五百七十七生目 虹色
武の街内に存在する迷宮。
事前に話は聞いていたが実際目の当たりにすると少し怯んだ。
あまりに開けた光景。射し込んだ焼く日差し。目に痛いカラーが独占する殺風景。
「おおー! ココが砂漠の迷宮! もう暑いな! ハハッ!」
オウカが両腕を開き全身に光を浴びる。
あの鎧って発光はするものの反射はそんなにしないんだよね。
多分光を吸っているのだろう。たぶん。
弓のゴウに拳のダンそして勇者グレンくん。
私含んで5人パーティーでこの迷宮を目的地に向かって走るわけだ。
ただ今は続々とニンゲンたちが増えてきている。
なにせ大会だ。しかも大都会内だ。
迷宮内でこんな数のニンゲン見たことないと言い切れるほどに多い。
3ケタは少なくともいる。
増えていけば4ケタはいくかな。
年に1度しか解放されない砂漠の迷宮に遊びに来る民たちの大半は遊び半分だ。
帝国は冒険者業が劣勢なのでだいたいはこの中で潮干狩りよろしく危険の浅い区域で宝探しを堪能するそうだ。
「さあさあ、砂漠の土地は広い! とても歩いて渡れないよー! うちの特製カルクックたちなら熱の変動に強く砂地を疲れず蹴れる!」
そして商売も始まる。
屋台もそうだがこういった『本気の相手』向け商売も行われるわけだ。
早速オウカがレンタルの交渉をしだした。
私達はその横にかたまり事前準備した砂漠対策をほどこしている。
熱さに火魔法をいじったものを施し乾燥に水魔法を加工したものといった様子で行う。
私水魔法使えないし常に私が魔法をかけるわけにもいかないしね。
「熱処理、水分、砂地戦闘対策、黄砂塵防御、食料……それに簡易安全地確保用品、緊急時転移帰還道具……あれと……それと……」
「よし! 大体揃ったね!」
「行こう!」
ゴウが指さし確認を終えカルクックの方も準備万端だ。
カルクックは烏骨鶏ながらひとり乗れる程度に大きい魔物でこの世界の馬役である。
馬はいるが魔物の方が全体的に強いので仕方ない。
カルクックを見ると普通の騎乗セットの他に頭から垂れ下がる柔らかそうな布と足に履く付け爪が広いことに気付いた。
というよりもはや靴だ。
なるほど靴は沈まない加工が……魔力を感じる。
「あ〜、よ〜しくなっ、ね〜ちゃん」
カルクックはこちらは言葉がわからないと踏んでダルそうに言葉をかけてきた。
なんというか。まあ。
「うん、よろしくね! カルクックさん」
「…………ガッ!? 言葉、ええ〜……」
「わかるし喋れるよ」
「ま、マジか〜……やりづれぇ。転職して〜」
さすがに今転職は困るからそれはあとにしてもらおう。
もうさすがにカルクックに乗るのはなれたぞ。
さっと乗り込んで出発!
この砂漠は。虹である。
いやあんまり比喩的な意味ではない。
確かに黄砂は多いのだがそれ以上にグラデーションしていてカラーが豊富なのだ。
魔力保有量やら魔力種類やら重さやら何から何まで違う砂がたくさんありそれが七色にわかれ景色を飾る。
砂同士が反発しあいきれいに混ざらずだいたい層になっていて斜面はそれがよく見えるのだ。
虹色に彩られる世界は美しい。
「これはまた、凄まじいねー!」
「話には聞いていましたけれど!」
「虹のロードだー!」
そして運が良いと曲面がなだらかに続き何度もカーブを繰り返していく上を走れる。
通称虹のロード。
強い風によって地形が頻繁にかわるこの迷宮では貴重な景色だ。
「そろそろ……危険域に突入するようだぜ」
「魔力はちゃんと追えてるー?」
「うん、そこは大丈夫」
兵士たちがある程度魔物よけしておいた区域をそろそろ出る。
その先からは過酷な環境を生き抜く魔物たちの洗礼が待つだろう。
私は魔法記述をしっかり発動させて隠蔽してある魔力線を暴きつつしっかり追う。
方向さえしっかり見失わないようにすればおそらく砂漠では大丈夫なはずだ。
それは帰りのことも含む。
虹のロード光景にお別れをつげつつ手綱を強く握り直した。
危険域。
ここから先は兵士たちの手入れがされておらず『本気』の面々が踏み入れる場所。
魔物のすみかだ。
私達と同じ方向に来た冒険者風の者たちも何組か見かける。
軽く挨拶をかわしつつライバルを装い本来の役目を果たそう。
「……? あっ!」
「うん?」
「地中から何かが来ます!」
掘り進む音が聞こえた。
魔法により作っている脳内レーダーに敵対反応。
早速おでましだ。
全員カルクックから飛び降りて各々の武器を構える。
カルクックは慣れた脚付きで反転し距離をとった。
戦闘があることは前提だから訓練されているのだ。
地面が揺れ……飛び出す!
さっきまでカルクックたちがいた所だ。
飛び出したそれは……胴が異様に長く口は私達全員を食べられるほどに大きいミミズ。
「ワームだ!!」