五百七十九生目 選剣
大ミミズをしりぞけついでに大会のポイントになりそうな品々を手に入れた。
偶然だがこれはうれしい。
空魔法"ストレージ"や魔法で拡張してあるバッグに中身を小分けして入れて再出発!
カルクックたちと共に虹の砂漠を駆けていく。
虹のロードがないところだと中途半端に色が切れていたり3色程度だったりするがその光景もまた目に面白い。
サボテンを食む魔物なんかもいてすごい。
あの針だらけの植物をよく食べられるな……
それはそうと砂漠はやはり全体的に動物が小型化している傾向がある。
たまにある植物は逆に巨大化傾向。
つまり駆け抜ける分には結構安全。
道中は砂シャチと砂大ミミズそれと砂ドラゴンくらいしか絡まれない。
砂シャチは相手が攻撃の機を伺っている瞬間に先手必勝で全員で叩けば勝てる。
砂大ミミズはやり方は変わらず私が引き付け超音波で混乱させ撤退させる。
砂ドラゴンはやや恐ろしいもののグレンくんの全力分身斬りと私の剣ゼロエネミーの何でも斬ってしまう力の前には勝てなかった。
やはりこの剣つよいな!
「その剣、変形したりなんでも斬っちゃってすごいよね! 良いなぁ」
「うん、持ち主の力に呼応して強くなるらしいんだ。本来は本当になんでも斬って……多分まだ力を引き出しきれてはいないかなって」
「ローズさんでも……? ちょ、ちょっと持ってみてもいいですか?」
そう。先日の一件以来この剣ゼロエネミーの真価を引き出し始めていた。
そもそもこの剣は元の話では何でも斬れる可能性を秘めていた。
私が"峰打ち"を多用し多くの場合剣で戦う事に防御的な意味合いを強く持たせていたために剣はくすぶっていたのだ。
いつも剣は使うだけで喜んでいるのが伝わるが本来はもっと攻める刃だ。
斬る力というのを信頼し頼ることできっといずれかは必殺の刃へと到達するだろうが……
とりあえず興奮しているグレンくんに持ってみてもらおう。
良いかな? 少し渡すよ? うん。すぐ返してもらうからね。
「はい、どうぞ」
「じゃあさっそくっ……!?」
ズシンッ。
あまりに重い音は剣が地面に落ちることで鳴らした音だった。
「おごごごご!? 持ち上がらないっ!!」
「え? そんなに重いかな?」
確かに私とグレンくんでは強さに差があるから重すぎたかもしれない。
……けどなあ。
そっと手を添え片手で持ち上げる。
「うーん……ほら、やっぱり軽い。自分の腕の延長みたいな軽さ」
「ええっ!? すっ、すごい……」
指を使ってクルクルと回してみたりして。
手のひらで剣身を受けて叩いてもそう重さは感じない。
「ああ、そういうことか……」
「オウカさん?」
「グレン君、ローズがこれを軽々持ち上げグレン君が重いのは、選ばれているかどうかだよ」
ああなるほど……
よくあるやつだ。
「あ、なんとなくわかりました……勇者の剣みたいに、持ち主だと認められているかどうかの違いなんですね。認められていないと引き抜くことすらできないとか」
「おお、相変わらず察しのいい! というかそんな情報よく知ってるね」
「うん! こういうの僕結構好きだから!」
……うん? 今なんか……一瞬だが。
ふだんのにおいにまじって何か……気持ちが変化して抑え込んだ時のにおいが誰かから……
まあ気のせいかな。
それよりもやはりその解釈であってたか。
剣ゼロエネミーはどうやら勇者に持たれたくないらしい。
勇者が持つのは勇者の剣だってことだね。
まあ今グレンくんがもっているのは……
「うーん、僕の剣はまだ使い捨てみたいなものしかないからなあ……」
「すぐに潰しちゃうものね、剣を」
グレンくんは武器の才能がある。
武器の才能がありすぎる。
武器に力を与え力を引き出しすぎてやがて砕ける。
そのためグレンくんは全身に武器を付ける以上に魔法で拡張した武器入れバッグにたくさんの予備がある。
鋼のきらめきはわずかな間に勇者の力でボロボロになってしまうのだ。
自身も武器も使い捨てにして結果勝つのがグレンくんだ。
だから恵みの泉持ち運び用が余裕のある時でないと下手に戦わせるのは危険。
もしもの時に全力を出しきれないからね。
こうまとめるとまだ勇者というより無謀者って感じだね。
砂ネコが穴から顔を出し私達が通り過ぎるのを見届けている。
そんな平和な光景を横目にカルクックにのってたどり着いた先は……
「お、良いオアシス!」
「ここで一旦休憩を取りましょう」
「あ〜、やっと落ち着いて水が飲める」
ダンとゴウの声にカルクックたちもお疲れの様子で話す。
もはや私達と話せるのはすっかり慣れた様子。
ここで休憩をとるようだ。
オアシスとは砂漠の中にある水場だ。
つまりは天国のようなスポット。
ここだけは背の高い木が実らせ草が生い茂り魔物たちは争いを避けて佇んでいる。