表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/2401

五十五生目 悪魔

 今私は身を寄せ合って震えている彼らの前にいる。

 一時期倒れそうになっていたのを何とか5羽固まることで恐怖しながら落ち着いていた。

 先程まであれほど騒いでいたのに、不気味なほど静かになってしまった……


「あの」

「ひいいいいぃ!!!」

「食べるならコイツを!!!」

「いやいやコイツのほうが美味い!!!」


 悲鳴すらうるさいよ!!

 "私"はなりを潜めているとは言え見た目はそれそのままだもんね。

 ちょっと奥の手。


「騒がない。逃げない。話し聞く。OK?」


 ものすごく無言で肯定しまくっている。

 ちょっとニカッと笑顔しただけなんだけどなー。

 おっかしいなー。


 棒読みは置いといて。

 彼らを脅す事は本意じゃない。

 目的を達成しなくちゃね。


「別に私達は殺して回るのが目的じゃない、今回はそちらは操られていたとはいえ殺されそうになった。

 だから反撃したし遺体はありがたく食べる。

 ここまでは良い?」


 無言の肯定。

 羽毛をとったらおそらく真っ青な顔をしているだろう。

 そのぐらいガチガチだ。


「そして殲滅や殺戮が目的じゃないから、あなた達は生かしたし瀕死から癒やしたりもした。

 私達はあくまでちゃんと生きていたいだけ。

 それはそちらも同じ。だよね?」


 全力の無言肯定。

 よほどじゃなきゃこのタイミングで死にたいとは言わないと思う。

 それは恐らくうつを発症しているのでかかりつけの医師にご相談ください。


「そして、あなたたちは危険が及んでいるクイーンや群れを救いたい。

 私達はその危ないニンゲンをどうにかしたい。

 互いのやりたいことは殆ど同じ。だから今はもう味方。ね?」


 合理的に互いに得をするのを探らねばならない。

 互いの敵が同じだし元々私達が争う原因がその敵のせいならば。

 停戦し手を組むほうが良い。


 雄鶏達は顔を突き合わせ困惑した顔をしている。

 まあ、いきなりこんなこと言われてもだよねぇ。


「あ、小さい声でなら話していいよ」

「あ、ああ……わかった」


 それからひそひそ声で相談しはじめた。

 やれば出来るじゃないか、その音量。

 やがてひっそりとこちらへ顔を向ける。


「あの……結局、もう今は私達の味方だと?」

「襲う理由がないですからね。むしろ群れを一緒に助けに行きましょうよ」

「群れを……そ、それは……ありがたいがしかし……」

「さっきの力は見てもらえましたよね。私達がいれば群れをすくう英雄になれますよ」


 ゴクリ、とニンゲンならつばをのむような動作。

 魅力的な囁きが鼓膜を刺激した証。

 心音が高まる。

 5羽とも『白いアクマ』のささやきが無視できないらしい。

 そして私は彼らの耳元でダメ押しした。


「英雄は群れの、クイーンの、特別になれるんじゃあないかなぁ」




 そこからはトントン拍子だった。

 英雄になるぞと張り切る彼らをおだてつつ道案内してもらう。

 ちなみにお肉たちは雪の中に隠しておいた。


 ログを見るとさすがにアレだけの数倒しただけあったらしい。

[経験値累積 +レベル]

 しかしまあ今はそれどころではないから、スキルポイント割り振りはあとにしよう。


 追加の説明がありつつ移動。

 彼らは死霊操作は危険だと騒いでいた。

 すごく単純な命令のみしか出せないみたいだが、命令は絶対。

 『狩レ』と言われれば狩りをしなくちゃと思うし、『戻レ』と言われれば群れに戻らなきゃならないと強く考える。

 複雑なコマンドは出来ないし、はっ倒されれば操りは消える。

 今頃明らかに帰ってきたやつが少ないのに気づいているかもしれない。

 防衛されたら厄介だ。

 その前に探らないと。


 雄鶏たちは霊化魔法を唱えると透明になった。

 さらに鳥足が掴んでいる鳥籠が雄鶏を覆う。

 完全に本体の存在がわからなくなるから面白い。

 しかしこのままでは浮いていない。


「飛行魔法、実行!」

「実行!!」


 そう彼らが言うと鳥籠たちが浮いた。

 あら、これは別の飛ぶ魔法だったのか。

 見た目以上に複雑な手順を踏んでいたらしい。

 にしても飛行魔法か……使ってみたい。


 そして飛行した彼らの速度は速かった。

 私達も進化して速度には自信があったが、彼らは隊列を乱すことなく編列を組んだまま高速飛行。

 追いつけないわけではないが、ビュンビュン森の中を飛ぶ。

 能力や練度が高い証拠だ。


 その状態で騒がしくしているんだから感心する。

 おかげで移動しながら話が聞けるから良いけどね。

 群れがよほど心配なのかだいぶ彼らは急いでいた。


「もう少しでつく! その付近で一旦群れの様子を見よう!」

「わかった!」


 彼らに動きを合わせて木陰で止まる。

 周りは異常な状態だった。

 動物がまるでいない。

 そしてそのかわりに響き渡る声。

 雄鶏たちの会話声だ。


 本気でうるさいなこれ!

 魔法で治しつつでないと心が折れてしまいそうだ。

 これこそが彼らが生き残るための(すべ)か。


 そして……見つけた。

 声の持ち主たち。

 遠くに人くらいのサイズはある大きな鶏。

 多分あれが……

[コッコクイーンLv27 状態:死霊操作]


「いたけれど……クイーンもどうやら操られている様子だよ」

「ああ、だろうな……じゃなきゃ既に逃げ帰ってきたやつらの話を聴いて対策している」

「無防備すぎる……おいたわしや」

「すぐに呪縛から解放してさしあげねば。しかしどうすれば?」


 近くにニンゲンの姿はいない……警戒している気配もない。

 おそらく待機命令をだしただけでどこかへいってしまっているのか。

 だったら直接犯人を叩いて解消させる事は出来ないか。


「私達を戦わせ多くの血を流させた犯人は今はいないようですね」

「ああ、我々の知るニンゲンの姿は今はいないようだ」

「ニンゲンはここにいることそのものは少ない。おそらく我々の声が不快なのだろう」


 なるほど……まあすごくわかるよその気持ち。

 何が楽しくてこの不快音鳴り響く中にいなくちゃならないんだ。

 ニンゲンたちの耳がそこまで良くないしむしろ拾う音を選びにくいぶんキツイだろう。

 なら……今ならやれるか?


「さて、彼らの目を覚ますには一度倒す事だね。気絶させれば治ると思うよ」

「我々のように、か。クイーンが傷つくのは苦しいな……」

「ここは我慢の時。我々の行動成果で群れが滅ぶか生きるかの瀬戸際」


 雄鶏たちがぐっと翼に力をこめている。

 英雄になるためにはその爪を女王へ向けなければならない。

 そりゃ誰だって無理やり奮い立たなきゃつらいよな。


 それと懸念点がある。

 クイーンの周りにざっとみて先程より多い雄鶏たちがいるという事。

 50、60……もっといる?

 いくら臨戦体制の鳥籠ではないにしろ、どう考えてもアレは即死する。

 数の暴力!


「クイーンを攻撃すれば彼ら全員立ち塞がって、その間にクイーンが避難するんですよね」

「ああ、クイーンのためならみな命だって差し出す」

「それが我々の懸念なのだ……」


 道中でクイーンの事は細かく聴いていたが、きついなこれ……

 クイーンは戦闘はなるべくせずに雄鶏たちに任せる。

 そしてそのあいだにひよこと卵を避難させるそうだ。

 彼女自体は格闘能力に優れているしサイズ的にも脅威。

 だけれど魔法はあまり使わない。


 つまり1対1なら勝てる可能性は大きい。

 けれど彼女は群れを指揮して攻める。

 7対70ではボコボコにされる。

 どうするか……


「ふム、任せろ」


 悩んでいた私たちに案を授けたのは他でもないオジサンだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ