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五生目 王軍

 私が悪かった。

 だから嘘だと言ってくれ!

 ああ、そんな事を言ってもこの世界はとりあってすらくれない。

 私が下手に前世の意識が残っていたのが運の尽きだと言うのか……



―――



 おはよーございます、こっちの母と離れて初の朝です!

 私は問題ないのだけれど他ふたりが深刻なダメージを負っている。

 ハッキリ言って距離としてもあんまり離れていないんだけれどなぁ……


 結局は同じ群れ内なので確かに私達の足では時間かかるもののそれでも10分かからない。

 大人たちにとってみれば文字通りすぐそこだろう。

 まあ物理的な距離よりも心情的な距離が開いた事に関するショックが大きいのかもしれない。


 だけれどこうして少しずつ独り立ちしていくものだ。

 いつまでも母の栄養を奪って生きていくわけにもいかないからな。

 おっとそういえば食事はどうなるんだっけ。


 離乳するということだったから肉や魚を食べることになるのだろうか。

 この身体が何か食べられて何がダメなのかまだハッキリとはわかっていないがそこらへんはハートのおふた方に任せれば良いだろう。


 今、むくりと動き出した毛玉ふたつこそがハートのペアだ。

 昨日基本的な事はふたりに説明して貰えた。

 ハートとは幼児からしばらくの間責任を持って育てる役割のペア、つまりふたり組の事らしい。


 ハートは子どもに多くの教育をして食事を与え危険を排し愛情を注ぎ子どものしでかす事に対する責任を負う役割だとか。

 比較的若いらしい二匹は元気ハツラツとして昨晩その旨を語ってくれた。

 なお私以外殆ど意識飛んで夢の世界との間でタップダンス踊りながら聞いていた事を付け加えておこう。


 気合が入っているのはとてもありがたいのだがこちらも気合を入れて休み肉体の成長を促さなければならないのだ。

 それをまだ把握してないあたりはちらりと言っていた『初めてこの役をする』という言葉が物語っていた。




 別に自分たち子どもは起きる時間は決まっていない。

 イと私が同じくらいでハが遅い程度か。

 ハは常に寝るのが早く起きるのが遅い。


 最初体力不足または健康面での問題かと少し不安だったが長らく観察してきてわかったのは性格というだけだった。

 だがおとなたちはそうはいかないらしい。

 最近やっとまあまあ使い物になるようになった瞳が太陽光を捉えるとおとなたちは一斉に立ち上がる。

 ハートのペアも同時に起きる。


 少なくとも周囲にいるおとなたち6名は誰に言われるでも無く元気に起立した。

 ちなみにここまで送ってきたダイヤのペアとジャックのペアだ。

 この二組は何の役割を持っているのだろう……


 と言うか名前は?

 誰からも名前というものを聞かないし貰ってない気がする。

 ただ、人では無いのだから少し予想はしている。

 名前なんて無いんじゃないかって。


 少しするとダイヤのペアがどこかへ歩き出した。

 その様子を見ていたらハートの片側に声をかけられる。


「おはよう仔どもたち。おっとひとりはまだ寝てたね」


 そう、ハは爆睡中である。

 ただそう言うだけで起こす気配は無いので放っておいて良いと言うことだろう。


「おはようございます」

「おはよう、ふたりとも」

「おはよーでっ……す」


 私の挨拶に返してくれたのがメスのハート、最初に声をかけたのがオスのハートだ。

 そしてやや緊張気味な感じがある挨拶はイだ。

 母から初めて離れて別のおとなと過ごすのはやはりそう慣れないか。


「いいのよ、そんなに緊張しないで! 妹と弟たちを食ってしまおうなんて考えないから!」


 そう軽く告げるメスハート。

 ってん? んん?


「えっと、もしかして私たちの姉……?」

「うん、そうだよ?」

「そして僕が兄さ。2周季節巡るぐらい離れてるかな?」


 おお衝撃事実発覚だ!

 誰の所に預けられたかと思いきや兄妹でした!

 間違いなく安心の範囲だった。

 そして見逃せない言葉として2周季節が巡る! つまり2年!


 彼らは若いだろうとは思うが明らかに"おとな"の部類に入るそびえる毛玉たちだ。

 つまるところ2年もあればこのサイズに育つと。

 うーむまさにケモノっぽい。

 いや、ケモノなんだけどさ。


 私も2年あれば立派なそびえる毛玉かー。

 はやいなー気分的には15年くらいはぬくぬく遊んでいたかった。

 とは思ったものの寿命までケモノっぽかったら間違いなく遊びだけで尽きるか。


「あ、そうか! まだ説明していなかったね。この群れは殆どキミたちのお兄さんやお姉さんなんだよ」

「今はいないけど外に出ているやつらの中にふたりだけ外から来たホエハリがいるよ」


 兄そして姉がそう説明してくれた。

 なんともまあ群れのホエハリ族は殆ど兄と姉とな?

 母は一体何匹産み育てたのだろう……?


「へええ」


 イが感心深気に呟いた。

 さすがに血のつながりがあると知ってか緊張は解けてきたようだ。


 少しこの群れについて話をしているとダイヤペアが帰ってきた。


「あのダイヤというふたりは?」

「彼らは群れのなんでも屋かな?群れの中で連絡回したり小間使い頼まれたり警備したりと忙しいよ」

「つまりは日常を送れるのは彼らのおかげもあるってこと。まあ今はわからないかも知れないけれどそのうちわかるよ」


 そのまさによくわかってなさそうなイの顔に姉が付け足した。

 といっても私はなかなかまあまあ今ので理解できた。

 つまり群れの中限定のお巡りさんと言ったところだ。


「ほへぇ〜」

「はい、わかりました!」

「おお、噂の才子は理解が早くて大変よろしい!」


 姉に才子と呼ばれたらしい。

 才子? 私が?

 よくて変なやつかと。





「スペードが帰還した。手当の必要な負傷者はいない。獲物は全員分十分ある。ジャックは報告を頼む」


 事務的にダイヤの片側がそう告げた。

 それは私たちにでもあるし、ジャックのペアにでもあるだろう。

 少し離れたジャックたちにも通るように言っていたから間違いない。


「報告ご苦労。持ち場に戻れ」

「はっ」


 報告を頼まれたジャックのペアは私達の母の元へと歩いて行った。

 その間に私は小声でハートの二匹に尋ねる。


「聞いても?」

「ええと、どれをかな?」


 どれからにしようか……


「最初に話に出た、スペードって?」

「外でご飯をさがす部隊さ。ご飯をとってくるんだよ」


 なるほど、一晩中狩りをして獲物を持ち帰る部隊、とな。

 部隊か……ペアじゃなく多い?

 さっき言っていた家族ではない群れの二匹はここに含まれるのかな。


「次は……ジャックというのは?」

「キングとクイーン、つまりは我らがとうさんとかあさんを守るふたり。凄く強いよ?」


 レベル28のペアはなるほどそういう役割だったか。

 わざわざ報告や私達を母の元から連れて行く時もジャックを挟んでいたのだからかなりここはキッチリしていると見るべきか。


 何せ今の話だと父と母は群れの王様と女王様だ。

 ジャックはまさしく親衛隊だろう。

 父にはまだ会った事がない。

 ぜひここでその顔を拝んでおきたい所。


「ふむふむ……最後に、私達のご飯ってどうなるのですか?」

「おっ、今さっきの話から離乳する話に繋がったか! えらいぞ〜」


 兄は褒め殺しが好きらしい。


「心配しなくてもこの後すぐさ」


 姉は話を分かりやすくしてくれる。

 ただまあ肝心のイは頭を悩ませているしハに至っては未だ熟睡中だ。





「キングとクイーンがお見えになる! 道を開けよ!」


 ジャックがかけてきてそう叫ぶ。

 といっても辺りは道なんてない開け放題の場所だ。

 とは思ったがハートペアとダイヤペアが間隔をあけて姿勢を正し緊張した様子で向かい合い立った。


 その間には数匹幅分距離がある。

 なるほど道が出来た。

 私もそれに見習い線を揃えきっちり立っておく。


 イは困惑しつつ空気を読んだ。

 まあやや線がズレてるが許容範囲だと思いたい。


 そして1分もたたないうちにジャックの後ろ側から二匹の姿が現れた。

 片方は見慣れた優雅な姿。

 母だ!


 母センサーに引っかかったらしいハがガバリと起き上がった。

 さっきまで寝ていたのが嘘のように尾がテンションマックスだ。


 そしてもう1頭は見慣れなかった。

 それはもう圧倒的に見慣れなかった。

 群れとしても異質の存在。

 私の知るホエハリ族はあんな姿ではない。


 全身に紺色を纏い背に金の槍を針替わりに射し込んで尾先はモーニングスターにも見える針を纏った金属球。

 脚は筋肉が肥大化し爪は地面に食い込み首からは火のような赤い毛が飾る。

 その鋭い瞳はホエハリが纏う毛皮と同じ鮮烈な青。


 爪痕のような黄色模様の毛が顔と身体に大きくあり。

 頭についた野太い耳は片側が無くなっている。


 ひと目見ただけでわかる。

 圧倒的強者。

 私が人間であれば絶対刺激しないようにそうっと離れ我が身の無事を神々に片っ端から祈るほどの相手。


 キング。


 父であるからこそ私が逃げないだけ。

 だから反射的に観察をした私を誰も責めないで欲しい。


[ガウハリ Lv.5]


 種族名が、違う。

 いわゆる進化したと言うやつなのか。

 レベルの低さなんてもはや意味はない。

 進化し種族すら違う相手をどうして同じ尺度で測れようか。


 かよわき人間がどれだけ格闘術を極めようとぼさっと過ごしているだけの熊に依る一撃で葬られるようにそこに意味など無い。

 そう悟らずを得ない相手が私の目の前にいた。

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