五百八十九生目 滾水
「うおおおおおっ!!」
召喚獣インパルスを倒したと思ったら立ち上がった!
しかもインパルスの身体中の水分が煮えたぎっているようで明らかに様子がおかしい。
すぐにトドメをささなくては。
けれど吹き飛んだ関係で少し遠い!
空にいるからアインスに頼んで加速を……
あっ! 何かものすごいエネルギーがインパルスに集まっている!
両腕を引いて泳ぐ龍尾をうねらせユニコーンの角が輝き出した。
今までにない兆候だ!
「トドメの一撃放てッ!!」「させるかぁ!」
叫んだのは私……ではなかった。
私より先に現地に飛び込んでいたのは……ずっと機を伺っていたグレンくん。
行動の反動関係で彼の方が早かった!
手に持った長槍が力強く投擲される。
光が彗星のほうき型のようになり……
インパルスが今にもはなとうと腕を突き出す瞬間にインパルスの腹へと刺さる!
「おっ、があああああああっ!!」
そのまま勢いよく共に飛び壁へと思いっきり突き刺さった!
インパルスはとうとう沸騰の気配を無くしぐったりうなだれる。
光が身体から派手に漏れているが召喚獣は死なないので少ししたら復帰するだろう。
「まさかさっきの……神使の力が……ガフッ」
それってもしかして私の……?
ただ聞き出そうにも気絶してしまったらしい。
燃え尽きたようだ。
なんとかこっちの面々もみな立ち上がりインパルスが復帰するのを待ち構える。
だが……そこに手を合わせた打音が響く。
「そこまでッ! ここまでされたら認めるしかなかろうッ。我らもッ、カエリラスもなッ」
オウケン上級王の声だった。
その声を聴きみなやっとひと息ついて武器を降ろす――
「だがッ! 滾った血は止められんッ! 今度は我と闘えッ」
「「えっ」」
『ん?』
複数の声が重なった。
テテフフも念話で疑問符を発する。
こう……話が違うような。
ただそれを思ったのは向こうの控えているお付きの人々も同じらしい。
「お止めください!」「落ち着いてください!」
「ええいッ! 熱い闘いの魂を止めるなッ! 我は上級王だッ! はッなッせッ!!」
「誰か止めろ!」
「構わん! 事前に宰相たちに許可は取ってある! 殴ってでも止めろ!」
宰相……ああ参議のことかな。
複数人でよってたかった固めてたらパワーで振り回されている。
そうしたら今度はさらに周囲のニンゲンたちが直接蹴りに行っている……
「はやく上級王様を止めろ!」
「ぬおおおッ!! アダダッ! 誰だスネ蹴ったのッ! 痛ッ! おいそこはッ! 地味に……うおおッ!!」
……眺めていたらローブ姿のおつきのひとりがこちらにやってきた。
「少々お待ちください。オウケン上級王が冷静な判断を下せるよう、みなで説得中ですので」
「「は、はい」」
「いたッ! 誰だ今どさぐさに紛れて棒で殴ったヤツはッ! うぐッ! アバッ! ちょッ! 待たれッ! ゲフッ! コラッ! おかしッ、やめッ! うわおおおッ!!」
説得……説得とはなんなのか。
その後無事『説得』され召喚獣も引っ込まされた。
落ち着いたところで魔力送信装置を破壊。
このあとはこのことをカエリラスに報告しつつ裏で軍備を整えるそうだ。
「それではッ! 実に良き武だったッ! 我らはその時まで耐えてみせるッ! せっかくの守りもたおされッ、最強の天候ッ、蝶嵐を突破されてしまったしなッ!」
『口裏合わせ。思われない?』
「そこは問題がないッ! 召喚獣が正面から突破されたことはッ! 向こうに伝わる仕組みになっているらしいッ! まあそれでも疑われるかもしれないが……その時はだッ」
オウケン上級王が拳をテテフフに向ける。
ちなみに浮いているためやや上向きに。
「お前の力を見せてやれッ!」
『ああ。サイコパワー。さっきの映像。流すと』
そんな脳内上映会みたいなこともできるのか……
商いの街は派手にやられた様を写真にとっていたし実際に近衛騎士団長はズタボロだったし問題はなさそうだったけれど。
テテフフを呼んだ理由はここにもあったのね。
「テテフフ様、これが今回の上納品です」
『……質。下がった?』
「も、もうしわけありません! やはり、帝都が抑えられると我々としてもうまくかき集める事が難しく……」
『分かっている。だから。確実に潰して。そいつら』
お付きの人がおそらくは蜜のつまったツボをテテフフ差し出した。
サイコパワーで口らしき場所に運んで舐めては文句を言っている。
なるほどこうやってテテフフを味方に……そしてテテフフはそのためにもカエリラスにつぶれてもらう必要がありそうだ。
「それではッ!」
「「さようなら!」」
オウケン上級王とはここでお別れ。
テテフフもここで別れて蝶嵐に巻き込まれる前に撤退を……
『そうそう。忘れていた』
「あららっ」