五百七十五生目 焼鳥
エポニードが条件付き執行猶予でアノニマルースはじめての裁判が終わった。
なのでエポニードを迎えにきたのだが……
細長い黒檀の身体を折り曲げ実に疑問を持つと全身で表していた。
「……ええと? 質問なら答えるよ」
「なななぜワタシは殺されない?」
「いやあ、だって裁判の結果だし」
さらに大きく身体を曲げる。
見ている方が折れそうで恐い。
「ごご拷問は? 私刑は? 食事に毒は?」
「しないよ!? 何そのこわいの!? ……情報なら普通に聞き出しがあったでしょ。拷問自体ロクでもないし、拷問は聞き出した情報は信憑性に疑問が生じるしね。なにせあることないこと吐いた方が有利なのは、すぐにわかっちゃうし」
「ままあ、そのさいのダミーは用意してあった」
「リンチや食事に毒も同様で必要性がまったくないし、刑はちゃんと今執行されている。今このときも反省をうながしているの。わかった?」
「……フム?」
ギリギリと音をたてた後弾かれるようにもとの姿勢に戻る。
おっ折れなかった……
ただイマイチ納得はしきってないようだけれど。
質素だが住居とこのアノニマルースのシステムなどの説明。
食事の買い方とか法律とかね。
そして現在は職業斡旋。
「うむ、やはりこやつの面倒は私が見ます!」
「どうする?」
「…………は働きたくない。カエリラスに戻りたい」
「ほら主、こやつまだ魔王復活諦めてないんですよ。1から鍛えなおしてやりますんで、ぜひ!」
うーんアヅキの熱意はありがたい。
だがエポニードのやる気はまったくない。
発言も危うい。
「そもそもなんで、カエリラスで魔王を復活させようとするの?」
「…………」
「こやつそれに関しては今だどこでも話してないようですね」
裁判のときも話には出たが結局動機は明かされなかった。
これはまあ誰にも心を許していないからだろう。
「まあ、とにかく職業体験ということでアヅキについてみて。アヅキは、元は敵とは言え異様な指導を行わないように。常識的に通常範囲で接してあげて」
「ええ! 主の顔に泥を塗ることはしません!」
「ふふ不安……」
アヅキがビシッと決めエポニードは肩を落とす。
……あれ。そういえば……
「そういやあ、あの鳥型怨霊はどうしたの?」
「ああ、やきとりの事ですか?」
「やきと……ええっ!?」
「アイツの名前ですよ。よびづらかったので」
ひどい名前だ……
というか鬼だ。
「ええと……その……ゃきとりはどうしたの?」
うん。キトリって呼ぶことにしよう……
「やつにももちろんそこで働いてもらってますよ。ほら」
アヅキが指した先は一見何の変哲もない調理中フライパン。
下には火が……あれ?
何かがおかしい。
あそこにいるのは……そう。
黒い霧が固まって出来たような怨霊。
それが抽象的な小鳥の姿を得ている。
ついでに尾羽根から中火が放出されながら。
「チチィ」
「やきとりは火力担当です。もともと炎は得意分野のようですからね」
「う、うん……キトリ、頑張ってるね……」
まさかのコンロ役とは……
エポニードもまた身体を捻じ曲げて身体でクエッションマークを作りそうだった。
エポニードに関しては様子見段階。
今の所おとなしく働いていてる。
逆におとなしくなく困ったことになっている方がある。
アノニマルースで管理しているアヘン漬けだった少女だ。
ドラーグ10%の姿にべったりでアヘンを抜いた後遺症に苦しんでいたのは前の姿。
ドラーグが前線に出るために100%の姿……つまり分身を全て無くして集めた姿になったあと問題が生じた。
泣きながら探して歩き回る姿だった。
ただ歩くならともかく最初は目を話していたときに完全に失踪した。
数時間後けが人たちと紛れていたのを発見されたが……ずっと泣いていたらしい。
ドラーグは伝えていたらしいがうまくきいてはくれなかった。
この日から今日までこの『あるきまわる』『泣く』『たどたどしい言語を紡ぐ』という方向へ変化した。
それで気付いたことがひとつ。
彼女はドラーグ以外にも反応する。
というよりシルエットが巨体気味なら話しかけるのだ。
なにか理由があるのか……
そして泣く理由は後遺症がメイン。
アヘンにより脳の快楽物質まわりが変化してしまった結果だ。
かんたんに言うと気分が上向くあらゆることが薬品を通していないと感じられない。
ゆえにどうしても制御できずどんどん気分が沈みうつ思考になる。
「うえぇ……! 助けて……! 助けてよ……!」
「いつか……いつか治るよ……」
あやすドラーグの言葉も虚しく。しくしくと涙は溢れる。
あれはある意味厄介で治ってはいるのだ。
そして今後基本的に和らげることはできても戻すことは難しい。
ただ……彼女がもしももっと自発的活動ができるようになれば。
必ずとか逆転の一手とかはないが。
ほんの少しの可能性をつたえるかもしれない。