五十六生目 英雄
雪がちらつく中作戦は遂行された。
私達がコッコクイーンたちを見ていた位置はギリギリだったらしい
何がというと、声の範囲だ。
雄鶏たちによると彼らの声は一定距離まで非常に強い音量を保つ。
それを越えると一気に弱まるそうだ。
意識しない普段の声なら円型状に広がりその中の全ての敵は攻撃を受ける。
音があまりにもひどくうっかり入り込んだら卒倒するほどだとか。
呪い絶叫はそれを攻撃として前方に撃ち出す声の武技スキル。
範囲が狭まる代わりに強く相手を吹き飛ばす。
狭まるのは数でカバーするタイプだ。
そして今私達が潜むのはそのギリギリ。
かなり遠くにいるのだがそれでも危ない位置なのだから恐ろしい。
一応既に魔法のスニークで音消し済みだから今はうるさくない。
そう、音対策さえなんとかなればもう少し接近出来る。
オジサンは絶賛彼らの圏内に侵入中だ。
ホエハリは元々狩りのために潜んだ行動は得意。
単独ならば見つからずすぐ側まで接近可能だ。
さらにスニークの魔法は元々本人の音を消すのが目的。
無音でひっそり近づけるのなら子どものホエハリでも楽にできる。
強化ディテクションの魔法でエリアレーダー開きつつオジサンの様子を見る。
だいぶ近くまで侵入したらしい。
そろそろ開始の時か。
遠くから見る群れの上空に多数の黒い三日月が現れる。
あれは範囲化したオジサンの闇魔法。
敵を眠らせるものと聞いた。
それを今連打している。
多数の黒い月が出ては消えていく。
一気に終わらせるための睡眠魔法。
うまくいくにせよ失敗するにせよ一度オジサンは戻ってくる。
黒い月が最後の1つが消えた後オジサンが動き出した。
オジサン以外に動く反応はなし。
オジサンが帰ってきた。
音が互いに聴こえないので狩りのさいの無言サイン。
『クリア成功』
やった!
みんな眠ったらしい。
雄鶏たちにも同じことを伝えると喜んでいる様子。
音消していて良かった、多分今凄く騒いでるだろう。
だが肝心なのはここからだ。
浮かれる雄鶏たちをなだめつつ群れへと接近。
私が1匹ずつ観察していく。
[キラーコッコLv.20 状態:眠り]
お! 死霊操作がとけている!
オジサンによると睡眠魔法は相手に心のスキがないと効きにくいらしい。
平時やパニック時が狙い目で、その時ならぐっすりと眠らせるそうだ。
そして無理やり気を失って深い眠りについた彼らの精神部分は、異常な眠りという状態に上書きされたワケだ。
ダメでもこのまま順番にはったおすつもりだったけどね。
一体一体を無敵かけつつ観察してまわる。
しかも効きやすいように怪我もないのにヒーリングかけつつ。
正直重労働だ。
しかも起きるまでにやらなくちゃならない。
オジサンが睡眠魔法重ねがけの準備はしているが二回目は抵抗力が強くなりやすいらしい。
確実にやるには今だ。
スニークを切ってその分を回そう。
とりあえず一番危険なクイーンを優先しよう。
観察……うん、死霊操作がとけている。
白色レグホンがそのまま凄く大きくなった存在感は凄いな。
羽根がもこもこだ。
もこっとした身体のまわりにはひよこたち。
それに……まるでカンガルーみたいな袋がついている。
そこに卵が入っていてあたためているようだ。
みんなぐっすり寝ている間に観察&無敵。
いやー、もうひたすらひたすらそれを繰り返す。
いつ起きたり死霊操作かかっているやつがいたりしないかひやひや。
観察し回復に無敵のせて効いたら次。
ひたすら終わるまでの流れ作業。
けれどどいつがまだでどいつが終わったか見分けがつかない。
つらい。
「ほら、まだコイツやってない!」
「こいつ今のうちに息の根止めてやろうか……」
「早くしないとニンゲンが来るかも!」
「急げ! 急げ!」
「白いアクマ、その変な魔法はなんだ?」
しかもうるさい!
でも彼らがいないと誰がやったか見分けがつかないのだ。
役に立ってはいるが、うるさいものはうるさい。
ひたすら心を殺して作業だ……
ちなみに回復と無敵使っているのは、一応『いきなり敵対しないための保険』と言ってある。
目的としては同じなので大丈夫。
敵対心を無くすためのスキルなんだしね。
事前にかけて効果あるのかはわからないから、保険だ。
ならやらなきゃとも思うが、なかなかそうはいかない。
メリットは大きいしテストは常にしておきたい。
ならば今やるのが得策。
だから苦労はいましておくのだ……!
それはそれとしてつらい。
黙々と作業を続けてやっと最後の1羽。
「これでよし!」
「全員だ! これで!」
「間に合ったな!」
「みんな操られていたのが解けたぞ!」
「あ、だったらあんたらココを離れないと!!」
え?
そう思ったうちに1羽が起き出した。
そして元気に。
「コケコッコー!!!」
う、うわあああああ!?
耳がグワングワンする!
倒れるかと思った!
もしかして起きたら全員が……?
そう考えると怖気がたった。
クイーンの金色のトサカが揺れる。
まずい、起き出している!
オジサンのすぐ側へ!
高速で魔法を唱える。
範囲対象スニーク!
私とオジサン!!
耳まで完全に覆うスニークで無音になる。
さっきの雄鶏たちも近づいてきて何か言ってるが聴こえないのでスニーク使ってるむねを身振り手振りで伝えた。
納得したのか雄鶏たちはこちらを見るのを止めクイーンを見る。
そして……
あっと言う間にみんな起きた。
先程の雄鶏たちが誰かが起きるたびに何か話している。
どうやら説得してくれているらしくて逃げたしたりするそぶりはない。
ただ、遠慮なしに全身くまなく見られてちょっときまずい。
耳を使った言語はわからないがソレ以外のサインならわかるな。
警戒はしつつも困惑の方が強い。
それに『英雄』さんたちが話をして回っている。
なんだかんだまるく収まっている気配はあった。
さらにしばらく待つと『英雄』たちが外へいくとの合図。
ついてくるよう合図されたので一緒に移動。
しばらく移動し続けてから『英雄』たちの合図でスニークの魔法を解いた。
ふいー、耳に音が戻って気持ちいい。
無音はやっぱり気味が悪いね。
「あー、あー、よし、聴こえる。それでどうだったの?」
「いいぞ! いいぞ! みんな感謝している!」
「さっきやられて逃げ帰ったやつもいたから少し時間はかかるが、直に納得するだろう!!」
「みなお前たちを味方と判断しだしている!! 操られていたのが解けて正常な判断が戻った!!」
「反撃だ!! 反撃の時だ!! また操られないようにニンゲンを攻めよ!!!」
ここからまたうるさい静かにからの『おっと!』のセット。
これが100羽近いあの集団でやられたら倒れてしまうね。
いやあ……本当にシャレにならない。
やはり戦いは数だよ。
それにしてもうまくいったようで良かった。
私達はあの場では声すら出せず聴くことも出来ないから『英雄』たち頼りだった。
この雄鶏たちがいなくてはふいに100羽近い雄鶏たちに殺されていても不思議ではなかった。
やはり常に味方は多くいて良かった。
それにしてもニンゲンへの反撃か……
「ニンゲンたちの反撃は良いけれど、アテはあるの?」
「ああ! 昔ニンゲンと共に住処まで俺は行った!」
「少しだけ連れて行って護衛にしたみたいだ!」
「道案内ならできるぞ! 乗り込むぞ!」
確かにあの100羽で乗り込めば通常ならば勝ち確定だろう。
だけどなー、かなり不安要素が。
「そもそもニンゲンは堂々と声の範囲に入られても無事で、あっさり操られたみたいだけれど対策はあるの?」
「うっ!!」
そう言って雄鶏たちが一斉に固まった。
だよなぁ……
やはり偵察するのが先だろう。