五百七十六生目 山岳
こんにちは、私です。
今日は大陸の方にきている。
しかも帝都を除く3大都市のひとつにきているよ。
私が前攻略したのは商いの街。
今回の街は……勇者グレンくんたち1行が向かったところだ。
そしてそれは。山の中にある。
高いというより急勾配な崖が特長的な山を切り開き難攻不落でありながら立派な城と100万人を超えるニンゲンたちが住まう都市。
山1つが街という贅沢なつくりのここは一般的に『武の街』と呼ばれていた。
今私は大型滑車を使った崖の上下を繋ぐ運搬籠に乗って揺られている。
まあ言ってしまえばロープウェイだ。
急勾配が多いためこの街の移動手段は主にこれである。
"変装"で姿をホリハリーに近くしてニンゲンに紛れている。
服はいつもの冒険服。
剣ゼロエネミーも鞘に入れて背負っているよ。
この街が出来た当初は山のなかでも危険な崖上を切り開き難攻不落の砦として機能していたとか。
それが戦争の終わりと共に城下町が広がり山ひとつを飲み込んだ。
この街全体の方向である『強く逞しく生きる』というのをそのまま表したかのようだ。
ロープウェイから見下ろす景色の圧巻さ。一度は見ておきたい景色ってやつだ。
ニンゲンの力をしっかりと見せつけられる。
アノニマルースもこんな風に発展していけたら……だなんて思わざるおえない。
ロープウェイが停止して外に降りる。
そこで待っていた人影4人。
「やあ」「ウッス!」「こんにちは」「こんちはー!」
「こんにちはー」
勇者グレンくんと冒険者一行だ。
「あの戦争は楽しかったよ。ああいう類のならまた呼んでね」
今は抑えてあるが全身光を固めたような鎧を着込んだオウカ・ロク。
中の人は歴戦のおばあさんである。
「ありゃあ血なまぐさく無くて良かったな!」
豪快に笑い自慢の拳を合わせ鳴らすのはダン。
ミノタウロスのような角が特徴的。
「それでも私達は戦争屋じゃあないんですからね。そうやすやすと参加しないでください」
人狼のような風貌の弓兵であるゴウ。
彼はこのパーティーのまとめ役だ。
そして……
「でも……少しでも役にたてたのなら嬉しい限り!」
勇者グレンくんだ。
グレンくんのその顔は……まだ幼さを保っていた。
それでも子供から少年へと変化した面付きはどことなくキリッとして同時に柔らかい印象をうける。
背丈だけはそこそこ伸びているあたり中学生付近のようだ。
これでもまだ出会って1年たたない間に小さな子どもからここまで成長した。
もちろんこの世界のニンゲンとしても普通ではない。
勇者だけの力でレベルの成長と共に肉体が育っていくというものだ。
勇者の登場はほぼイコールで魔王の復活間近だとされている。
つまりはグレンくんは世界に急かされているのだ。
魔王と対になる存在へと変貌するように。
そのことに関する心配は一旦置いておく。
今は……
「ほんと、みんなありがとう。それで……今回は私が役に立つ番だよね」
「ああ。ほんとーっに困っていたからね」
この街にある魔力送信器の破壊が優先だ。
魔力送信器は帝都の結界を維持するために3つの大都市の方向から送られていた。
商いの街は破壊済み。
そして今回は武の街なのだが……
「場所は特定できたんですけれどね……」
「この山の中……つまりは武の街中にある迷宮の中ってのはなんとかな。だが普段は一般的には入れてくれないとはな!」
「つまり隠すにはもってこい……だね」
私達は軽食屋の外席で話の整理をしていた。
ゴウとダンそれにグレンくんの言う通り厄介な位置にあることはわかった。
「ウォンレイ王の指輪ではダメでしたもんね」
「ああ。門前払いだ。そのかわり有益な情報はタダでもらえたよ」
オウカがテーブルの上にチラシを置く。
それは明日開催されるとある大会。
「挑め、大迷宮! 大探検祭……毎年この秋近くに開催して……参加人数は5人1チーム……か」
「そこなら誰にも咎められず潜入できるが……人数がな」
「5人必要だったんです」
「数埋めってやつだね」
知ってはいたけどこれ私じゃなくても良いんじゃないかな!
いやまあ迷宮探索には知った相手で足の引っ張り合いにならずしかも恩を売ってあって気軽に呼び出せる個人の相手って限られるけれど。
こうして私は大会へと5人で挑むこととなった。
ルールはかんたん。
希少品をたくさん持ち帰りポイントを稼いだもの勝ちだ。
こっちは私達にとってオマケだが……
この間に魔力線を追って探し当てる必要がある。
迷宮内に多くの人数が入り込む事になるが惑わされず集中して追おう。
そして翌日。
武の街の一角にたくさんのニンゲンが集い。
号令と共に門扉が開け放たれ順に階段を下った。
始まりだ!