五百八十三生目 砂蛙
蝶嵐に追われる私達。
グレンくんたちが必死に攻撃するもむなしく群体特有の回避を繰り返される。
しかしそのたびに遅れつつある!
「いける! ……今だ! みんな手をつなげて!」
空魔法"ファストトラベル"の条件はみんながつながっていること。
でないと対象外になってしまう。
わずかなブレなら許されるが今のカルクックに揺れた状態だと私が魔法を制御しきれない可能性がある。
背後からきらめきが迫る。
みんなが掛け声を合わせ互いのどこかに触れる。
私は背負っていた剣ゼロエネミーを抜き取った。
鞭剣モードに変化。
すぐに振りオウカに向かって"縛り付け"!
オウカの腕にしっかりと剣ゼロエネミーが巻き付く。
「よし! 急げ!」
グレンくんはオウカの片腕に。
ゴウはグレンくんが伸ばす剣の鞘に。
ダンはゴウの弓に。
背後にきらめきの暴風が来た!
もう余裕はない!
けどこれでっ!
"ファストトラベル"!
「いてて……」
あれ。なんで私転がっているんだっけ。
ああそうだ……蝶嵐から逃れたんだ。
けれど"ファストトラベル"が手荒だったからみんな逆さまに落下したりめちゃくちゃだったんだっけ。
おかげで"変装"が解けてしまった。
まあ今はグレンくんたちしかいないから良いけど。
ここは……崖に侵入する入口をとっさに選んだんだっけ。
「いったぁー」「イテテ……」「んあ!?」「ふぅ……」
「「死んだ〜!! ……生きてる!!」」
カルクックたちの驚きはともかくみな砂地に投げ出されただけで無事なようだ。
わりとあれは死ぬ可能性があった……
よくわからないが頑丈で強さもそれなりなはずの相手を小さな弱い蝶が群れるだけで瞬殺する時点でおかしい。
あれはイオシの群れよりやっかいだぞ……
イオシの集合擬態は巨大魚になって襲い来るものだったが蝶は通りがかり全てをミキサーにかけるようなものだとしたら……ぶるる。
しかも困るのは……
「あー、くっそ! あの奥に用があるのによ!」
「なんとか迂回できませんかね……?」
「谷の上から? どうだろうねえ、さっきの蝶、かなり上の方にも竜巻発生していたし……」
ダンが拳を鳴らしゴウが提案。
オウカが懸念を提示してみな一様にため息をついた。
そうあの先にいかねばならないのだ。
「うわっ!? 誰だ〜!?」
「ああ、カルクックさんたちに見せるのは初めてだっけ。これが私の本来の姿だよー」
「……わけがわからない! 転職できないかな〜……」
カルクックたちに前足を振るい答える。
転職は後にしてほしい。
「とにかく道を見つけなきゃね」
「なんとか迂回してみるしか……」
「オウ、そこの空から降ってきた毛生えドモ」
……うん?
声の主を探して見てみたら私達の近くにカエルが。
こんな砂漠にもちゃんといるんだ。
まるでおまんじゅうのようにひらべったくかつふくらんでいる。
顔にあるほっぺをふくらましていた。
「良くわからないが、毛生えの言葉がわかる。オレは覚醒したのかな……?」
「ああ、それはこの翻訳機が……」
「うん?」
グレンくんたちがしている受信機を通して本体と接続し常に言語翻訳を行っている。
九尾博士の発明品だ。
……ということをかいつまんでみんなで説明した。
「ナーんだ、オレが力に目覚めたわけじゃなかったか……」
「それで、私達に話しかけてきたのって……?」
「アアそうだ。忘れるところだった。蝶嵐の話していただロ? ちょうど良い、イイヤツ紹介してやるから、自分たちで協力あおいでみナ」
「イイヤツ……?」
グレンくんが首をかしげカエルはゲロゲロと頬を膨らます。
「オウ、そいつのおかげでオレは何度か助かってる。もちろん、教えるのはタダとは言わないが……」
「蝶嵐は街で聞いた話によると砂漠の迷宮最悪の天候だとか。通った後は骨すら残らないけれど、街の人達は遠くで見るのをおがむ程度しかしたことがないから、滅多に会わないし気にすることはないと話していたので、すっかりさっきまで忘れていましたが……もし真正面から向うなら、ぜひ情報を買っておいたほうが良いかと」
ゴウが補足を入れる。
野生の魔物はそこまで迂遠な交渉はしない。
欲しいものが提示され払えるか払えないかで交渉が決まる。
「……じゃあ、キミが欲しい物は?」
「それはな……」
「イイ! イイ! イイねえ! やっぱりこれだな!」
私達は案内され歩きながらカエルの様子を見ていた。
カエルは水筒の中にあった水を浴びるように飲みペッと吐き捨てる。
そう彼が要求したのは水だった。
「砂漠じゃ水はメシより貴重! 貯めるだけためて、豪雨が来るまでしのがねーとナ」
「あ、ちゃんと雨も降るんだ」
「タマにな! スゴイ勢いで何もかんも流される勢いで荒れるから見ものだゼ……おっといたいた」
案内された先にいた生物。
それは……さっきみたな?




