。群れで個。他の生物的に言うと。だから。はるか昔から。数を増やして意識をつないでいる。途切れること無く。今まで』
「それは……なんだか想像が出来ないほどにすごい」
『だから。年長者として。若輩者とのルールは守る』
形はだいぶ違うがまるで転生し続けているかのような生態だ。
テテフフは私に対してサイコパワーで目の前に何かを突如取り出し投げてくる。
あれは"ストレージ"みたいなものかな。
『あげる。私たちにとってはゴミ。ニンゲンは欲しがる。そう聞いた。いらなければ。売ると良い』
「ありがとう! ……へぇ〜……きれいなピンクの宝石!」
少しだけ透き通った色をしたピンクの宝石……のかたまり。
原石らしくくすんでいるものの磨けば良さそう。
まあ私の『ネオハリー』で両手持ちサイズなのがなんだかすごいが。
「でも、こんなに凄そうなもの、良かったの?」
『私たちにはゴミ。それと。キミお気に入り。昔私たちに紛れようとした。バカな竜の気配がある。退屈な砂漠で。少しは。面白かった思い出』
「うん? それってもしかしてそーく――」
「うおおおッ!! まさかッ!! それはッ!! テテフフライトッ!?」
オウケン上級王がこちらの様子に気づき驚きの声を上げる。
さらにそれを聞いて周囲から感嘆符が。
「アレが、あのサイズのテテフフライト!?」
「原石でも本物初めて見たぞ」
「えっちょっ、ソレ落とさないでよ!」
「え? そんなに……大変なものなのこれ?」
みんながみんな一様に頷く。
ダンやグレンくんはどうやらわからない組らしい。
よかった。
「それは、砂漠の迷宮でたまに出土される希少な宝石で……本来は欠片もあれば高い値がつくんだ。一説にはテテフフが死んで集まった琥珀や化石とも言われているが……」
「スゴイな……希少価値以上に美術的観点……それと魔術媒体としても高い素養が認められている。もしあのサイズを買うとしたら……天文学的数値だ」
「正直落としても傷もつかないとは思うけれど、慎重にね……」
みんながみんなガンガン言うので焦ってきた。
手がかじかみ汗ばんできた気がするので早く"ストレージ"にしまってしまおう。
……せーの。よし。
「し、仕舞えた……ふぅ」
『石ころひとつで。大げさな。だからニンゲンは変わっている』
「なんだろう。ニンゲンじゃないけれど今回かなりニンゲン側に立たされたなあ……」
テテフフの念話や表情から感情は読み取りづらい。
それでも身体を揺らし羽を揺らしていたからなんとなく笑ったのはわかる。
『それでは。また砂漠の嵐として。会おう』
「いやそれは……普通の状態で会いたいです」
返事をすることもなく念話で棒読みのような笑い声を返す。
そしてそのまま散り散りとなり小さな蝶になって外へと帰っていった……
「それでは優勝チームは……こちら!」
歓声があがる。
砂漠の迷宮の出入り口付近にいる人数はいつの間にやら万人越え。
そして作られた壇上の上に立たされていたのは……私たちだった。
「1言ずつどうぞ」
「イェーイ! みんな! ありがとねー!」
「もうクタクタだけれど……勝てました! ありがとう!」
「飛び入り参加でしたけれど、優勝出来て良かったです」
「ガーッハッハッハッ! これぞ冒険者の実力だ!」
「ほとんど運でしたよね…………コホン。みなさまも暑い中お疲れ様でした」
「コメントありがとうございました! こちら、トロフィーの贈呈です!」
私たちはこの大会に勝った。
ワームの吐き出したものを集めた戦利品やちょくちょく拾った物はあったがそれで『本気』の面々を抜けるほど甘くはなかった。
しかし私が最後に出したテテフフライトを見て一気に逆転が決定したという。
今私はまた通常のケンハリマ状態から"変装"してニンゲンに擬態している。
つまりはホリハリー風にして服も表した。
『ネオハリー』状態は疲労が大きいからね……見た目も奇妙だし。
グレンくんがトロフィーを受け取って天に掲げる。
そして大きな歓声!
……一部の険悪な気配をのぞけば。
彼らは……今日は非番をとった兵士たちだっけ。
まあ『本気』の面々はたいてい兵士たちだ。
冒険者は衰退気味だからね。
そして彼らは暫定1位人気1位だったのに私たちに逆転された……まあ条件は揃っているよね。
変に恨みをかうまえに撤退かなこりゃ。