五百七十八生目 蚯蚓
「あそこワームと戦っているぞ!?」
「うわっ、景気いい当たり引いたな!」
「無駄口叩くな、今のうちに引き離すぞ!」
少し距離のある冒険者たちから感嘆符が聴こえる。
私達5人まとまっていればまるごと食べられそうなサイズのミミズ。
口しかない顔で見下ろして不気味かつ迫力満点。
何か鳴き声があるかと思ったが無音。
さらに目がない。
音を頼りに探るタイプかな。
[デザワーム 砂漠の砂を食べながら移動する大ミミズの1種。砂に含まれる微細な魔力や栄養をこそぎとりつつ少し肥えた土にして排出するため通った後は植物にとっては魅力的。何でも食べテリトリー侵入者にも容赦がないが消化できない物を腹部の器官にためこむため、一部ニンゲンに狩られる]
"観察"の強さは……どうやら[少し強い]程度。
それと当たりの意味が分かった。
倒せる実力あるなら効率よくおたからを稼げるのだろう。
今大会での魔物殺生は殲滅を行わないのと反撃に限って斃すことを許可されている。
狙う冒険者はいるだろう。
まあ私達は関係ないが。
「前へ出るよ!」
「追い払うから、少し時間ちょうだい!」
声と共に私達と大ミミズが動き出す。
音に反応したらしく勢いよく私達に向かって口を振り下ろす!
みな力強く踏み込んで跳び避けた!
そして大ミミズは砂地へ向かって思いっきりダイブする。
地響きを鳴らしながら長い身体をその更に下へと沈めていく。
掘り進んでいるんだ!
「うわっぷ!」
「今だ!」
近かったグレンくんに思いっきり砂がかかる。
かわりに攻めに飛び込んだのはダンとオウカ。
相手の胴を拳で殴り光から生み出した剣で裂く。
「あー、ちくしょうデカイ!」
「通ってるのか通ってないのか! 手応えがわからん!」
ブヨブヨとした肉体は想像以上に弾力がある。
確かに拳は肉体に吸い込まれ刃は皮膚を裂く。
ただ大きすぎてアカスリマッサージのようになっているみたいだ。
「くっ……地面か」
ゴウが弓をつがえるが狙う場所にまよっている。
ブヨブヨした身体は痛手には遠く頭は地面の中。
というより頭すら果たして大ミミズの弱点となりうるのか不明。
ゴウが放った矢は大ミミズの円状による絶妙な角度と巨体ゆえの素早い動きのせいでぬるりとそれる。
苦い顔をした。
だが相手は待ってくれない。
尾まで穴に入り砂でふさがったかと思うとすぐにゴウの近くで飛び出した!
勢いに煽られ砂煙をぶつけられるゴウ。
さらに続けて砂地へ潜りまた誰かの近くへ飛び出る。
「少しずつ正確になってきて……うっ!!」
「拡がるんだ!」
「くっそ、私の光の剣をタメている時間がない!」
あっちこっち顔だしてそのまま潜ってを繰り返すし身体は高速で動いているのでかなり厄介。
私も走って跳んでなんとか転がり避けつつ集中する。
こういう手合いが嫌うのは……音だ!
私が普段発声として使っている"サウンドウェーブ"。
元は光神術というスキルで魔法より制御が難しいが訓練すれば多くの事ができるようになる術スキル。
そのため今は発声黙して……かわりにヤツの苦手を探る!
みんなが砂まみれになっている間にこっちにも向かってきた!
後ろへ強く跳んで地面の下から飛び出してくる頭を避ける!
足をふんじばり両手を前に突き出し口を大きく開く!
「……!!!」
空気が揺れ光が歪み可視化される。
ニンゲンの可聴域を大きくこえた超音波を大出力!
間違えた方向に漏らすと私もひどいめにあうから前方向に集中!
大ミミズの頭に大きく被弾!
止まらなかった勢いが急ブレーキをかけ私の目の前まで迫る。
そして……止まった。
なにやら全身をモゴモゴ震えさせまさに怖気だったかのように硬直。
そしてその場で頭をグルグル振り回し明らかに苦しんでいる様子。
なんか怖いから走って距離を取る。
……大暴れしだした!
ワッチャワッチャと自身の身体を砂地に横からぶつけまくりそのあと潜って身体をねじり痛め自分で苦しんでる。
慌てて高速でこの土地から離れていく。
……口からいろんな物を撒き散らしながら。
「うわあっ!?」
「危ない!」
「おいおい!」
「ヒャア!?」
「わーっ!!」
私達みんな飛来物を必死に跳んで転がって避ける。
わずかな間に大ミミズはすごい勢いでどこかへ行ってしまった。
「ふうぅ……危なかったぁ」
「混乱してくれたのは良いけれど、あそこまで暴れるとは……」
「何を吐いたんだ!?」
そこら中に吐いた砂だらけのかたまり。
衝撃で崩れ見せた中身は……
「お、これは……遺物かな?」
「こっちは何かの金属だな」
「誰かの荷物もあるよ!」
どうやら例の体内にあるゴミだったらしい。
塊の玉として吐き出して攻撃するためにためこんであったのね。
たまたまだが十分な収穫品だ!