五百八十六生目 蝶々
「良しッ!」
上級王オウケンに砂漠の迷宮の奥にあった洞窟内で出会った。
魔力送信装置もある。
あとは……壊すだけなのだが……そうすんなりいかないだろうなあ。
「そちらの様子やッ……他はどうなっているッ?」
「まずひとつはここと同じように。もうひとつはかかっている途中で、着々と準備を整えています」
「そうかッ! ならば結構ッ!!」
上級王オウケンは歯をむき出して笑顔をつくる。
笑顔なのはわかるが獣の唸り声が聞こえてきそうだ……
さらに奥からローブのニンゲンがやってきて何やら唱えだす。
「少し驚くかもしれんがッ、その場で待たれよッ!」
「驚く……?」
ダンが疑問を口にしたあとにその答えがやってくる。
……外から群体が!? 羽音がきこえる!
本当にこれ大丈夫なのか!?
そのまますぐに部屋の中に蝶たちが入ってきた!
「わああっ!?」「蝶嵐か!?」
「落ち着けェッ!!」
上級王オウケンの一喝にみな動きを静止させる。
かわりに蝶たちはどんどん入ってきてさらに光をまといながら1箇所にまとまっていく……?
ついに蝶が同じ場所に集まり糸のような光で包まれ繭になり……
それを割いて出てきたのは……たったひとつの蝶。
あの小さかった蝶たちがもはや私達とあまり変わらないほどのサイズへと変化した。
今の気配……もしやあれも一種の"進化"なのか?
[テテフフ 融合の姿。群は個であり、サイコパワーでつながっていた思考により融合後も変わらぬ意思で動く。天敵を駆逐するために集まる数ほど大きくなりサイコパワーも強くなる。まれに対話のためにこの姿をとる]
その姿は先程の蝶をベースにしながらも不可思議な姿だった。
翼は全て身体から離れ離れなのに羽ばたいて飛び腰下まわりからきらめきのひし形が連なりツインテールのようになっている。
あれは融合前にも羽じゃないところの浮いていたひし形が連なったものかな。
虫特有の複眼で寄り添ったひとみが大きく私達を映し出す。
『どうも。さっきは。あの手で来られると。私たちは弱いから。夜を待つのかと思った。夜は私たち眠るから。柔の力で危険を制す。私たちは良いと思うよ』
念話だ。脳内に声が響く。
一人称のはずなのに複数前提なのがなんだか不思議な気分だ。
「気に入られたようだなッ!」
「ええと……オウケン上級王、これは一体……?」
「何……少しばかり仲が良いのでなッ、今回協力してもらったッ!」
『私たちは古くから……この坊主が生まれる前から。交流があった。この坊主の先祖。私達と争った仲。興味深い?』
ちなみに念話の声はホエハリ語あたりで聴こえている。
つまり脳内のその種の覚えている言語を意味合いを合わせ再現しているのだろう。
昔似たことをした使い手がいたからわかる。
「我ら王家は代々、試練として蝶嵐に立ち向かわせられるッ! 武とは剛のみでなく柔も合わせてこそと知ることがッ! 試練の突破条件だッ!」
『剛をともわねばまっすぐ立てぬ。柔をともわねば折れる。そう聞いている。ニンゲンたちから』
なるほど……それを突破条件にすればカエリラスの目もごまかせる。
まあ本気で危ないわけだし。
対処法もきっとどこかで聞けたのかもしれない。
「そしてッ! そこの貴殿ッ!」
「え? 私ですか?」
「見させてもらったがッ、貴殿は魔物なのだなッ! 我はこのように魔物に対しても偏見はもっておらぬッ! そこは安心せいッ!」
「あ、ありがとうございます」
さっきの外の様子を見られていたのならそりゃバレているか……
"変装"をといて本来の姿に戻る。
「深い事情は聞かぬ……がッ! それはそれとして、剛の力も示してもらわねばならぬッ」
『私たちは。下がるね』
剛の力……やはりか。
テテフフと戦うハメになるのかと思ったがテテフフはゆらりひらひらと飛んで離れていってしまった。
代わりに前に出てきたのは……上級王オウケンだった。
「……えっ!?」
「オウケン上級王!? それは……!」
「何ッ! 戦うのは我が身ではないッ! すでに何度か経験済みだろうッ! 結局は突破されたという事実そのものも大事だが……貴殿らがここで負ける程度では先がないのと同じ事ッ! さあ来いッ! 召喚獣よッ!」
勢いよく懐に手を伸ばし勢いよく取り出したるは召喚獣石。
空に掲げ光り輝くと魔法陣がオウケン上級王を包む。
そして魔法記述と共になにもない空間からひとつの影が飛び出した。
「うおおおおおっ!! 燃えてきた!! インパルスっ!! ここに見参!!」
全身に水を張り巡らせているそれ。
一角角に全身の竜鱗。さらに前半身は狼のようで下半身は細長い東洋竜の身体になっている。
つまりは足が無く浮いている形だ。
水の見た目に見合わず沸騰しそうなほどの熱い叫びで現れた召喚獣。
どうやら彼が相手らしい……