五百八十ニ生目 蝶嵐
カルクックたちと岩で出来た谷間を道なりに曲がったら急停止してしまった。 なっ何がおきた?
「な、なんだいきなり!?」
「み、みなさんがた〜…………声を、音をたてないで……!」
「え?」
確かに周囲には多くの魔物がこの先にいるのは感知できた。
壁面に弱々しそうな蝶たちがちょこんとあちこちにいる。
ぶっちゃけわらわらとよってこようが軽く払えるしそもそも小型の蝶は逃げ延びるのに向いている。
森で良くいた彼らもそうだったしなあ……出会う蝶たちがみなレベルが私より高い時代懐かしい。
わざわざ死ににこないだろうし……問題を感じないがカルクックたちはなぜか怯えている。
「だ、ダメですよこれ以上は……! 帰りましょ〜」
「え、いや? 大丈夫だって、多分」
「この先に用があるんだ。頼むよ」
「そ、そういう問題じゃあ……」
「ああ〜、これだから観光客向けは……やっぱり転職しようかな〜」
カルクックたちは互いの顔を見合わせ覚悟を決める。
そしてようやくソロリソロリ……遅い速度で歩みだした。
「ねえ、ところで何をそんなに怯えているの?」
「それは……」
カルクックに訪ねた答えが帰って来る前に事態は起きた。
空から大きな音をたて何かが舞い降りたのだ。
カルクックたちの動きも思わず固まる。
おっ。あれは砂ドラゴンだ。
手先指先が砂を掘り進むのに特化していて身体の大きさが体高2mほど体長4mほどと巨大なのにぐんぐん掘り進むアグレッシブな相手だった。
アイツは私達と戦った個体とはまた違う様子だ。
「こっちに、強そうな気配を感じて来てみたぜぇ! ……え、え?」
威勢よく吠えるかと思ったドラゴンの動きがピタリと止まる。
そして周囲に目を配らせた。
蝶たちが一斉にその羽を開く。
裏面の地味な落ち葉カラーから一斉に太陽光を照り返す。
ピンク色で一部肉体からすら離れた位置にある不思議な羽すらも羽ばたき始め崖の暗さがうそのように光に満ち溢れ出した。
「に」「げ」「ろおおおおぉ〜!!」
「わっ!?」
カルクックたちが反転して駆け出した!
つまり全力疾走だ。
蝶たちは一斉に飛び立つとあちらこちらから砂ドラゴンの上に集まっていく。
「わ、わあああっ!!」
砂ドラゴンが悲鳴を……?
通常ドラゴン種は強い相手ほど燃えて立ち向かうタイプ。
悲鳴を上げることはめったに無い。
ソレはうちのドラーグ専売特許のはずなのだが……
そうこうしている間砂ドラゴンは地面を掘ろうとしてすぐに岩盤に突き当たりひたすら焦るだけで成果なし。
集まりきった蝶たちが一斉に広がり展開して見せたその姿は……美しかった。
同時に頭の中の危険警報が叩き起こされガンガン鳴り響く。
ドラゴン種は強敵には立ち向かうが……天災に立ち向かうほど愚かではない。
蝶たちがあまりに力強く舞い輝くそのシルエットは……竜巻。
光がきらめき乱反射して生み出す光の嵐と蝶本体たちが連なり生み出す嵐。
光と危険そのものを詰め合わせたはれが……砂ドラゴンに襲いかかる。
「「蝶嵐だ!!」」
カルクックたちが叫ぶ。
一斉に蝶以外の生物気配が遠く潜むようなものへと変わる。
空気が大きく変わっていく。
「曲がっる!」
「なっ!? 竜が!」
「ギャアアアアアァ!!」
砂ドラゴンが竜巻に巻き込まれたかと思った。
次の時には血煙になり何もなくなっていた。
えっ。えっ?
曲がってさらに道を戻る。
もちろんカルクック全力疾走だ。
「どういうことあれ!?」
「そうか、あれが蝶嵐! 街で聞いたことがありましたが……あれほどとは」
「なーにが起こったかさっぱりだけれど、巻き込まれたらおしまいなのはわかった。頑張って逃げてくれ!」
「やってるよおおお〜〜!! 転職してやる〜〜!!」
うわっ!
蝶嵐が曲がってきた!?
砂ドラゴンが自業自得とはいえ助けられなかったことを悔やむ場合じゃない!
全力でカルクックがかけても少しずつ追い詰められていく!
急げ! 急いで空魔法"ファストトラベル"を発動させるんだ!
「追いつかれてきている!」
「よし、任せてくれ!」
いつの間にか光の剣をチャージしていたオウカ。
ぐんぐんと光が大きくなりほとばしっていく。
光の大剣は身丈を大きく越え数十mを越える!
それを大ぶり!
蝶嵐に直撃!
……しかし。
「うわっほとんど効いてない!」
「群体だから簡単に避けられていますね」
正直言ってほとんどからぶりだった。
嵐が途切れたのはわずかで美しいほどに離散と再結集を行いスムーズに攻め込んできてきている。
「僕が!」
「飛んでいるものは私が!」
「俺も……おりゃあ!」
グレンくんの射撃がゴウの曲射がダンの気合拳波動が放たれてはことごとく蝶嵐に吸い込まれる。
……そして何事も無かったかのように再結集。
だがわずかずつ遅れている!




